「ふくしままっぷ」ブランドムービー第2弾|アニメーション監督 片渕須直「ふくふくの地図」人が未来を見るときに、本来あるべき祝福を

登場人物の1人ひとりと出会ってしまったから

──「ふくふくの地図」に限らず、監督の作品は日本を舞台にしたものが多く、美術面でのリアリティを評価されることも多いと思います。ただ個人的には片渕監督に“日本の風景を描きたい”みたいな意図があるという感じがあまりしなくて、それは風景というよりは、そこに流れる時間や営みとして捉えているからなんだな、と今日のお話を伺っていて感じました。

ああ、そうですね。例えば福島だと「田んぼがどこまでも広がる気持ちよい風景」と見てしまうと思うんですが、それだって人が全部介在して存在してる。「来週には、この全部を人の手で刈り取るんだ」と思っちゃったんですね。そして、この広さを人の手で開拓してきた歴史もある。観念で描かないということは大事にしています。

「ふくふくの地図」より。

「ふくふくの地図」より。

──もう1つ伺いたかったのが、そういったリサーチでも、実際の制作作業でも、時間と労力をかけてリアリティを追求する、そのモチベーションについてです。優劣をつけるものではなく、何年も1つの作品を作り続けるというやり方を選ばないクリエイターの方もいらっしゃると思うんですね。その中で、片渕さんがそれをやるモチベーションはどこにあるんでしょうか。

それはもう、1つしかなくて。作り手である自分が、まだどこにも存在できないでいる登場人物の1人ひとりと出会ってしまったから。この人たちをまっとうさせてあげたい、っていう気持ちですね。ソフィーも、やがてできあがってみたら、「あ、ああいう人いるよね」って感じがして、皆さんの中に存在するものになるはず。そしてその人たちと、今度は観客の人たちの中で生き続けてほしいと思うからですね。

──なるほど。監督の中で作りながら「いる人」になっていく、そしてその人が観客である私たちと出会って、より「いる人」になっていく。

はい。アニメーションとしての動きを作っていくと、原画を描いて動画を描いて、普通それで完成なんですけど、ここをもうちょっとこうやったら生きてる人になる、ほんのちょっとしたことでより生きてるように見える、そういうことをしてるわけです。ソフィーも人柄やしゃべり方とかもそうなんですけど、動くときこう動くんだな、っていうことをやっていくと、どんどん生きている人になっていくんですね。

──そうやって手をかけていったキャラクターたちは、監督にとってはどういう存在なんでしょうか。子供なのか、友達なのか……。

ああ、友達が近いですね。自分が生み出したっていう感じじゃなくて、出会ったっていう感じが強いですから。「この世界の片隅に」のすずさんとかもそうですが、「あいつ、今頃どうしてんのかなあ」なんて思ったりしますよ(笑)。

──そう思うと、ソフィーの今後も気になりますね。また福島を訪れることもあるのかもしれません。

そうですね。ソフィーは福島の端から端までを1日で回っているので、たぶん何かの魔法の力で回ってるんだと思いますが(笑)。自分の中にもまだ、何日かかってでもいいからこれを全部見たいっていう気持ちがありますね。

「ふくふくの地図」より。

「ふくふくの地図」より。

──この距離を1日で回れるのはアニメーションの醍醐味ですが、「ふくふくの地図」をきっかけに、実際に福島に行ってみたくなる人ももちろんいると思います。

これで興味を持って福島に来られるのももちろんいいでしょうし、ご自分が住んでらっしゃるところや、別の地方を見て回ろうっていうきっかけになってもいいんじゃないかなと思います。福島に行く機会があるなしに関係なく、人が住んでいる地方に対するアプローチの仕方として、いろんな場所で見ていただけるとありがたいかなと。「ふくしままっぷ」にはいろんな場所にいろんな物があって、いろんな出会いがあるっていうのが込められてますので、ぜひそういう出会いと発見の旅に出ていただきたいなと思ってます。

片渕須直監督

片渕須直監督

プロフィール

片渕須直(カタブチスナオ)

1960年8月10日生まれ、大阪府出身。アニメーション映画監督、日本大学芸術学部特任教授・上席研究員。日本大学芸術学部に在学中、TVアニメ「名探偵ホームズ」の脚本に参加。1996年、「世界名作劇場」枠の「名犬ラッシー」で監督デビューを果たす。主な監督作に「アリーテ姫」「マイマイ新子と千年の魔法」「この世界の片隅に」「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」がある。現在は清少納言を題材に、疫病の中に生きる1000年前の人々を描く「つるばみ色のなぎ子たち」を制作中。