「フルーツバスケットanother」|「フルバ以上に、弱い人の心に寄り添う物語」横槍メンゴが続編・フルバナに“ありがとうなきもち”

親戚のような気持ちで読める「フルバナ」

──そんな「フルバ」の続編が「フルーツバスケットanother」(以下、フルバナ)。この3月に、3巻が発売します。

「フルーツバスケットanother」イラスト

「みんな、読んだほうがいいよ! 本当にーーー!」と、思いながら追いかけています(笑)。3巻もやばかったです!

──透たちが在籍していた頃から数十年が経った海原高校を舞台に展開される「フルバナ」は、透とはかなり対照的なキャラクター・三苫彩葉(みとまさわ)の視点で進む物語となります。

新しいと思ったのは、前作のキャラクターたちの成長した姿を一切出さないこと。ファンとしては「あのキャラが出てくる!」を期待しちゃう気持ちもあるけど、それをやらない。それでいて、彼らの息遣いが感じられる新しいキャラクターたちをきちんと描いているのが、本当にストイックだし、素晴らしいんですよね。前作を読んでない方でも楽しめるし、読んでいたら楽しみが膨らむし。高屋先生が「親戚のような気持ちで読んでほしい」とおっしゃっていましたが(参照:「フルーツバスケット」愛蔵版発売記念、高屋奈月インタビュー&名ゼリフ満載の「今日のおことば」)、本当にそんな心で読んでます。

──「フルバナ」では新しい世代の草摩の人々がたくさん出てきますが、「もしかしてあの2人の子供なのかな?」と思って、ニヤッとできるのがいいですよね。

しかもそれが、遺伝とか見た目とかによるものじゃないのがいい。たとえば睦生に対して「ああ、睦生の親が、透や周りの人を通じて得た考え方をもとに育てたからこそ、睦生はこういう子になったんだろうな」って形で、「フルバ」のキャラが感じられる。それって、「フルバ」の基盤がすごくしっかりしているからこそできることで。読者をとても信頼しているやり方だなとも思いました。

──主人公の彩葉については、いかがですか?

透くんって、ものすごく強い人じゃないですか。その透の特殊性が周りを変えていったのが「フルバ」だったのに対して、透が広げたものを受け継いだ子たちが彩葉ちゃんを変えていくのが「フルバナ」。特別なことが何もない彩葉だからこそ、「フルバ」のテーマが継承された作品になっているんじゃないでしょうか。「フルバ」以上に、弱い人の心に寄り添う物語だなと感じます。

「フルーツバスケットanother」より。

──「フルバナ」で、特に好きなキャラは誰でしょう?

睦生ですね。3巻の睦生が、ほんとーーーに「オス」という感じでたまらないです!

──由希に対してのギャップ萌えしていたのと、同じ理由ですね。

「イッケメーン」のコマ。

自分が思ったより、自分には由希好きの強い遺伝子が流れていたようです……(笑)。あと、睦生とはじめとの関係性が好きです。2巻までは睦生がホワホワしているのをはじめが面倒を見ているのかなと読んでいましたが、だんだん「実は逆なのでは?」という面が見えてきて、それで睦生萌えが高まっていきました。表情もすごく変わってきてるんですよ! 本能的にときめいています。もちろん、はじめも陸もカッコいいし。「イッケメーン」ってひれ伏されるところ、ぜひLINEスタンプにしてほしい……(笑)。

女の子のかわいさを増す“主観フィルター”

──最初にはじめと睦生が出てきたときは、「彩葉ちゃんは一体どっちとくっつくんだ?」と思っていました。

志岐と彩葉。

そこでまさかの志岐くんという存在が出てくる。志岐くんは中学1年生なので、高校1年生の彩葉より歳下なんですが、この2人の組み合わせが本当にいいですよね。キュンキュンする。高屋先生は、いつもキャラ同士の化学反応を起こすのが本当にうまいんです。志岐のようにちょっと大人びた中学生男子が出てきたら、普通の発想だと、わかりやすいお姉さんキャラとくっつけてしまう気がするんですよね。でもそこで、歳上だけど頼りがいがあるわけではない彩葉ちゃんとの関係を描くという。

──ステレオタイプな関係性がないですよね。「フルバ」でも、ぶっきらぼうで人嫌いな夾は、誰にでも腰が低すぎる透に対してこそ、徐々にツンデレな部分を見せられたりとか。彩葉も、最初はとにかく心の弱さが描かれていたのが、志岐の登場を機にグッと変わっていった気がします。

これはWeb連載だからこそ意識してやられていたのかもしれませんが、「フルバナ」って、「フルバ」よりキャラの顔のアップがすごく多いんですよね。彩葉ちゃんの、本当はうれしいのに、今の場所から思い切って踏み出していいのかわからず少しの戸惑いを孕んだ表情だとか、心から喜びに打ち震えているけどまだ思い切り表現することができずじわじわ内から染み出してくる感じだとか、表情がすごく印象的でした。よくこんなに絶妙な表情を描けるなと思います。

──具体的にはどのシーンでしょうか?

「フルーツバスケットanother」より、彩葉がクラスメイトとお弁当を食べる約束をしたシーン。

1巻だと128ページから130ページまでの、彩葉ちゃんが初めてお弁当を食べる約束をしたシーン。自分からうおちゃんやはなちゃんに声をかけた透と対照的で、またいいシーンだなーと思いました。2巻152ページの、打ち震えながら噛み締めてる感じも最高ですね……。高屋先生って、些細なことをこまやかに描く力がとてつもない。例えば、お昼ごはんを食べる約束をするっていうだけで彩葉にとって大事件なんだということが、とても丁寧に描かれて、読者にもすっと入ってくる。

──彩葉が一歩踏み出せるようになって、ちょっとずつ友達ができていくことについて、読者も同じ気持ちで喜べるんですよね。気付いたら彩葉のことがどんどん愛しく思えていって。

そうそう、高屋先生って、「本当に女の子が好きなんだろうな」と感じるんですよ。女の子を、自分を投影した存在、というよりも男性の目線を介した形で描ける。

──それって、具体的にはどういうことなんですか?

「この子って、ここがかわいいんだよな」というのを感じている人の主観を通して、女の子が描かれてるんですよ。愛情を持ってる人間から見ると、その対象って、ものすごくキラキラ見えるじゃないですか。高屋先生の描く女の子には、その“主観フィルター”が発動してるんです。この“主観フィルター”という言葉は、私の描く女の子に対して友人が言ってくれた言葉で。

──確かに週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されていたメンゴ先生の「一本花」という読み切りでは、「私」の視点を介していたからか、彼女が魅力を感じているA子がすごく妖しい美しさを放っているように見えました。

ありがとうございます。女の子の“主観フィルター”に関しては、高屋先生と似ている部分もあるかもしれません。

──彩葉編は3巻で終わりですが、また新たな「another」が展開されるかもしれないと発表されています。もしメンゴ先生が描くなら、こんな「another」を描きたいというのはありますか?

潑春と依鈴の退廃的でアダルトなやつを……。それか、とにかくぐれさんのアダルトなやつを……。

──読みたいです(笑)。最後に、「フルバナ」をオススメするメッセージをお願いできますか。

「フルバナ」を読んでいると、高屋先生の中の「家族」をめぐる社会的な問題への関心が、より深くなったことがうかがえます。環境や毒親によって人がこんなに曲がってしまうというテーマが、とても掘り下げられている。でもそのうえで、その人の人生はその人自身だけのものだということが描かれている。ちょうどリアルタイムで「フルバ」を読んでいた世代に、家族を持ち始める人も出てくるタイミングだと思うので、ぜひ読んでほしいです。

「フルーツバスケットanother」イラスト
高屋奈月「フルーツバスケットanother③」
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濃いキャラの草摩家の人々と交流していくうちに三苫彩葉の心境にも、徐々に変化が訪れる。彼女の物語の結末は……? 「フルーツバスケット」の数十年後を舞台に描かれる、懐かしくも新しい物語。

高屋奈月「フルーツバスケット」全23巻
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関連情報

アニメ「フルーツバスケット」

2019年4月5日(金)より、テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知にて順次放送開始

横槍メンゴ(ヨコヤリメンゴ)
横槍メンゴ
1988年2月、三重県生まれ。2009年、マガジン・ウォー(サン出版)にて成人向けマンガでデビュー。2010年にCOMICすもも(双葉社)にて、エロマンガ家と双子美少女の三角関係を描いたコメディ「はるわか」の連載を開始する。2012年に週刊ヤングジャンプ(集英社)にて掲載された、岡本倫原作「君は淫らな僕の女王」は、ヒロインが自制心を失うという設定と、かわいらしい絵柄とエロのギャップが人気を呼んだ。同年、月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて、高校生の純粋かつ歪んだ恋愛を描く「クズの本懐」の連載を開始。TVアニメ化、実写ドラマ化も果たした。2018年に「クズの本懐」の最終9巻となる「クズの本懐 décor」が発売。インターネット上ではヨリのハンドルネームで活動し、ニコニコ動画などボーカロイドを使用した楽曲のイラストも手がける。イラストレーターとしても活躍中。
横槍メンゴ「クズの本懐 décor」
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高屋奈月(タカヤナツキ)
高屋奈月
7月7日東京都生まれ。1992年花とゆめプラネット増刊(白泉社)にて「Born Free」でデビュー。SFやファンタジー作品を発表後、1998年に花とゆめ本誌にて「フルーツバスケット」の連載をスタート。異性に触れると動物に変身してしまう一族と女子高生の交流を描き人気を集めた。同作で2001年に第25回講談社漫画賞少女部門を受賞。TVアニメ化も果たし、売上3000万部を突破する大ヒットに。そのほかの代表作に「翼を持つ者」「星は歌う」「リーゼロッテと魔女の森」などがある。2019年4月より、高屋自身が総監修を務めるTVアニメ「フルーツバスケット」が放送開始。