コミックナタリー Power Push - 「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー

着想は「アンパンマン」? 「売れるマンガ」を描く戦略とは

中学時代に頭の中の雑誌で連載を7本

──藤本先生は「ファイアパンチ」連載までに4本の読み切りを発表していますが、当時から読者を意識して戦略的にマンガを描いていたんですか。

読み切りとして発表された「予言のナユタ」のカラーカット。

いや、最初の頃はパッと思いついたものを何も考えずに、ネームにして担当さんに送っていました。多い時期は毎日に1本くらい。クソみたいなネームばっかりで、担当さんも読むのがつらかったんじゃないかと思います(笑)。10本に1本くらい面白いのがあるくらいで。途中で「もうちょっと考えて描いてみようか」と言われて。

──毎日1本ネームを作るのはすごいですね!

僕は中学生のころ、頭の中で雑誌を作って、そこに自分のマンガを7本くらい連載していたんです。「星の息吹」と「微生物伝」と「ファイアソード」と、あとなんだったっけな……。だから話を考えるのは好きなんです。頭の中の連載が最終回を迎えたときに、自分で感動して涙が出そうになったこともあって。そのときは授業中だったんですが、涙を流すと弱い男だと思われて周りにいじめられそうだと思ったのでグッと堪えましたけど。

──(笑)。その7本はすべて、無事完結したんですか?

面白くなかったのは打ち切りにして途中で終わらせたりしたので、入れ替わり立ち替わりですね。でも僕が生きているうちに、この作品を世に出せたらなって思っているものはいくつもあります。だから最初ジャンプ+で連載が決まったとき、すごくうれしかったんですよ。もともとジャンプスクエアを月刊少年ジャンプ時代から読んでいて、スクエアで連載したいなと思っていたんですが、僕が考える月刊の欠点として、月に1回しか話が進まないというのがあったので。

ドマに復讐の炎を燃やすアグニ。

──1巻分を、週刊のペースでお描きになってみていかがでしたか。

楽しいけど、ホントに大変でしたね……。週刊で長く描かれている作家の方はすごいです。出版社の偉い人たちが、大切にしている作家だけに1週間が10日くらいに延びる装置を与えてるんじゃないかって思うくらい。僕はペーペーなのでもらえないんですよ。ずるい(笑)。

──(笑)。キャラクターにご自身を投影することはあるんですか?

ないですね。計算して描いているので、キャラが勝手に動いちゃうのが怖くて。今のところは僕が考えたとおり、それぞれのキャラが動いてくれています。

ルナはアグニに子供を作ろうとせがむ。

──読み切り「予言のナユタ」が兄と妹もので、「ファイアパンチ」にもアグニに恋心を寄せる妹としてルナが登場したので、先生は妹キャラが好きなのかなとも感じたのですが。

そういうわけではないですよ(笑)。物語を作るうえで、兄妹みたいな誰でもわかるような間柄なら、人物同士の関係性を紹介する必要が省けるじゃないですか。読み切りなんかで描きたいことを詰め込むために、削るとしたら関係性の説明の部分かなと思っているので、兄妹の話で読み切りを描いたんです。

沙村先生の絵が週刊連載をするうえで理想

「ファイアパンチ」第1話より。

──作画の面で影響を受けた作家さんはいますか? 先ほどは「こんな絵でいいのか」と悩んでいるとおっしゃいましたが。

僕は沙村(広明)先生の絵が好きなので、常々「沙村先生のように描こう」と思ってやっていますね。

──「沙村先生のように」というのは?

現状僕が細部まで描き込んで、トーンもしっかり貼って、とやっていると、どうしても週刊のペースに間に合わないんです。その中でリアリティがあって、「いまキャラが何をしているのか」っていう状況がすごく伝わってくる絵を描くとしたら、沙村先生のようにやるのがいいかなと。沙村先生ってトーンを多用するわけではなく、服の影なんかは線で表現したり、抜く部分は抜いているじゃないですか。連載が始まる前に担当さんにお願いして、読んでいない沙村先生の単行本を送ってもらったりもしました。だから絵柄は沙村先生にすごく影響を受けていますね。

取材後の写真撮影でポーズを取る藤本タツキ。

──では最後に読者にメッセージをお願いします。

ホントに自分の絵が情けないなと思っているので、もっとうまくなれるよう努力します。話はどんどん面白くなっていくので、その部分には注目してほしいですね。

藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
2016年7月4日発売 / 集英社 / 432円
2016年7月18日発売 / 集英社 / Kindle版 / 400円

「氷の魔女」によって世界は雪と飢餓と狂気に覆われ、凍えた民は炎を求めた。再生能力の祝福を持つ少年アグニと妹のルナ、身寄りのない兄妹を待ち受ける非情な運命とは…!? 衝撃のダークファンタジー、開幕!!

藤本タツキ(フジモトタツキ)

秋田県出身。第9回クラウン新人漫画賞にて、「恋は盲目」で佳作を受賞。同作が2014年に、ジャンプSQ.19 Vol.13(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後ジャンプスクエア(集英社)、ジャンプSQ.19で「シカク」「予言のナユタ」「人魚ラプソディ」などの読み切りを発表し、2016年4月より「ファイアパンチ」を少年ジャンプ+にて連載。同作は連載開始直後からWeb上で話題を集めている。