コミックナタリー PowerPush - アトム ザ・ビギニング
SFアイドル・西田藍が手塚眞 / ゆうきまさみ / カサハラテツローに聞く「鉄腕アトム」“エピソード・ゼロ”誕生秘話
カサハラテツローインタビュー
最後にカサハラテツローの仕事場に足を運んだ西田。そこでは驚いたことに、立って執筆を行っているカサハラの姿が。ライターとしても活動している西田は、その執筆方法に興味津々なようで……?
ヒーローズは線の太い作家さんが多くて
西田 先ほどカサハラ先生のお仕事場にお邪魔してびっくりしたんですが、先生は立ったまま原稿を描かれているんですね。
カサハラ そうですね。前は座っていたんですけど、「アトム ザ・ビギニング」から立って描こうと。
西田 どういった理由があったんでしょうか?
カサハラ 月刊ヒーローズで連載されているマンガ家さんの作品って、今まで私が描いてた雑誌と比べて線が太いんですよ。だから立って力を込めて、ギュッと描くようにしているんです。
西田 そういった理由だったんですね。実際に変化はあったんでしょうか。
カサハラ それがね、全然太くならないんです(笑)。これでも自分の中では精一杯太く描いているんですけどね。でも慣れてみると意外にお尻も痛くなくて。最初は足に結構痛みがあったんだけど、最近は大丈夫になってきたし。あと驚いたことに、私はすごく肩こり持ちだったんですが、それがなくなりました。
西田 ええっ、うらやましい! 私も肩こり持ちなんですよ。私もこれから、書き仕事のときは立ってやろうかな。
ヒーローとして生まれたA106
西田 月刊ヒーローズでの連載ということで、ほかに意識されていることはありますか?
カサハラ そうですね……実は最初、ゆうき先生からいただいたシナリオではA106は出てこず、天馬博士とお茶の水博士をメインで描く流れだったんですよ。小学生ぐらいの背丈の、マスコット的な存在としてのロボットはいたんですが、そのときヒーローズさんのほうから「この雑誌のマンガはヒーローを出してほしい」って言われて。それでこの子を大人にしようということで、A106が生まれました。
西田 へえ。A106は最初、こんな背格好ではなかったんですね。
蘭の初恋相手にA106を
西田 カサハラ先生はメカメカしいロボットのほうがお好きなんですか?
カサハラ つるんとした流線型のものよりは、ごつごつしたメカっぽいもののほうが好きです。バイクの中でもスクーターみたいに覆ってあるものよりは、エンジンが丸見えになっているマシンのほうが好きだったりして。A106にもそういう部分を反映しています。
西田 表情も基本的にはありませんよね。そのぶん、ロボレスのシーンでほかのロボットに話しかけるシーンはインパクトがありました。あそこではもう、自我のようなものが芽生え始めているんですよね。
カサハラ そうですね。気付いているのはお茶の水博士の妹である蘭だけかもしれないんですが。A106が蘭の初恋相手、みたいになればいいなと思っているんですけど、なかなかそういうエピソードを描くタイミングがなくって(笑)。
西田 女の子の造形は、基本的にカサハラ先生が考えられているんですよね。どのように考えたんでしょうか。
カサハラ 第1話がカラーページから始まるってことになったとき、最初のシナリオではアトムの最初のシーン、トビオが事故に遭うシーンから始まる予定だったんです。ところがゆうき先生が「せっかくカラーページなら、女の子を出しましょう!」っておっしゃって。じゃあ急遽お茶の水には妹がいたという設定で、メガネとリボンというわかりやすい要素を使って作り上げました。
西田 第1話の制作は結構ギリギリだったんですね。
カサハラ そうそう。最初の段階では、天馬がお茶の水に、先にバイトへ行っててくれって言うシーンで1話は終わりだったんです。
西田 ええーっ。A106の活躍シーンが1つもない……。
カサハラ そうなんですよ(笑)。だからもっとヒーローっぽいことをさせましょうということで、テーマパークで人々を守るエピソードが入ってきたんです。
西田 なるほどー。1話の最後、この鼻をつまみ合う2人のシーンが、すごく好きです。2人の関係が可愛くて。いちゃつく天才青年2人、って感じで萌えキュンです。
カサハラ これは担当さんから「2人が何かうまくいったときの決め台詞とかポーズっぽいのがあったほうがいい」って言われまして。はじめはただ「よかったなあ」って言い合うだけだったのが、鼻をつまみあって「俺たち天才!」って言い合う、というシーンになりました。私の中ではこうやって2人は鼻を引っ張り合っているから、将来でかくなってしまうという。
西田 ああーなるほど!(笑) お茶の水博士も天馬博士も鼻が大きいですものね。すごい伏線!
最後にはスカっとするマンガにしたい
西田 カサハラ先生の中では、この物語をどのように描きたい、というのはあるんでしょうか。
カサハラ 僕の中ではロボットは何かとか、どうあるべきかということよりも、「人と話すのは苦手だな」「自分は1人ぼっちなんだな」と思っている人に響くように描けたら、と思っていて。読者がこのA106に感情移入して、心ってなんだろうっていうのをもう一度紐解くきっかけになればいいなと考えています。だから人工知能の解析というよりはむしろ、人間の心のストーリーにできたらと。
西田 なるほど。読者がA106を人間としてとらえられるような。
カサハラ だといいなって。A106本人も、周りに言われるまま「僕にはまだ心がない」って思ってるんですよね。
西田 「我思う」なのに、「我あり」と気付いていない状態ということですね。考えてみると私も1巻の最後のロボレスのシーンで、A106を人間として見ていたと思います。彼の心が、これから何を感じていくんだろうっていうのがすごく気になりますね。
カサハラ ええ。一緒にやってる眞さんやゆうきさんからもいろんなアイデアをいただくんですけど、それらをどうやって形にしていくかは悩ましいです。
西田 まだ決まっていないんですね。かわいそうな展開にならないといいな、って思っていますが……。
カサハラ そうですね。やっぱり私は、大人が子供に勧められるようなマンガにしたいと思っていて。「鉄腕アトム」がとても深いテーマを扱っている分、「アトム ザ・ビギニング」も小難しいマンガだと思われてしまうかもしれないけど……昔ジャンプが大好きだった僕らの世代の人や子供たちに読んでもらって、やっぱり最後にはスカっとするマンガにしたいと思ってるので。
西田 それを伺えて安心しました! 本日はありがとうございました。
取材を終えて……
まず、お三方の好みのロボット観というのを伺って、その違いの大きさにびっくりしました。それがどのように融合して「アトム ザ・ビギニング」の物語に結実していくのか、考えるだけですごくわくわくします。
またストーリーが進むのと同時に、現実の人工知能やロボットの技術も進んでいく。そういった部分も取り込みつつ、どのようにフィクションならではの描写がなされて、「鉄腕アトム」の冒頭に向かっていくのか。私も「鉄腕アトム」そして「アトム ザ・ビギニング」の一ファンとして、本当に楽しみにしています!
- 手塚治虫 / ゆうきまさみ / カサハラテツロー / 手塚眞 / 手塚プロダクション 「アトム ザ・ビギニング(1)」 / 2015年6月5日発売 / 605円 / 小学館クリエイティブ
- 「アトム ザ・ビギニング(1)」
ロボットの未来がここにある。
鉄腕アトム誕生までを描く物語、開幕──!!
原因不明の大災害に見舞われた近未来の日本。それから5年後、復興が進む日本のとある大学に、ロボット開発にすべてを懸ける2人の若き研究者の姿があった──。
“ゆうきまさみ”דカサハラテツロー”という、ロボット漫画を描き続けてきた2人が新解釈で描く、永遠のヒーロー“鉄腕アトム”誕生までの物語がいよいよ開幕!!
カサハラテツロー
1967年生まれ。1993年、3年の科学(学習研究社・当時)掲載の「メカキッド大作戦」でデビュー。メカニカルなロボットの描写に定評がある。代表作に「RIDEBACK」「ザッドランナー」など。近作の「フルメタル・パニック! 0」(KADOKAWA)の最新4、5巻は「アトム ザ・ビギニング」1巻と同日発売。
西田藍(ニシダアイ)
アイドル。1991年生まれ。「ミスiD(アイドル)2013」で準グランプリを受賞しデビュー。文芸アイドルとして書評、エッセイなど執筆活動も行う。NHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史」出演。S-Fマガジン2014年10月号(早川書房)にて表紙グラビアを飾り、同誌2015年1月号より「にゅうもん! 西田藍の海外SF再入門」を連載中。SFと美少女と女学生の制服が大好き。