コミックナタリー PowerPush - アトム ザ・ビギニング

SFアイドル・西田藍が手塚眞 / ゆうきまさみ / カサハラテツローに聞く「鉄腕アトム」“エピソード・ゼロ”誕生秘話

ゆうきまさみ(コンセプトワークス)インタビュー

左から西田藍、ゆうきまさみ。

次に西田が訪れたのは、コンセプトワークスを担当するゆうきまさみの仕事場。多忙を極めるゆうきの仕事場からは少し離れた喫茶店で、彼の役割などについて話を聞いた。

どちらかといえば僕はブレーキをかけるほう

西田 ゆうき先生は「アトム ザ・ビギニング」で“コンセプトワークス”としてクレジットされていますけれど、これはどういうふうに作品に関わっていらっしゃるんでしょうか。

ゆうきまさみ

ゆうき そうですね。若い頃の、天馬博士とお茶の水博士のキャラクターデザインをしたりとか。あとは2人が同級生で、一緒にロボットを研究しているっていうのは僕が考えたコンセプトに沿ったものですね。

西田 私は若い天馬博士がすごく好きで、ドキッとさせられたんですけど。「鉄腕アトム」では言っちゃえば反目しあっているお茶の水博士と天馬博士が、若い頃は実は仲がよかったっていうのにキュンとさせられて。そういう設定もゆうき先生が?

ゆうき ええ。ただ「鉄腕アトム」を読んでいると、この2人は若い頃は仲がよかったに違いないって普通に思えるので、自分で作ったという感じはしないですが。その状況から、この作品でどういう空気を作っていくか、ということを考えています。でもカサハラ先生がすごく描けちゃう人なので(笑)、描いてこられた物に意見することが多いですね。

西田 どんな発言をされるんでしょうか。

「アトム ザ・ビギニング」より、A106の戦闘シーン。

ゆうき 物語では今、A106がどんどん成長していますよね。それに対して僕はブレーキをかけるほうで。A106の完成度が上がりすぎちゃったら、何十年後かにアトムを作る理由がなくなってしまうので。

西田 なるほど。あっという間にアトムの完成度に迫って、このまま行くともうしばらくで作れちゃいそうです。

ゆうき 僕の場合、A106がここまで運動能力高くて、スピーディーに動きまくっていいのかっていう気持ちはどうしてもあるんですよ。もう少し不器用な動きになるんじゃないかなとか。でもそういった部分に縛られすぎると面白くなくなっちゃうし、悩みどころではあります。

アトムはやっぱりかわいらしい

西田 福岡のロボスクエアというところにロボットの関連図書コーナーがあるんですけど、そこに「機動警察パトレイバー」のマンガ版もあって、私もよく読んでいたのを覚えています。ゆうき先生がご自作を描かれるときと、コンセプトワークスとして携われるときとの意識の違いはありますか。

ゆうき やはり「鉄腕アトム」の外伝だから、自分で勝手にいろいろ考えるというわけにはいかないというのはありますね。そもそもアトムとレイバーは全然違うものですし。ロボットっていうのはやっぱり自分で考えて、自分で作って動くっていうのが要件としてあるんですよ。だからそういう意味でいうと僕、ロボットマンガは「究極超人あ~る」ぐらいしか描いていないんです。

西田藍

西田 なるほど。あ~るくんも人間っぽいロボットですけれど、アトムとは雰囲気が違いますね。

ゆうき アトムはね、やっぱりかわいらしいなと思うんです。昔、「鉄腕アトム」と「鉄人28号」が少年(光文社)っていう同じ雑誌に載っていたときは、女の子はアトム好き、男の子は鉄人28号好きっていうふうに大体分かれちゃってて。

西田 ゆうき先生は「鉄人28号」派だったんですか。

ゆうき ええ。お話の転がり方がすごく面白くて好きでしたね。アトムというか手塚作品はね、子供心になんというか……少し気持ちの悪いところがあって。例えば「鉄人28号」に出てくるロボットは、壊れてスクラップになっても何とも思わないんだけど、アトムのそれはグロテスクに感じられて。

西田 わかります。私はすごくフェティッシュな雰囲気も感じるんですよね。

ゆうき スクラップというよりは死体に近いというかね。だから「地上最大のロボット」のエピソードなんか、出てくるロボットたちがどんどん壊されてすごくかわいそうに思ってしまうんですよ。

「鉄腕アトム」より。

西田 ヒーローズの綴じ込み付録にあった「鉄腕アトム」の第1話でも、いじめられて売り飛ばされていくシーンとか、本当にかわいそうですよね。大人になって見てみると、いじめられているアトムにちょっとドキドキしたりして……(笑)。なんだか、いけないかわいさがあるなと思って。

ゆうき うんうん。僕らはマンガを読むとき、登場人物を絵としてではなくて、人としてとらえているんですよね。ちょうど実写映画を観ているのと近い感覚。だからマンガに出てくるアトムも、人間に似ているから、かわいくもあり、気持ち悪くもある。そういう意味では、A106はすごくいいバランスだと思っています。

こういう与太話をするのが仕事

西田 1巻の最後では、A106には自我のようなものが芽生え出しました。アトムのように、人の善悪を判断できる高度なロボットになっていくんでしょうか。

ゆうき そうですね……今思い付いたんですが、人工知能が成長しすぎて、人類の手に負えなくなっていくというのはありえるかもしれないですね。だから天馬博士はアトムに、成長しすぎないような枷をかけてしまったというのはどうだろう。

左からゆうきまさみ、西田藍。

西田 なるほど、人間のように自我がどんどん育ってしまってはいけないと。

ゆうき それはロボットが人を殺したりしてはいけないという、ロボット工学三原則にも通じますよね。そういう要素も、この作品の中で形作られたら面白いかもしれない。

西田 ロボットであっても自我が芽生えて、禁忌とするものは何なのかという。

ゆうき うん。人間が法律があるからとかっていう理由じゃなくて、どこかで神様が見てるから悪いことはしない、みたいな倫理をどんなふうにロボットは身に付けていくのかっていう。今後ロボットや、人工知能の研究でリアルに出てくる問題だと思いますよ。

西田 なるほどー。ゆうき先生とお話していると、どんどん話題が広がっていきますね。

ゆうき こんな感じで、世界観というか大きな枠組みを作っているというかね。平たく言ってしまえば、こういう与太話をするのが仕事みたいなところがありますけど(笑)。今日のインタビューの最中にいろいろ思い付いたこともあるので、「アトム ザ・ビギニング」はどんどん面白くなると思います。

西田 私もゆうき先生の考えられるロボットが大好きなので、その世界観の中で物語がどう動くか、すごく期待しています。

ゆうき ありがとうございます。

手塚治虫 / ゆうきまさみ / カサハラテツロー / 手塚眞 / 手塚プロダクション 「アトム ザ・ビギニング(1)」 / 2015年6月5日発売 / 605円 / 小学館クリエイティブ
「アトム ザ・ビギニング(1)」

ロボットの未来がここにある。
鉄腕アトム誕生までを描く物語、開幕──!!

原因不明の大災害に見舞われた近未来の日本。それから5年後、復興が進む日本のとある大学に、ロボット開発にすべてを懸ける2人の若き研究者の姿があった──。

“ゆうきまさみ”דカサハラテツロー”という、ロボット漫画を描き続けてきた2人が新解釈で描く、永遠のヒーロー“鉄腕アトム”誕生までの物語がいよいよ開幕!!

ゆうきまさみ
ゆうきまさみ

1957年12月19日北海道生まれ。1980年、月刊OUT(みのり書房)に掲載された「ざ・ライバル」にてデビュー。同誌での挿絵カットなどを経て、 1984年、週刊少年サンデー増刊号(小学館)に掲載された「きまぐれサイキック」で少年誌へと進出。以後、1988年に「究極超人あ~る」で第19回星雲賞マンガ部門受賞、1990年に「機動警察パトレイバー」で第36回小学館漫画賞受賞、1994年には「じゃじゃ馬グルーミン★UP!」と立て続けにヒット作を輩出する。また1985年から月刊ニュータイプ(角川書店)にて連載中であるイラストエッセイ「ゆうきまさみのはてしない物語」(角川書店)などで、ストーリー作品とは違う側面も見せている。2012年には、1980年代より執筆が続けられていたシリーズ「鉄腕バーディー」を完結させた。

西田藍(ニシダアイ)

アイドル。1991年生まれ。「ミスiD(アイドル)2013」で準グランプリを受賞しデビュー。文芸アイドルとして書評、エッセイなど執筆活動も行う。NHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史」出演。S-Fマガジン2014年10月号(早川書房)にて表紙グラビアを飾り、同誌2015年1月号より「にゅうもん! 西田藍の海外SF再入門」を連載中。SFと美少女と女学生の制服が大好き。