Cheese! 創刊25周年記念対談 朱神宝と箕野希望が明かす 大ヒット“溺愛”少女マンガ、「コーヒー&バニラ」「恋と弾丸」の舞台裏 Cheese!作家15人からコメントも

「コヒバニ」「恋弾」ココがすごい!

「恋と弾丸」より。桜夜は恋人となった証に、自分を貫いた銃弾を加工して作ったピアスをユリにプレゼントした。

──さて、ここからは「コーヒー&バニラ」(コヒバニ)と「恋と弾丸」(恋弾)について。まずはお互いの作品の好きなところやキャラクターなどを教えてください。

朱神 私は毎月「恋弾」を読んでいて、絵の細かさがすごいなと思っています。「恋弾」で描かれている世界観って、実際に経験できない空想の世界がほとんどで、それをあそこまで細かくきれいに描いているのがまずすごい。あと、桜夜さんって「常に命を賭けてどこかに行く」というキャラクターだから、「生きてたらまた会おう」みたいなセリフって、桜夜さんと付き合ってる人ではないとやり取りできないですよね。そういう会話には、「恋弾」のスリルと、生きていたら再会できるかもしれないという奇跡の可能性が詰まっていて魅力的で、儚いけどきれいだなと思います。「ヤクザ」と「きれい」って正反対だけど、そういうところがとても素敵だなと思って読ませていただいています!

箕野 ありがとうございます。私は「コヒバニ」で好きなキャラが、ヒロインのリサちゃんなんですよね。

「コーヒー&バニラ」より。リサは深見のライバルであり、阿久津コーポレーションの社長から興味を持たれる。

朱神 マジですか!?

箕野 リサちゃんって、すごく純粋でピュアで、だからちょっと抜けていたり、頼りないところもありますよね。それこそ深見さんが熱を出して看病する回で、逆に熱を上げる結果になっちゃったりすることもある。そんな彼女の、私が一番好きなシーンがあって。深見をライバル視している阿久津社長から「深見のこと、教えてやろうか?」と言われたときに、リサはもちろん気になるんだけど、「深見さんから教えてもらうまで待ちます」って言うんですよね。

朱神 はい、そうですね。

箕野 あれってすごく人間性を表しているというか、興味本位で聞かないというのは、すごく信頼できる誠実な女性だなと思いました。

朱神 わあ、うれしい。ありがとうございます。やったー!

「恋弾」は“性癖を50%ぐらいに押さえて描いている”

──Cheese!といえば、「女子には愛される物語が必要だ!」をキャッチコピーに、甘い恋愛と素敵な男性キャラクターを楽しませてくれます。おふたりがCheese!に執筆されるにあたって、大事にしているポリシーはどんなことですか?

箕野 私、性癖込みで描かせてもらってはいますが、実は性癖を50%ぐらいに押さえて描いています。

朱神 えっ、そうなの!?

「恋と弾丸」より。ユリは幼なじみのジンから、桜夜と別れるまでこの部屋から出さないと監禁される。そこに駆けつけた桜夜は、これまでユリに見せたことがないほどの本気度でジンにつかみかかった。

箕野 そうなんですよ。「血と暴力」みたいなテーマとか、重たい絵が好きなんですけど、編集さんは読者さんというフィルターを通してアドバイスしてくださっているので、そこで気付かされることが多くて。例えば、あるラフネームを担当さんにお渡ししたところ、「桜夜さんのキャラが出てるネームではあるけど、ちょっと読者が怖がるかな」と言われて、「なるほど、ここまで描くと怖いのか」とわかったり。もちろん、全力かつ自分で面白いと思って描いているんですけど、性癖自体は50%ぐらいに押さえて描くとバランスがちょうどいいかなと。

朱神 箕野さんの「100%」も読みたいなー!

箕野 ありがとうございます(笑)。100%の桜夜さんとなると、性癖の「血と暴力」という部分が全開になりますね。

──血まみれ桜夜さん、でしょうか。気になります。朱神先生はCheese!に描くにあたってのポリシーについて、いかがですか?

朱神 「コーヒー&バニラ」という作品は、それこそ「恋と弾丸」に比べたらすごくライトな、サクサクっと読んでいただきたい作品として描いています。暗いシーンは極力控えて、とにかくラブラブな2人を描くことで、読んでくださる方が「幸せになったな」とか、「疲れてたけど、悩んでたことは後でいいかな」という感じで、読んでる間は、現実のつらいことは忘れられるような作品として描いていこうと思っていて。

──そうしたスタンスだったんですね。

「コーヒー&バニラ」より。結婚披露宴パーティーの参列者リストを見て、深見の人脈のすごさに驚くリサ。深見の妻としてきちんと振る舞えるか心配していると、深見はいつものように甘い言葉をかけてくれる。

朱神 なので、「深見がリサのことを溺愛しすぎて、読者に笑われちゃうんじゃないかな?」というのも、もう気にしないで描こう!と思っています。例えば、ドキドキする描写とか、ちょっとエッチなシーンで、「ちょっと描きすぎかな?」って思うところも、意外と読者さんは全然ウェルカムな態勢で読んでくださったりします。

──確かに、読者としては「どんどんやってくれ!」って思いますよね。

朱神 そうなんです。ネーム中、このシーンはちょっと描写が激しいかもとか、イチャイチャしすぎかも、と不安になると、Twitterで「ちょっと甘甘すぎるシーンを描いてるんだけど、大丈夫かな?」って呟くんですよね。そうすると、読者でフォロワーさんの方々から反応があって、「そういうシーンはもっと読みたい!」とか、「どんどん描いてほしい!」と言ってくださる方が多いのがわかる。だから、「ここまで描いたら引かれちゃうかも」っていうシーンでも、描き手がそう思うくらいがちょういいんじゃないかな、と。描きながら、セーブしちゃうと中途半端になると思っているので、振り切って描くのは大事だなと感じています。

溺愛はとにかく名前を呼ぶ

──ある意味、対照的なお答えになりましたね。朱神先生はとにかく砂糖は惜しまない、という。

朱神 惜しまないですね。惜しんじゃいけないって思ってます。

──そのリミッターの外し方は、キャリアを積むにつれてどんどんうまくなっているのでしょうか?

朱神 緩くなっていますよね。最初の頃はもちろん、「どうしよう、こんなシーン描いちゃった!(汗)」みたいな感じだったんですけど、読むほうもどんどん刺激を求めていって、「これぐらいじゃ全然びくともしないぜ!」っていう方がいっぱいいらっしゃるので。それがいいのか悪いのかは別として、飽きさせない作り方は意識して描いています。

──読者もどんどん欲しがりになってくるんですね。深見さんは、女の子なら一度は憧れる“スパダリ”のお手本のような存在だと思いますが、読者に夢を見させつつ、キャラクターに息を吹き込むために、どんな工夫をされていますか?

「コーヒー&バニラ」より、披露宴当日のリサと深見。

朱神 もちろん「リアルすぎずファンタジーすぎず」というのが深見だなと思ってて、「こういうことをしてくれたらうれしいよね」にちょっとプラスした感覚というか。あとは、優しい言葉遣いは意識しています。例えば、普通の人だったら「○○してね」とか「○○してたよね」と言うところを、「○○してくれる?」とか「○○してくれたよね」みたいに、リサに対する思いやりを言葉の節々に入れたり。あと、セリフの最初に必ず「リサ、○○」って名前を呼ぶ。

──名前、連呼していますよね。

朱神 はい、意識して入れるようにしています。そういう、ほかの男性なら見過ごしちゃいそうなところを、深見はちゃんとカバーするぞと。リアルにプラスアルファというポイントは大事にしています。

──確かに、大好きな人には何度でも名前を呼んでもらいたいですよね。

朱神 はい。「あのさあ」とか「なあ」とかじゃなくて、必ず「リサ、○○」って言う。深見を作るとき、彼を形成するにあたって、最初の頃から意識した点でしたね。「リサ」もそうですけど、「かわいい」「好き」も今までに何回言ったかな、っていう感じがします(笑)。

──名前を連呼されるのは甘さにつながる、というのは発見でした。「恋弾」でも、桜夜さんは頻繁に「ユリ」と呟いていますよね。

箕野 桜夜の気持ちとしては、自分がいつ死んでしまうかわからない人間なので、ユリといる時間では、ユリの名前は呼んでおきたいという気持ちからたくさん呼んでいます。それが結果的に読者さんに喜んでもらえていたらいいなと思います。

──そこにも桜夜さんの切ない思いが込められているのは素敵ですね。

箕野 ありがとうございます。

「恋弾」誕生秘話 「箕野さん、ヤクザ描いてみたら?」

──さらに箕野先生にお聞きしますが、 「ヤクザの若頭・入れ墨あり」の桜夜さんというキャラクターは、連載にあたり企画はすんなり通ったのでしょうか?

「LOVE×プレイス.fam」2話目より。

箕野 そもそも、当時の編集長から「ヤクザもの描いてみたら?」と言われて企画書を上げたのが始まりだったんです。私はもともと、ヤンキーや血と暴力というテーマはすごく好きで、ただ、理不尽に暴力的なマンガを描きたいわけではなく、その血と暴力にはちゃんと信念がある、というのがよかったんです。だけど、だからといってヤクザが好きというわけでもなくて。

──そうした経緯があったんですね。

箕野 はい。「恋と弾丸」を描く前に連載していた「LOVE×プレイス.fam」という作品の2話目でヤクザが出てくるんですが、それを見た当時の編集長が「箕野さん、ヤクザもの描いてみるのもいいんじゃない?」って言ってくださったんです。実際、ヤクザを描いてみて、自分の描きたいネームの幅がすごく広がった気がしました。

──編集長が慧眼だったんですね。

箕野 はい、そこで「ヤクザものを描いてよかった」という気付きはいろいろありました。提案してくださったことにすごく感謝しています。