「はたらく細胞」|清水茜(原作者)×鈴木健一(監督)対談 背景までもが主役。原作に描かれない細部まで拾いあげたアニメへのこだわり

赤血球に白血球、血小板にT細胞、マクロファージに好塩基球。人体に37兆個以上いると言われる細胞たちが、今日も力を合わせてあなたの体の中ではたらき、外敵から体を守っている。そんな細胞たちの日常と知られざる闘いを描いた、前代未聞の体内細胞擬人化マンガ「はたらく細胞」が、7月からテレビアニメとなり放送される。

コミックナタリーでは、原作者である清水茜とアニメで監督を務める鈴木健一の初対談をセッティング。個性あふれる細胞たちの魅力から、アニメ制作に対するこだわりまで語り合ってもらった。

取材・文 / 的場容子

誰もやったことのない作品を手がけたい

──「はたらく細胞」のアニメ化、おめでとうございます。清水さんはアニメ化の第1報を聞いたとき、どんなお気持ちでしたか?

テレビアニメ「はたらく細胞」より、花澤香菜演じる赤血球。血液循環により、酸素を体内に届け、二酸化炭素を肺に運搬する。

清水茜 担当さんからお話を聞いたんですが、全然実感というか、当事者意識みたいなものが芽生えなかったのを覚えています(笑)。

──ご自身が創作したキャラが動いているって、なかなか味わえない経験だと思うのですが、どんな感覚でしょう。

清水 動いて音が付くと、こんなすごいことになるんだ!ってびっくりしました。メインの登場人物の活躍ももちろんなんですけど、彼らの後ろで、ワイワイガヤガヤ言っている細胞さんたちの声が実際に入ると、こんなに楽しい感じになるんだなと驚きましたね。

──私も1話を拝見しましたが、あのワイガヤ感は細胞たちが働くリアルな“現場感”を醸し出していますよね。鈴木監督はアニメ化のお話が来たとき、どう思われたのでしょう。

鈴木健一 お恥ずかしながら、お話が来てから初めて原作を読んだんですが、まず細胞の擬人化っていうインパクトがすごい(笑)。とても面白く読ませてもらいましたね。なかなかほかにない作品だと思ったので、「ぜひ、やらせてください」と。

──どんなところに魅力を感じたのでしょうか。

「はたらく細胞」1巻より。

鈴木 いろいろあると思うんですが、やっぱり細胞擬人化というのが大きいですね。それもキャラだけじゃなくて、世界観としての擬人化というところがすごく面白い。細胞が働く世界にも建物や貼り紙があったり、普通に生活感があって、そのディテールのリアルさも魅力だと思います。

清水 ありがとうございます。

鈴木 僕は基本的に、誰もやったことのないような作品を手がけたいと思っているので、そういう意味でもぜひやりたいなと。ただ同時に、これまでは濃い作品と言いますか、男臭い作品ばかりやってきたので(笑)果たして作品テイスト的に僕が「はたらく細胞」の監督をしていいものだろうか、とも思いましたね。

──確かに「はたらく細胞」は女子キャラたちがかわいらしかったり、全体的に世界観がさわやかですものね。

鈴木 そうなんです。だから「シリーズ構成はぜひ女性にしてください」というお願いをして、柿原優子さんにやっていただくことになりました。制作スタッフに女性が入ってもらうことで、僕が素で作品を作ったときの男臭さとのバランスが取れればと思って。色遣いや表現方法、あるいはキャラの行動という点で、原作の持ち味であるキャラのかわいらしさやカッコよさをどうアニメで再現するかを考えると、やはり女性陣の感性が大事になってくると思うんです。どうしても僕は、気持ち悪いものを「カッコいい」と思ってしまう傾向があるので(笑)。

テレビアニメ「はたらく細胞」より、細菌を倒す白血球。 テレビアニメ「はたらく細胞」より、細菌を倒す白血球。

清水 そうなんですね(笑)。細菌やウイルスたちがすごくいい感じなのはそのおかげですね。

鈴木 女性陣に「気持ち悪い?」と聞いて「気持ち悪いです!」と返ってきたら、ちょっと控えめにするとか。いろいろ気を付けて作っています。

──清水先生の描く女の子ってかわいらしいですからね。「はたらく細胞」では、細菌の攻撃や、細胞が細菌を駆逐する戦闘シーンも見せ場のひとつだと思うのですが、そういったアクションシーンの臨場感やダイナミックさは鈴木監督ならではの表現になるのでは。

鈴木 そこは得意な部分なので、思いっきりやらせてもらいます(笑)。

清水先生の絵は、“ハイライトが四角”!

──アニメにするにあたり、難しかったところはありましたか?

鈴木 たくさんありますよ……(笑)。まず原作の1話と、最近のお話の絵を比べてみると、結構描き方が変わってきているんです。だからどれが現状の「はたらく細胞」のアベレージなのか、というのをキャラクターデザイナー(総作画監督)の吉田(隆彦)さんと話しました。

清水 すみません、初期と今だと結構絵柄変わってますよね(笑)。

鈴木 (笑)。いろいろ検証した結果、例えば清水先生のキャラクターって、瞳のハイライトが四角なんですよ。吉田さんとも、「四角のハイライトは面白いから、アニメでもやろう」と盛り上がって、実際にそれは取り入れています。

清水 それ、私も意識していなかったです。今言われてハッとしました。

「はたらく細胞」1巻より、赤血球の瞳のハイライト。

鈴木 (1巻を見ながら)赤血球なんかがわかりやすいのですが、瞳の白いところ。ハイライトは普通、丸く入れることが多いと思うんですが、清水先生は四角なんです。

──先生自身も気付いていない癖を分析して、特徴付けされていくんですね。

鈴木 細かいところまで見てしまうのは、アニメに携わる人間の職業病ですね(笑)。やっぱり視聴者には、「アニメも清水さんの絵で動いてる!」と思ってもらいたいので、マンガにどんな癖があるかは、キャラデザの吉田さんや、玉置(敬子、サブキャラクターデザイン)さんと話し合いました。

テレビアニメ「はたらく細胞」
放送情報

TOKYO MX:2018年7月7日(土)24:00~
とちぎテレビ:2018年7月7日(土)24:00~
群馬テレビ:2018年7月7日(土)24:00~
BS11:2018年7月7日(土)24:00~
MBS:2018年7月7日(土)26:38~
テレビ愛知:2018年7月7日(土)25:50~
北海道放送:2018年7月7日(土)26:38~
RKB毎日放送:2018年7月8日(日)26:25~
AT-X:2018年7月10日(火)23:00~

スタッフ

原作:清水茜(講談社「月刊少年シリウス」連載)
監督:鈴木健一
シリーズ構成:柿原優子
脚本:柿原優子、鈴木健一
キャラクターデザイン:吉田隆彦
細菌キャラクターデザイン・プロップデザイン・アクション作画監督:三室健太
サブキャラクターデザイン:玉置敬子
総作画監督:吉田隆彦、玉置敬子
美術監督:若林里沙(アトリエPlatz)
美術設定:曽野由大、橋口コウジ
音響監督:明田川仁
音楽:末廣健一郎、MAYUKO
アニメーション制作:david production
製作:アニプレックス、講談社、david production

キャスト

赤血球:花澤香菜
白血球(好中球):前野智昭
キラーT細胞:小野大輔
マクロファージ:井上喜久子
血小板:長縄まりあ
ヘルパーT細胞:櫻井孝宏
制御性T細胞:早見沙織
樹状細胞:岡本信彦
記憶細胞:中村悠一
B細胞:千葉翔也
好酸球:M・A・O
マスト細胞(肥満細胞):川澄綾子
先輩赤血球:遠藤綾
肺炎球菌:吉野裕行
ナレーション:能登麻美子
ほか

清水茜「はたらく細胞①~⑤」
発売中 / 講談社
清水茜(シミズアカネ)
清水茜
1994年生まれ。東京都出身。第27回少年シリウス新人賞にて大賞を受賞。月刊少年シリウス2015年3月号(講談社)より「はたらく細胞」を連載中。
鈴木健一(スズキケンイチ)
アニメーション監督・演出家。「HELLSING OVA」や「SD ガンダム三国伝 Brave Battle Warrious」では監督を務めたほか、テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」でもシリーズディレクターを手がける。