「鋼の錬金術師」|キャッホー!みんなで祭りを楽しもう!原作者・荒川弘も思わずグッと来た“新たなハガレン”

荒川弘が振り返るマンガ「鋼の錬金術師」

──「鋼の錬金術師」は完結から7年経った今でも世界中のファンに愛されていて、実写映画化が発表された際も大きな反響がありました(参照:「鋼の錬金術師」実写映画化!エド役は山田涼介、2017年冬に公開)。そもそも荒川さんが「鋼」を描きたいと思ったきっかけはなんだったんですか?

壁とか床から好きなものをもりもり出せたら楽しいなっていう、最初は単純に絵面的に楽しいマンガが描けたらいいなと思っていたんです。そこからいろいろ調べていくうちに“錬金術”だったり“賢者の石”にたどり着いて。オカルト的な要素もあるんですけど、私はもともとムーとかその辺で育ってきているので(笑)。調べていくうちに「錬金術って面白いな」と思って、そういった要素を組み合わせていきました。そうすると、やっぱりホムンクルスとか命に関わる要素も見逃せなくなってくるので、そこはちゃんと描こうかなと。命に関わることや、「生きることはどういうことなのか」という哲学的な部分が柱になって、ストーリーを膨らませていきました。

「鋼の錬金術師」第1話の冒頭シーン。©Hiromu Arakawa/SQUARE ENIX

──重厚な人間ドラマも「鋼の錬金術師」の魅力だと思います。

「鋼」ってオープニングから結構ハードですよね。1人は身体の一部を持っていかれて、1人は体の全部を持っていかれるという。そうなると精神的にも深いところに入っていかざるを得ないことになってしまって。自分の好きな明るい少年マンガから離れていく感じがあったので、なるべく読者さんにもどんよりとした読後感を与えないようにということは考えながら描いていきました。合間にコミカルな要素を入れたり、休憩になるようなシーンを入れてみたりとか。そのバランスを意識しながら描いていたので、結果的にああいうノリになりました。

──シリアスな展開の中にも、重くなりすぎないコミカルな要素が含まれているところが「鋼の錬金術師」が多くの人に愛されている理由のひとつだと思います。以前、完結直後に掲載された雑誌のインタビューで、「荒川さんが思う作品の最大の魅力は?」という質問に、荒川さんは「まったくわからないです」と答えられていたんですよ。

あはは(笑)。

──あれから7年経ち、実写映画という違った媒体で作品をご覧になって、多少客観的に見られるようになった部分もあるのかなと思うんですが、改めて「鋼の錬金術師」がこれだけ愛されている理由はどこにあると感じますか?

どこなのかな……。アニメでもゲームでも今回の映画でも、“兄弟愛”や“兄弟の絆”の部分を膨らませていただくことが多くて、客観的に見たらそこなのかなとは思います。

「鋼の錬金術師」22巻より。危険を顧みず、自ら敵地に飛び込むことを決意するアル。©Hiromu Arakawa/SQUARE ENIX

──荒川さんとしても、そこは大切にしたいと思って描いた部分だったのでしょうか。

禁忌とされる人体錬成を、兄弟で行ってしまったがために罪を背負っている。その自覚をちゃんと持った2人なので、お互いを大事にしなきゃいけないと感じているところはもちろん大切にしています。ただ私としてはエドはエド、アルはアル、一個人として立っていてほしいので、“「鋼の錬金術師」の弟”ではなく、アルフォンスはアルフォンスとして描いていました。原作の中でも兄弟で分かれて作戦を立てて、アルフォンス自身が「自分がやらなきゃ」とグイグイ進んでいくシーンもありました。エドはちょっと弟を心配する様子も見せましたけど、エドとアルがお互いを尊重する、みたいな部分は大切にしていましたね。

お祭りを作ってくれてありがとう!

──今回の映画では、入場者プレゼントとして描き下ろしの新作エピソードが収録された「特別編コミックス」が配布されます(参照:荒川弘描き下ろしの「鋼の錬金術師」新作エピソード、映画の入場者特典に)。

「映画公開記念『鋼の錬金術師展』」ビジュアル ©2017 Hiromu Arakawa/SQUARE ENIX

ちゃんとしたストーリーを描くのは7年ぶりくらいになりますかね。最初は「描けるのかな」「絵、変わってないかな?」って心配でした(笑)。キャラクターの感覚はすぐ戻ってくるから大丈夫なんですけど、絵柄はどんどん変わっていってしまいますからね。この間「鋼の錬金術師展」用に少し描きましたけど、そんなに変わってなかったから安心しました(笑)。

──今年は映画のほかにも「鋼の錬金術師展」があったり、新作エピソードを描き下ろしたりと、改めて作品と向き合う時間も増えたと思います。連載当時と比べてみて、作品との向き合い方に変化はありましたか?

連載当時は当事者の自覚がありましたけど、今は周りが盛り上げてくださってて、私がそれに乗っからせてもらってる感じなので、意外と当事者感が薄いかもしれない。「お祭りだー! キャッホー!」みたいな(笑)。「お祭りを作ってくれてありがとう! 一緒に盛り上がらせてもらいまっせー!」みたいな感じかな。

──荒川さん自身が一番楽しんでいるような感じですね(笑)。やっぱり「鋼の錬金術師」ってすごく人気のある作品なので、実写化となるとちょっと不安に感じる方も少なくないと思うんです。

私は自分が読んでいるマンガが実写化されるときも「新しい●●が観られるぞ!」って思うタイプなんですよね。原作と違うなと思っても、「えー、イメージと違う」とかじゃなくて、「あ、こうきたか!」って違いを楽しんじゃうほうで。「作り手がどういう意図でこのシーンを作ったのかな」とか考えるのも楽しいんですよ。

──なるほど。少しクリエイター目線が入っている感じがしますね。

映画「鋼の錬金術師」場面写真

作り手側の視点なのかもしれないですね。原作とは違った要素が入っていると、新しいものを作ろうっていう気概を感じるんです。そもそも実写化すること自体が新しいものに挑戦しようっていう、フロンティアスピリットのような精神を感じますし。「鋼」もアニメ、ゲームと展開がありましたけど、もしかしたら実写以外にもさらなる違うものが生まれてくるかもしれない。でも、その都度その都度、たぶん私は楽しみに見てしまうんだろうなと思います(笑)。でもそうか、みんなの中にはエドとアルというキャラクター像がしっかりできあがっているから、不安になってしまうのか。

──荒川さんのエドとアルがずっと生きているんだと思います。

それだけみんな読み込んでくれてるってことですよね。ありがたいことです。原作は原作、アニメはアニメで皆さんの中にある確固たるものが壊れるわけではないですから、「お? 新たなチャレンジャーがきたぞ?」くらいの気軽な感じで楽しんでもらえたらいいんじゃないのかなと思うんです。

映画「鋼の錬金術師」場面写真

──そういう意味では、荒川さん自身が「お祭りだー!」って楽しんでるわけですから、みんなで一緒にその祭りに乗っかるぞ!くらいの気持ちでいいのかもしれないですね。

そうそう、お祭りですから。私は映画館で映画を観るのが好きなので、もっと映画が盛り上がるといいなと思ってるんですよ。今回の映画も山田さんのファンというところから「鋼の錬金術師」を観てくださる方もいらっしゃるでしょうし、そういった方に「あ、面白いな」と思ってもらえたら原作を読んでいただけるのもいいですし、アニメを観ていただくのもいい。出演されている俳優さんのほかの映画を観てもらうのもいいですよね。そうやっていろいろなところで盛り上がって、映画にも何回でも足を運んでいただけたらうれしいです。

「鋼の錬金術師」
2017年12月1日(金)全国公開
あらすじ

幼い頃に最愛の母親を亡くした兄エドと弟アル。彼らは母親を生き返らせるため、錬金術における最大の禁忌(タブー)・人体錬成に挑んだ。しかし錬成は失敗に終わり、エドは左脚を、アルは身体のすべてを代価として失ってしまう。瀕死のエドはとっさに再錬成を行い、自分の右腕と引き換えにアルの魂を鎧に定着させることに成功した。それから数年後、鋼鉄の義肢を装着し国家錬金術師となったエドは、奪われたすべてを取り戻すためにアルと旅を続けている。

スタッフ
  • 監督:曽利文彦
  • 原作:荒川弘「鋼の錬金術師」(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
キャスト
  • エド:山田涼介
  • ウィンリィ:本田翼
  • マスタング:ディーン・フジオカ
  • ホークアイ:蓮佛美沙子
  • エンヴィー:本郷奏多
  • マルコー:國村隼
  • コーネロ:石丸謙二郎
  • グレイシア・ヒューズ:原田夏希
  • グラトニー:内山信二
  • ロス:夏菜
  • タッカー:大泉洋(特別出演)
  • マース・ヒューズ:佐藤隆太
  • ハクロ:小日向文世
  • ラスト:松雪泰子
荒川弘「鋼の錬金術師①」
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荒川弘(アラカワヒロム)
荒川弘
1973年5月8日生まれ。北海道出身の女性。1999年に月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)にて「STRAY DOG」でデビュー。同誌での初連載「鋼の錬金術師」が雑誌の看板になるほどの大ヒットとなり、アニメ、劇場アニメ、ゲームなど多メディアでの展開が行われた。2003年には第49回小学館漫画賞少年向け部門を受賞。2011年には週刊少年サンデー(小学館)にて、初の週刊連載作品「銀の匙 Silver Spoon」を開始した。2017年12月には、山田涼介(Hey! Say! JUMP)主演による実写映画「鋼の錬金術師」が公開される。自画像として牛を使用するのは、実家が牧場経営なことと、丑年生まれで牡牛座であることに由来する。