ゲームやアニメとマンガが同じ舞台に立つには、どうしたらいいか

──お話を伺っていてサイコミ編集部はかなりマンガの分業化を考えているように感じました。

分業制は、いいマンガを作るためのマストの条件ではありません。ストーリー、ネーム、作画のすべてを1人でこなすというやり方ももちろんあります。実際サイコミでもそのやり方で制作している作品も多くありますし。ただ、サイコミが最高のコンテンツを作っていくために、ゲーム会社としてのノウハウを生かした分業制をとることも必然だと思っています。幸いにも、Cygamesにはゲーム会社としてのノウハウだけでなく、バックオフィスも含めた環境も整っていましたから。例えば、サイコミであれば、「突然タブレットが動かなくなった！」という場合、マンガ家さん本人が手を動かさなくても社内の他部署の手を借りることが出来ます。これは、マンガ家さんにとっても非常にありがたいことです。

──分業制を考えるにいたったきっかけは。

エンタテインメントは、もう何年も前から余暇の奪い合いになってます。マンガを読む時間をゲームやアニメに使う方が増えました。同じ土俵に上がって戦うには、マンガ編集者の能力だけでは足りないかなと思うことがありました。

──そのためにはさまざまなプロを集める必要があると。

物語をよくするためには、広げていくためには何をすればいいのか。マンガ家、原作者、編集者、それに営業部などの視点から見てディスカッションしていきたいんです。これにはゲームという大きな1つの制作物に向かって、それぞれの職責を越えて意見を交わしてきたCygamesのマインドが大きく影響しています。

マンガをどんどん作りたい人には、夢のような環境

──「サイコミ」の制作体制の、どういった部分を葛西さんはメリットだとお考えですか。

マンガ家、原作者など直接コンテンツを制作している人々と編集者の距離が近いことのメリットは、先ほどお話した通りです。それに加えて営業部や他部署との距離も非常に近いことも大きい。営業部のメンバーも毎週開かれている企画会議に参加しているんですが、企画やネームに対する意見を言ってくれます。逆に編集部が営業部に意見することも、もちろんあります。

──部署同士で、お互いの仕事にはあまり踏み込まないという出版社も多いと思うのですが。

むしろそれが普通ですよね。ただ僕はマンガを多くの読者に届けるという共通の目的があるのであれば、もっと近くで仕事をするべきだとずっと思っています。一緒に働く仲間がどんな仕事をしているか理解しなかったら、リスペクトも新しい発想も生まれてきませんから。今のサイコミは僕が実現したかったマンガを作るチームの理想にかなり近いです。

──そうやって生み出された作品が、今回刊行がスタートする単行本なんですね。手応えは感じていますか？

納得のいくものが作れたと実感しています。それに拡材やプロモーションを含めて、高いクオリティを維持しながら、単純な量だけ見てもたくさんのものを作れました。それは編集と営業が垣根なく協力できたからにほかならないですね。あとはCygamesのスピード感も大きく影響しています。

──お話の中で何回か「スピード感」という言葉が登場していますが、葛西さんにとっての大きな要素なんでしょうか。

Cygamesに入り、エンタテインメントの最前線というのは、これぐらいのスピード感で回っているんだ、逆にこれくらいのスピード感で動かなければマンガは今のゲームと同じエンタテインメントの土俵に立てないんだと衝撃を受けました。例えば今この瞬間に、ある企画が提出されたとするじゃないですか。普通の会社なら何日もかかるところを、Cygamesでは1時間から2時間程度あれば役員の決済まで進むんです。

──そのスピード感は、各チームの距離感の近さが生み出しているのでしょうか。

もちろん影響を与えています。それとCygamesは“まずやってみる”という精神が非常に強い会社です。たぶん“最高のコンテンツ”というのは、まだ誰も見たことがないものを指すのだと思います。それを実現するためには、行動して考えるんです。

──行動して考える！その逆で“考えて行動する”というのはよく聞きますが。

いくらでも挑戦できて、コンテンツを作ることにコストをかけることを厭わない。マンガをどんどん作りたい人には、夢のような環境だと思います。そういう姿勢だからか……デザイナーさんも、夢を語ってくるんですよ（笑）。

単行本第1弾のカバーを集めた様子。それぞれ紙質や加工にこだわった装丁が施されている。

──デザイナーさんの夢？

サイコミでは、単行本の装丁にもこだわっていて。デザイナーさんにもそれは伝えています。当然、凝った装丁にはコストがかかりますが、それは必要な投資です。そうしたらデザイナーさんの夢がモリモリ盛られたデザインがくるわけです（笑）。

──確かに、どの単行本のカバーも目を引くものが多いですね。こだわった仕事をするにはマンパワーも必要になるかと思いますが、編集部には何人ぐらいの方がいらっしゃるんですか？

10人ですね。

──思ったよりも少ないですね。これだけの数の作品を、隔週、週刊ペースで回すとなると……。

正直、まだまだ人は必要です！今あるコンテンツを広げていきたいし、コンテンツ自体も増やしたい。なので、今は関わってくれる人を増やすことが、作品のよさに直結すると考えています。

──サイコミの持ち込みページには「マンガのプロである編集部員があなたの作品にアドバイス！」とあります。葛西さんの考えるこれからのプロの編集者像をお聞かせください。

今、マンガに何か1つの指針を作ることは非常に難しい状況だと思っています。マンガ編集者に求められる能力は多岐にわたるし、視点もいくつも持ってもらわないといけない。そういう方がどんどん増えていけばうれしいですし、私自身もそういう編集者になりたいです。

──編集者の仕事は、どんどん複雑になっていると。

ただ1つ絶対に必要なのは、1人でも多くの読者を喜ばせようという気持ち。編集者の仕事って究極突き詰めていくとそこになるので。そのマインドを持って作家と向かい合える編集者がプロですね。作品の読者を喜ばせるための最善は何かを、常に考え続けることができる人。そんな人と仕事がしたいですね。

サイコミレーベル創刊第1弾タイトル

Cygames原作、楓月誠コンテ、cocho作画 「グランブルーファンタジー①」: 2017年7月28日 / 講談社; 大作ファンタジーRPG「グランブルーファンタジー」の壮大な世界観がマンガ化。星の島・イスタルシアへの冒険を夢見る少年・グランと、エルステ帝国に追われる蒼い髪の少女・ルリアの2人は出会い、広大な空を巡る冒険の旅へ……感動と興奮に満ちた王道ストーリーが幕を開ける！原作ゲームで使用できる特典コード付きで、8月30日発売の2巻、9月29日発売の3巻との連動特典も。

コミック 605円

ゲームやアニメとマンガが同じ舞台に立つには、どうしたらいいか

マンガをどんどん作りたい人には、夢のような環境

サイコミレーベル創刊第1弾タイトル

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