コミックバンチKai編集長と井上淳哉が再び語り合う!紙からWebへ、バンチ編集部が見据えるマンガ業界の未来 (2/2)

マンガ以外のものも作っていく編集部に

──新しいことをいろいろやっているんですね。

西川 媒体としてもいろいろやっていこうと思っています。例えば、去年井上先生が「人の集まる場所にしてほしい」という話をしていましたが、その手段の1つとして新しいYouTubeチャンネルを始めようと。もちろん魅力的なマンガを作るのが第一なんですが、それはどの編集部も目指している。人が集まるきっかけとしてはマンガ以外のものであってもいいわけです。YouTubeとか小説の連載とかいろいろなところに知ってもらう入口があるかもしれないので、やってみよう、と。

井上 いいじゃないですか。

西川 はい。編集部の中に宣伝チームを作っていろいろ考えています。

──編集部内に宣伝チームというのも珍しいですね。通常、宣伝まわりは編集部外の宣伝部が担う形が多いでしょうから。

西川 もちろん新潮社としてのプロモーション部署はあるんですが、会社としてプロモーションを打っていくのはどうしてもヒット作が中心になっていくんです。

西川有正編集長

西川有正編集長

──出版でよく言われるのは、見込まれる売上げの何%まで宣伝予算として使えるという形を取ることが多いので、結果的にプロモーションされるのはヒット作ばかりになるという話ですね。

西川 まさにその通りです。でも、編集部としてはこれからの作品も知ってもらいたい。だから、SNSの運用だったり取材であったりを編集部内でも考えていこうというチームです。

井上 バズらせ屋ってことですか?

西川 (笑)。そういうことも含めてですが、通常のプロモーションでは埋もれてしまうような作品ももっと認知してもらえるようにやっていこうという感じです。YouTubeもその手段の1つです。

井上 そういう機能は編集部内にあった方がいいですよね。中のこと、作品のことを一番知っているわけですから。とてもいい取り組みだと思います。実際どんな動画を作っていく予定なんですか?

西川 「マンガ」×「教養」みたいなコンセプトで、マンガの魅力をさまざまな視点で発信したいですね。例えば「応天の門」みたいな歴史ものの作品で、監修していただいている学者の先生に解説してもらったりとか。作品のテーマに関わる専門家の方に話していただく形式を考えています。「応天の門」の監修・本郷和人先生は既にYouTubeに多く出演されていますが、マンガ編集部が主体的に作ることで、また違った面白さが出せるんじゃないかと。

──「怪獣自衛隊」を自衛隊に詳しい方に話してもらったりとか?

西川 自衛隊の組織自体も知らないことが多いですからね。

「怪獣自衛隊」1巻

「怪獣自衛隊」1巻

井上 いいですね。知り合いに声をかけたらやってもらえると思いますよ。

西川 動画だけ見ても面白いし、動画を見てから作品を読んだらより面白いという形ができたらいいなと思ってます。

井上 専門的な題材ってそのジャンルを知っている人にはキャッチーなんですけど、知らない人からするとハードルになるんですよね。敬遠する要因になる。僕は歴史ものって苦手なんですが、「キングダム」の歴史的解説をやっているYouTube動画とか面白くて見ちゃう。ああいうのを公式でやってくれたらめちゃくちゃ面白いです。

──マンガ編集部もマンガを作るだけじゃなくなってくるわけですね。

井上 業態が変わっていきますね。やっぱりプロダクション化しません?(笑)

フットワークの軽さで大手の鼻を明かしてほしい(笑)

──この先いろんなことが変わっていくと思いますが、バンチKaiにどんな媒体になってほしいですか?

井上 大手ができないフットワークの軽さを大事にして欲しいなと思ってます。YouTubeでもなんでもいいですが、ほかがやらないことをやっていってほしい。

西川 チャレンジはどんどんしていきたいと思います。YouTubeもやってみないとどうなるかわからないですが、まずはやってみようと。

井上 大手の鼻を明かしてください(笑)。

──新潮社が「大手じゃない」扱いされるのはマンガ界隈だけですけどね(笑)。

西川 編集部としては週刊時代から数えても20年で、まだまだ若い組織なので。組織として成熟させていきたいと思っています。編集者にしても作家さんにしても新人をきちんと育成して、継承していけるような体制にするというのは1つの課題ですね。技術的な継承もですし、新人作家さんをプロモーションしていく部分もそう。若い編集者にベテランのノウハウを伝えなきゃいけないですし、そこから新人作家さんにノウハウを伝えていけるようにしないといけない。

左から井上淳哉、西川有正編集長。

左から井上淳哉、西川有正編集長。

井上 去年も話しましたが、作家として協力できることはしますよ。

西川 ありがとうございます。編集部としてもいろんな形で新人作家さんの育成をしていきたいと思っています。その一環として、バンチKaiでマンガの作り方みたいなことを連載してもいいでしょうし。仕事が属人的になり過ぎず、きちんと育成・継承ができる編集部になるというのは、今後の1つの目標です。それができるのが大手だと思うので。

井上 そのうえでベンチャーっぽいフットワークの軽さも失わないでほしいですね。

西川 若い編集部としてのチャレンジも続けていきますから、期待していてください。

今、コミックバンチKaiで読んでみてほしい1作

西川有正編集長が選ぶ1作

「最後のレストラン Dante」1巻

「最後のレストラン Dante」

月刊時代の長期連載「最後のレストラン」の新シリーズです。芯の部分は変わらないですが、主人公が毒があるけど憎めないキャラクターになったことでガラッと印象が変わっています。第1シーズンで織田信長が出てきた回なら、「Dante」ではその妹・お市の方が出るというように、第1シーズンとリンクしているのも見どころです。

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井上淳哉が選ぶ1作

「ドルおじ」1巻

「ドルおじ」

僕自身がドルおじ(ドール好きのおじさん)なんです。30代くらいのときにスーパードルフィーという女の子の人形を買って、デッサンに使っていたんですが、顔なんかの立体表現がうまくなりました。ドルフィー自体にも好きになって、イベントに行ったり服を買ったりしていて、妻が引いてました(笑)。だから、大人の男性とドールという切り口はとても面白いです。

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プロフィール

西川有正(ニシカワアリマサ)

少年マンガ誌の編集者を経て、2015年に新潮社に入社。くらげバンチ編集部にて「極主夫道」「売国機関」「クマ撃ちの女」などを立ち上げたのち、2024年、コミックバンチKaiの編集長に就任。

井上淳哉(イノウエジュンヤ)

1971年10月18日生まれ、高知県四万十市出身。1992年にゲーム業界に就職し、主に弾幕系シューティングを手がける。その後、2001年に本格的にマンガ家として活動を開始。2009年から2018年にかけて週刊コミックバンチおよび月刊コミック@バンチ(新潮社)で「BTOOOM!」を連載する。2018年から2022年まで月刊コミックバンチで連載された「BTOOOM!」のスピンオフ「BTOOOM! U-18」では原案として協力。2020年に月刊コミックバンチで「怪獣自衛隊」の連載をスタートさせ、同誌のリニューアルに伴い、2024年4月からコミックバンチKaiで週刊連載中。