劇場版「BLAME!」|瀬下寛之×吉平"Tady"直弘×岩浪美和の製作陣が語る“未来への予感”

「BLAME!」は登場人物がボケ倒してる作品です(瀬下)

瀬下 それから、Blu-rayには英語吹き替え版が収録されてて。ミリタリーシーンの英語版のカッコ良さは必見ですよ。

岩浪 うん、結構すごいよね。

瀬下 「BLAME!」が持っている、アメコミ的な世界観が全開になるんですかね。

吉平 原作もかなり海外で受け入れられてますし、劇場版もジャパニメーションのスタイルを取ったセルルック・アニメ()がフランスでもすごく盛り上がったし、世界各国の人たちが観て楽しんでもらえるストーリー、映像になっているんでしょうね。なので音声が英語になると、逆輸入された映画を観ている気分が味わえるというか。

──アメリカの声優さんが吹き替えてるんですか?

瀬下 そうです。すっごく洋画感に溢れてますよ。

霧亥の持つ武器・重力子放射線射出装置の威力は絶大。引き金を引くとエネルギーが空間を削りながら一直線に目標に向かう。

吉平 「ネット端末遺伝子」とか「重力子放射線射出装置」とかを英語でなんて言うんだろう……というのを言葉の宝探しのように観ていただくのも面白いかと。

岩浪 日本語字幕はつかないの?

吉平 つかないですけど、劇場版でも原作と同じであんまりしゃべらないからだいたい雰囲気でわかると思います(笑)。

──特に主人公の霧亥は、全然しゃべらないうえに「俺は霧亥」「人間だ」とか単語が多いですからね。

吉平 ちなみに霧亥が登場するそのシーンは、最初に「嘘!?」って笑うところです。

──あはは(笑)。確かに霧亥は網膜に文字が映ったり、戦闘力が人間とは比較にならなかったり、滅多に食事をする必要がなかったりと、「絶対人間じゃない!」という特徴ばかりです。

瀬下 ハードで重厚なSFに見えるので意外かもしれませんが、「BLAME!」は笑うポイントがすごく多いんですよ。

──私はシボが登場したとき、霧亥がシボの頭をガンガン壁にぶつけていてクスッと笑いました。

シボ

瀬下 そこも笑うところです。

岩浪 シボが歩く必要全くない場面でモデルウォークしたところは笑ったね。

瀬下 「BLAME!」は登場人物がみんな真面目でツッコミが不在。ある意味彼らがボケ倒してる作品なんですよ。

吉平 僕もコンテ描いてて大爆笑してました。Blu-rayでご家庭で観れるということは、仲間で集まってホームパーティなんかしながら大笑いして、ツッコミながら鑑賞できる。映画館ではできない楽しみ方ができますね。

瀬下 「BLAME!」は基本的にシリアスかつハードボイルドで、ずっこけようとか笑わせようとか一切狙わずに、でもそこかしこでクスッとしながら観れる作品に仕上げています。例えば僕が好きな監督だと、サム・ライミ監督のスプラッタムービーって、実はちょっと笑いがあるじゃないですか。シリアスが突き抜けていくと笑いに転換しはじめたりする。そういう相反する性質があるんですね。「BLAME!」もそう思ってもらえたら光栄ですね。

※セルルック…3DCGを用いて、手描きのセル(2D)画のような映像を実現する手法のこと。↑戻る

“そうぞう”力がある声優がプレスコ向き(岩浪)

──劇場版「BLAME!」は、セリフを先に収録するプレスコ方式で制作されていますね。瀬下さんは、「シドニアの騎士」第2期と「亜人」でもプレスコを採用されていて、「プレスコに手応えを感じている」とおっしゃっているのもうかがいました。

電基漁師たち。左から雨宮天演じるづる、山路和弘演じるおやっさん、宮野真守演じる捨造。

瀬下 ええ。「シドニアの騎士」1期の最終話で「プレスコでやってみたいです」とお願いしたら、やらせてもらえたんですよ。そしたら「あ、これいい」と。自分の思い描く演出というか、役者さんにこうあってほしいなというのがアフレコより“くる”んですよね。

吉平 アフレコだと、僕ら映像演出陣が演技を定義してしまうんです。どういうタイミングで息を吸ってだとか、どのくらいの長さでこのセリフを言ってだとか。ステレオタイプや予定調和で凡庸な表現になりがちなんですけど、プレスコでやると役者さんが自分のキャラクターをしっかり掘り下げて考えて、呼吸であったり声の強さであったり、それぞれの役者さんが出せる100%の演技表現をしてくださるんです。これはセリフだけではなくキャラクターが内包している感情まで、きちんと画面内に描き出せる手法だと思ってます。

瀬下 だから「シドニアの騎士」2期では最初からプレスコでお願いしました。僕がすごくラッキーだったのは、「シドニアの騎士」1期から本格的に日本のアニメに関わらせてもらって、しかもそのときの音響監督も岩浪さんだったんです。アニメのセオリーを岩浪さんにいろいろ勉強させてもらいました。続く「亜人」も岩浪さんに「プレスコでいいですか?」と相談して、「BLAME!」なんてもう僕が言う前から岩浪さんに「プレスコでしょ?」って言われて(笑)。

一同 ははは(笑)。

瀬下 最近はもう、声優さんのキャスティングの段階で、岩浪さんがプレスコに向いている方を判断してくださっています。上手・下手ではなくて、好みとしてプレスコを受け入れてくださるかって役者さんによって違うんですけど、岩浪さんのアドバイスのおかげで非常に助かっています。

──どういう方がプレスコに向いているんですか?

岩浪 やっぱり“そうぞう”力ですかね。何かを与えられて、それから発想するんじゃなくて、むしろ自分から積極的にこういうことだろうって状況を思い浮かべて想像しながら演じる。思い描く“想像”と、作るほうの“創造”ができるタイプの役者さんのほうがプレスコに向いてます。

瀬下 もうね、声優さんの演技だけで十分というときがあって、アニメの映像いらなくなっちゃいますね(笑)。とにかくキャラクターの息遣いだけでも感情とか状況が伝わっちゃう。

──特に霧亥はセリフがすごく少ないですから、息遣いが重要になりますね。

瀬下 櫻井(孝宏)さん、息遣いばっかりでしたよ(笑)。でもこれは褒め言葉で、櫻井さんは“出番はあるけどしゃべるセリフがない”というリミテッドな状況を、卓越した演技力で乗り切ってくれたんです。櫻井さんに「ありがとうございました」とお礼を言ったら、「霧亥は難しかったです」と言われて。僕は「声優さんて、こんなに息で表現できるんだ」と驚きました。特に霧亥には「霧亥しゃべりすぎ禁止フィルター」というのがあって(笑)。

吉平 例えば、分子ガムテというテープで霧亥の腕を巻くシーンでそのフィルターが発動しました。台本の段階では、そこで霧亥は村人に「巻いてくれ」と言うはずだったんです。

霧亥は主人公ながら、セリフがかなり少ないキャラクターだ。

瀬下 短いセリフだから大丈夫かなって思ってたんですけど、妙に霧亥の感情が見えちゃうんですよね。その場で会議した結果、このセリフは止めて、村人に「巻こうか?」って言ってもらうことにしました。霧亥は「ああ」って一言に。それを櫻井さんに説明しに言ったら、周りの声優さんたちに爆笑されましたよ。櫻井さんも「ええ!?」って。

吉平 こんだけセリフが短いのに、まだ短くなるの!?って(笑)。ほかにも「どこから来た?」と問われたとき、霧亥が「6000階層は、下だ」と返すセリフがあるんです。でも「下。6000階層」って言い直してもらいました。

瀬下 霧亥は単語しかしゃべっちゃいけない。しかも階層都市で全然人に会わなくて、数百年ぶりに声を出したというイメージで、とお願いしたりしました。

「早見沙織は天才だ……!」(岩浪)

──霧亥とバトルを繰り広げた上位セーフガード・サナカンも、セリフは少ないものの印象的なキャラクターでした。

早見沙織演じるサナカン。上位クラスのセーフガードで、凄まじい戦闘能力を持つ。

瀬下 早見(沙織)さん、本当に上手ですよね。

岩浪 僕は彼女がデビューした頃、一緒にお仕事させてもらったときに、「この子は天才だ……!」と確信しました。

瀬下 そうなんですよね。早見さんの演技のうまさは独特なんです。感情を色に例えるとすると、8色とか16色とかでも多いんですが、早見さんはその色数が圧倒的に多くてまさに多彩な演技ができる。「ちょっとだけ感情を抜いて事務的に喋って」というオーダーに、「じゃあやってみます」とか言ってくれてフッと出てきた声音に鳥肌が立つんです。

吉平 サナカンは、実はセリフらしいセリフってないんですよね。「私はサナカン」とか「排除する」とか、全部業務執行命令で決まったテンプレートを話しているだけなんですけど、あんなに情感豊かに、ひと言ひと言シチュエーションによって演技を変えてくださっている。

岩浪 ことごとく、表現が的確でびっくりさせられます。うまいなあ!って。僕は感情がないキャラなのにドヤ顔を見せちゃうサナカンが好きですね。

弐瓶さんがいてくれたから勇気のある決断ができた(吉平)

──劇場版「BLAME!」は弐瓶さんが総監修として参加しています。原作者が現場にいたことで、一番助かった部分はどこですか?

瀬下 迷わないことです。

2017年5月に刊行された「劇場版『BLAME』弐瓶勉描きおろし設定資料集」。弐瓶勉が描き下ろしたイメージボード、背景美術のための建築物の外観や構造図、キャラクターや装備の詳細な設定、絵コンテや演出のために描かれたラフスケッチなどが収録された。

吉平 ちょっと補足しますと、「BLAME!」の世界は非常に難解なので、どこを切り取っていくべきか、テーマは何にするべきかといったところで、いろんな可能性を秘めてるんです。どこを切り取ってもいいし、何をテーマにしてもいい。今回は弐瓶さんが「BLAME!」の道先案内人として存在してくれて、デザインはこういうふうにしようとか、そのコンセプトの意味はこうだとか、自ら指し示していただき、「BLAME!」を定義し直してくれたんです。弐瓶さんがいてくれたから、劇場版は新しい「BLAME!」だけど本当の「BLAME!」でもある。オリジナルでもあるし、最新作でもあるんです。

瀬下 弐瓶さんと僕たちの関係が、「シドニアの騎士」のときからできあがっていたのも大きかったと思います。「BLAME!」の最初の段階で、「弐瓶さん、こういう感じにしようかと思ってるんですけど」っていうと、「いいんじゃないですか」とか「もうちょっとこういう感じは?」とか、本来原作ものと呼ばれる作品で一番大変なところが、弐瓶さんが我々のすぐそばに寄り添ってくださったからこそスムーズにいった。

吉平 相当勇気のある決断……つまり珪素生物を出さないということですが、ここも弐瓶さんが携わってくれたからできた。やっぱり僕らとしても珪素生物は出したかったんですが、出すと話が一気に難解になって2時間の映画では絶対終わらない。ここに関して「劇場版はもうセーフガードと電基漁師と霧亥の3者を描く話にしましょう」とおっしゃってくださって。だから、弐瓶さんが特典用に描いてくださった読み切りを読んで、「2本目が作れたら珪素生物をやっと出せるな」ってわくわくしてます。

瀬下 そうですね。僕は、個人的には劇場版「BLAME!」をハードSF界の「男はつらいよ」にしたいんですよ。

──どういうことですか?

「珪素生物の砦」で描かれた、“赤い珪素生物の女の子”。

瀬下 霧亥は寅さんと一緒で、ずっと旅をしてるじゃないですか。だからずっと劇場版も作り続けられる。そのうち、ファンの間で「次のマドンナは誰だ」と話題になってほしいです(笑)。

──そうか、今回は電基漁師の村のづるがマドンナだったけど……。

吉平 次回は読み切りで弐瓶さんが描いてくれた、赤い珪素生物の女の子!

瀬下 もう次回作のマドンナが用意されている! さすが弐瓶さん、わかってらっしゃいますね。

劇場版「BLAME!」Blu-ray
2017年11月1日発売 / キングレコード
劇場版「BLAME!」Blu-ray 初回限定版

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世界が震撼したハイスペックなフルデジタル映像はそのままに、初回限定版では、音響は5.1chサラウンドに加え、日本アニメのブルーレイディスクとしては初となる“ドルビーアトモス”を採用。音響監督自らが調音した超高音質“東亜重音”仕様のドルビーアトモスとなり、環境次第で極上の音響体験が可能だ。また、監督&プロデューサー陣による本編オーディオコメンタリーも収録。映画の裏話や制作秘話についてじっくりと語る。

音声仕様
  • ①日本語(本編)ドルビーTrueHD ドルビーアトモス
  • ②日本語(本編)リニアPCM(ステレオ)
  • ③日本語(コメンタリー)リニアPCM(ステレオ)
  • ④英語(本編)ドルビーTrueHD(5.1chサラウンド)

※ドルビーアトモスは現行のBDプレーヤーと対応のサラウンドシステムで再生可能。ドルビーアトモス対応のサラウンドシステムを使っていない場合は、自動的に最適な方法で再生される。

本編DISC収録内容
  • 「BLAME!」映画本編
  • 音声特典
    • 本編オーディオコメンタリー「裏ブラム!」 出演:瀬下寛之(監督)、吉平"Tady"直弘(副監督)、守屋秀樹(エグゼクティブプロデューサー)
    • 本編英語吹替え音声
  • 映像特典
    • 本編英語字幕
    • 各種予告編&SPOT映像集
初回限定版特典DISC収録内容
  • 映像特典
    • MAKING OF BLAME! 監督ほか主要スタッフへのインタビューを含む、「BLAME!」本編制作の舞台裏に迫る特別映像。
    • GALLERY OF BLAME! ラフスケッチ、コンセプトアート、カラースクリプト、キャラクター設定画などの貴重な資料の静止画ギャラリー、台本データほか収録。
初回限定版封入特典
  • 弐瓶勉描き下ろしコミックス 原作・総監修の弐瓶勉による、新作描き下ろし短編マンガ。映画のその後を描く、ここでしか読めないレア内容。
  • 1/35スケールフィギュア全5種【彩色仕様完全版】<霧亥、シボ、サナカン、セーフガード(駆除系TYPE-01&02)> 映画前売り特典&入場者プレゼントで好評を博したフィギュアが全種類彩色仕様となった豪華コンプリート版。
  • 縮刷パンフレット 各地で売切れ続出となった映画パンフレットが、縮刷版として復活。
劇場版「BLAME!」
劇場版「BLAME!」
スタッフ
  • 原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
  • 総監修:弐瓶勉
  • 監督:瀬下寛之
  • 副監督/CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
  • 脚本:村井さだゆき
  • プロダクションデザイナー:田中直哉
  • キャラクターデザイナー:森山佑樹
  • ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
  • 美術監督:滝口比呂志
  • 色彩設計:野地弘納
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:菅野祐悟
  • 主題歌:angela「Calling you」
  • 音楽制作:キングレコード
  • アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
  • 製作:東亜重工動画制作局
キャスト
  • 霧亥:櫻井孝宏
  • シボ:花澤香菜
  • づる:雨宮天
  • おやっさん:山路和弘
  • 捨造:宮野真守
  • タエ:洲崎綾
  • フサタ:島﨑信長
  • アツジ:梶裕貴
  • 統治局:豊崎愛生
  • サナカン:早見沙織
瀬下寛之(セシタヒロユキ)
1967年生まれ。1989年リンクス入社。映画「河童」、「パラサイトイブ」やTVCM、ゲーム映像など、さまざまな分野のCG/VFX制作でCGディレクター/デザイナーとして従事。1997年に渡米し、スクウェアUSA製作の映画「ファイナル・ファンタジー」(2001)にてアートディレクターを担当。2000年に帰国し、スクウェア(現スクウェア・エニックス)にて「ファイナルファンタジーX」(2001)、「ファイナルファンタジーXI」(2002)、「キングダムハーツ」(2002)、「ファイナルファンタジーX-2」(2003)などゲームムービー制作のデザイナー/VFXスーパーバイザーを手がける。2004年、カシオエンターテイメント株式会社設立に参画し、エグゼクティブ・ディレクターを務める。松本人志監督作品「大日本人」(2007)、「しんぼる」(2009)にてVFX監督を担当。2010年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。「シドニアの騎士」(2014)副監督、「シドニアの騎士 第九惑星戦役」(2015)監督、「亜人」(2015~2016)総監督、「BLAME!」(2017)監督、「GODZILLA」(2017公開予定)監督。
吉平"Tady"直弘(ヨシヒラタダヒロ)
1999年、ポリゴン・ピクチュアズに入社。CGアニメーションの編集、合成、フィニッシングを専門分野として数多くの作品に関わり高い評価を得る。また映像設計の視覚的検証と編集・仕上げ(フィニッシング)の責任者として、海外テレビシリーズのワークフロー設計や編集システムの構築にもリーダーシップを発揮し、付加価値の高い編集業務の実現に貢献してきた。 2015年以降は​​編集の枠を超えて、テレビシリーズ「シドニアの騎士 第九惑星戦役」では、​副監督/演出として​従事。​​​2017年には、副監督を務める「BLAME!」が公開された。
岩浪美和(イワナミヨシカズ)
1980年代より音響監督としてのキャリアを開始。「ビーストウォーズ」シリーズ、「ガールズ&パンツァー」、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズなど数多くのアニメの音響監督を務めるほか、監督や脚本を手がけるなど幅広く活躍している。