イケイケだった昭和初期という時代には、狂気がよく似合う
──いつかやりたいと思っていた設定が生きたわけですね。
はい。調べていくとこの時代ってすごく面白いんですよ。昭和10年(1935年)というのは関東大震災から復興を遂げ、3年前に満州国が建国されて、第二次世界大戦、太平洋戦争直前のエアポケットのような時代なんです。資料を探っていくと、その頃の日本人ってすごくスケールが大きくて、視野も広い。たとえば、当時の列車の時刻表なんかを見ると、世界時計とか載ってるんです。カッコいいでしょ?
──国内の列車の時刻表なのに、世界時計が。
このときの鉄道って、東京からベルリン行きの切符が買えたりしたんです。大陸にも足がかりがあったから、地続きの感覚で世界があった。ほかにも、1935年って東京オリンピックの招致を行ってるんです。ちょうど最終選考に残った年で、翌年正式に招致が決まる。結局1940年の東京オリンピックは戦局悪化などの理由でキャンセルになってしまうんですけど、それぐらいパワフルな時代だったんです。「デモンズゲート」というゲームは、帝都の瘴気(セヒラ)に触れて人々がおかしくなるという設定なので、そういうイケイケな空気に人が惑わされている感じが非常にマッチした。元気がなくてシュンとしてる状態に狂気は合わなくて、目がギラギラしているような雰囲気が欲しかった。その辺がこの時代はピッタリだったんです。
──面白い時代ですよね。大正より近代化が進んでいる一方で、現代ほど整然としたイメージもない。
肉食系でスケール感が大きいけど、同時に今ほど完全に明るくもない。ちょっと路地裏に行くと近世の闇がまだ残っていて。猟奇的なものが好まれた、エログロナンセンスの時代でもありましたし。医療機械なんか見ると面白いんですよ。
──医療機械ですか?
千葉に印旛医科器械歴史資料館というところがあるんです。このゲームの企画を立てるときに真っ先に行ったんですけど、怪しい機械がいっぱいある。医療機器なのに痛そうなんですよ。レントゲンの機械なんかもあるんですが、医療に使うのか拷問に使うのかわからないようなデザインで(笑)。その怖さが、伝奇的な雰囲気を出すのにすごく向いてたんです。
焼け野原となることを誰もが知っている、徒花のような東京の景色
──「デモンズゲート」ではその時代設定に、青年将校と悪魔というモチーフが入ってきます。
僕、けっこう中二病だから、青年将校って言葉が好きなんですよ(笑)。実際とは違ったりもするでしょうが、言葉自体に凜とした雰囲気があるじゃないですか。荒俣宏さんの「帝都物語」のイメージも大きいでしょうね。あの世界観には影響されています。だからゲームの世界観コンサルをやっている頃は「青年将校になりたい!」って思ってましたね。帝国陸軍の青年将校が悪魔召喚って、めっちゃかっこいいじゃないですか!(笑)
──(笑)。でも、なんとなく憧れる気持ちはわかります。
詳しくなくても、青年将校と言われたらなんとなくイメージが湧くでしょう? この時代や青年将校という言葉って、みんなが知ってるIP(知的財産)なんです。
──「大正はモダンで華やか」「昭和初期は活力があって怪しい」みたいな共通認識があると。
東京という街の持つはかなさもある。当時の東京って、大正時代の関東大震災で一度壊れてリセットされた時期なんです。それまではレンガ造りで電車も赤く、街全体が赤っぽかったんですが、それが鉄筋コンクリートに変わっていった。街全体の色が白くなっていくんですね。そして、僕らはそういう風景の東京が、その後に太平洋戦争で焼け野原になることも知っている。だから、一種の徒花のようにも感じるわけです。そこも魅力的なんですよね。
ゲームの枠には収まらなかった「デモンズゲート」の世界
──舞台自体に力があり、物語を受け入れる豊かさを感じますね。ゲームにとどまらず、コミカライズに繋がったのもわかる気がします。
こういう世界観ですから、もっと掘り下げていけば面白いものができるんじゃないかという予感があって。もちろんゲームを作っているときはそれだけで精一杯だったので、コミカライズまでは考えていませんでした。でも作っているうちに「この世界観はいろんなことができるんじゃないか」と思うようになって。それで、コンテンツ化をジワジワと進めていたんです。メディアミックスを考えたときに、一番理解されやすいのはマンガだろうと思ったんですね。アニメという選択肢もありますが、アニメというのは時間もお金もすごくかかって、制作のハードルが高いですから。まずはマンガでこの世界観を見せようと思って、出版社さんに声をかけさせてもらったんです。
──コミカライズ版は、もともとゲームの追加シナリオとして用意していた話をベースにしているとお聞きしました。
そうです。ゲームのほうで企画を進めていて、もう台本やグラフィックもできあがって、声優さんも決まっていた。ところが、声優さんの収録直前にゲームのサービス終了が決まってしまって。それで、結果的にシナリオがまるまる1本浮いている状態になった。じゃあ、これを使って外伝的なマンガを作ろうということにしたんです。
──コミカライズでは、ゲームの主人公の喪神風魔(もがみふうま)ではなく、別のキャラクターが主役になっていますね。
ゲームのメインシナリオは喪神風魔の一人称の物語で、ずっと彼の視点から見た世界になっている。でもコミカライズ版では「一方その頃、別の場所では……」みたいな話をやりたいなと思ったんです。追加シナリオとして用意していた物語は、そういう意味でもピッタリでした。喪神風魔も出てきますが、能海旭(あきら)という魔法学園の落ちこぼれである女の子と、レンザという転生し損ねた悪魔のコンビを中心にした話なので、別の視点でこの世界を見せられる。
──この2人の主人公は、どのように生まれたのでしょう?
最初に考えたのは魔法学園という設定でした。本編に和物のモチーフが多いので、洋物のモチーフを入れようと思ったんです。ただ、RPGで魔法というとどうしても攻撃魔法のイメージが強い。でも「デモンズゲート」では、悪魔と兵器が融合した魔神を主人公が使役して戦うので、派手な魔法が入ってくるとバランスが悪くなるんです。それで、星辰魔法(せいしんまほう)という占星術を体形に含む魔法を取り入れることにしました。
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小林ゆうと森久保祥太郎をモデルにキャラクターは作られた
- 墨天業、青木健生、木村央志、鳥羽瞭子(Donuts)、山本章史「デモンズゲート 帝都ノ魔女」
- 2018年2月28日発売 / マイクロマガジン社
昭和10年。帝都では怪人と呼ばれる不死身の者たちが蔓延り、特務機関・山王機関がその鎮定に当たっていた。ある夜、魔法学園の女高生・旭の元に魔法陣と共に現れた麗しき青年──。
悪魔を名乗り魔神を使役する青年・レンザと未熟な魔女・旭の伝奇ファンタジー!
- 木村央志(キムラナカジ)
- 京都市出身。ゲームシナリオライター。初監督・脚本作品は「クーロンズ・ゲート」。独立後「真・女神転生III-NOCTURNE」の世界観設定・シナリオを担当し、以降は携帯電話・スマートフォンゲームの企画やシナリオに携わる。Donuts入社後「デモンズゲート~帝都審神大戦~」の企画、シナリオを担当。