逃げるのではなく、自分から飛び込んでいくような主人公
──先に敵サイドの話で盛り上がってしまいましたが、主人公の黎とアラタについても聞かせてください。キャラクターデザインなども、原作側で希望を出したりされているんでしょうか。
本兌 そうですね、髪の毛の長さとか性格とかをお伝えして、羽生生先生にショートカットの女性を何タイプか描いていただき、そのラフから「これでお願いします!」と決めていきました。僕、羽生生先生の描く、筋肉質なんだけど骨っぽさのある女性が好きで。黎もすごくいい感じに描いていただけていてうれしいです。
杉 話が進むにつれて黎の服装が変わるのもいいよね。オフィスでのスーツ姿、家でのラフな格好、それからライダースジャケット。「青(オールー)」とかでもそうだったんだけど、羽生生先生のマンガで服装や髪型が変わると、なんだかキャラクターが引き締まるんですよ。内面の変化が見た目にも現れて、目付きとかまで変わって見える。
本兌 ギャップがいいよね。脚本にない日常のやり取りなんかでも、羽生生先生に肉付けしていただいた部分が効いていて、人間らしい魅力が出ているなと思っています。内面的には、激しい“獣性”みたいなものを抱えているんだけど、現代社会ではそれを発揮する手段がなかなかないというキャラクター。“希望捨ストリートのハズレの市営住宅のヤバい美女”として自分を解放してはいるんだけど、それだってちょっと回り道をしている。そんな彼女が、内に抱えたものをそのまま出していいんだよっていう筋道を与えられたときに、どこまで極端になれるか。それが1つのテーマです。
杉 黎が変身したときの尻尾もカッコいいよね。オーラを背負ってるみたいに見える。仏像の光背みたいですごくいい。
本兌 尻尾は羽生生先生のアイデアなんですよ。彼女の人間離れした異形性が見た目でわかるよう、何か象徴的なものを出したいと話していたときに、「尻尾はどうですか」と提案してくださって。
羽生生 そうでしたっけ(笑)。でも見栄えがいいから、尻尾をなるべく生かした画面作りは心がけています。アクションシーンとかでも力の方向が、今どっちに動いているのかとか、何をしてるのかとかがわかりやすいから便利ですよね。
──そんな“強い人間”である黎が、一見あどけなさの残る子供・アラタと出会い、保護したことから物語が動き出します。
本兌 最初は黎だけで戦っていくことを考えていたんですよ。それが、打ち合わせで羽生生先生に映画を紹介してもらって……なんてタイトルでしたっけ?
羽生生 「グロリア」っていう、中年女性がマフィアに追われる子供を連れて逃げる映画があるんですが、いただいた脚本を読んでなんとなくそのビジュアルが浮かんだんです。それで「こんなのありますよ」ってお話をしたのかな。
本兌 そこからイメージをもらって、黎を戦わせるために、守る存在として子供を入れる形を考えたんですけど、逃避行みたいにするよりは、主人公の側から飛び込んでいく、どんどん奪っていく話にしたかった。アラタをただ守られるだけじゃない、底知れなさを感じられるキャラクターにできたことで、この作品の完成形が見えたように思います。
この先も、テンションはずっと右肩上がり
──1・2巻同時発売となりますが、このタイミングで手に取る方にメッセージをいただけますか。
杉 アクションもの、バイオレンスものにエモーションが噛み合ったときの気持ちよさ。そういうものを求めている人に、ぜひ読んでほしいなと思います。魅せ方もスタイリッシュに、「今だったらこうだろう」ということをやっていますので。とにかくカッコいいです!
本兌 普段ほかの作品を読んでいて、バトルの途中にエピソードが挟まったりすると「もっとバリバリ戦ってほしいのに!」って思うことがあるんですけど(笑)、「アラタの獣」はそういうことがないように意識して作っています。目指しているのは、頭からお尻まで全部あんこが入ってる鯛焼き。バイオレンスとアクション、そして異形、そういうのを読みたい人は絶対楽しめると思いますよ。
羽生生 おふたりが言ってくれたことが全部で、俺から言うことはもうないんですけど(笑)、強いて言うなら単行本が“ブツ”としての存在感もいい感じなので、ぜひ手に取ってみてもらいたいです。クロコダイルの体表みたいな、ブツブツゴツゴツした紙を使ってくれていて、それがすごくこの作品の雰囲気にハマってる。
本兌 デザインめちゃくちゃオシャレですよね。モダンな感じ。
杉 ブリスターに入ったフィギュアみたいな、いい意味でトイっぽさがあるデザインだよね。
本兌 あとやっぱり2冊イッキ読みしてもらうと、さらに楽しめると思います。書いている僕ら自身、このタイミングで読み返してすごく興奮しました。
──3巻以降はどうなっていくのでしょう。
本兌 グラフで表すと、第1話からずっと右肩上がりにテンションを上げ続けているんですが、この先もどんどんエスカレートしていきます。どんどん過剰になっていくのを楽しんでほしいです。
羽生生 俺も今後どうなるか、ちょっとしかわからず描いてるんですよね。読者と同じ目線で先が楽しみです。
杉 我々も羽生生先生より1カ月くらい先の展開しかわかっていないです(笑)。
本兌 毎回出し惜しみをせず、出しちゃってから考えようと。そんな感じでライブ感、ドライブ感、グルーヴ感を持ってやっているので、皆さんも一緒になって楽しんでもらえたらうれしいです。
プロフィール
羽生生純(ハニュニュウジュン)
1970年生まれ。主な著作に「この物語でネコに危害はいっさい加えておりません。」「恋の門」「俺は生ガンダム」「ゼツ倫」「ルームロンダリング」「グッド・バイ」など。「恋の門」は2004年に監督・松尾スズキにて実写映画化。「グッド・バイ」も2018年にTVドラマ化されている。
本兌有(ホンダユウ)
1978年生まれ。現代的パルプエンタテイメントを追求するクリエイターユニット、ダイハードテイルズ所属の作家。好きな映画は「コナン・ザ・グレート」。ダイハードテイルズの代表作は「ニンジャスレイヤー」「ハーン・ザ・ラストハンター」など。「ニンジャスレイヤー」は2015年にアニメ化、複数のコミカライズも展開されている。
杉ライカ(スギライカ)
1979年生まれ。現代的パルプエンタテイメントを追求するクリエイターユニット、ダイハードテイルズ所属の作家。好きな映画は「デスペラード」。ダイハードテイルズの代表作は「ニンジャスレイヤー」「ハーン・ザ・ラストハンター」など。「ニンジャスレイヤー」は2015年にアニメ化、複数のコミカライズも展開されている。
「アラタの獣」発売記念 関連作品フェア実施中!
ビームコミックスより展開されている羽生生純の各シリーズ1巻が、電子書店で税込99円で読める! 2巻以降も50~70%オフ。また本兌有+杉ライカのKADOKAWA作品は50%オフに! 期間は2022年3月24日(木)まで。
羽生生純「恋の門(1)」
羽生生純「恋と問(1)」
羽生生純「この物語でネコに危害はいっさい加えておりません。」
羽生生純「千九人童子ノ件」
羽生生純「青 オールー(1)」
ブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ、本兌有、杉ライカほか「ニンジャスレイヤー第1部 ネオサイタマ炎上(1)」
余湖裕輝、本兌有、杉ライカほか「ニンジャスレイヤー(1)~マシン・オブ・ヴェンジェンス~」
さおとめあげは、本兌有、杉ライカほか「ニンジャスレイヤー グラマラス・キラーズ(1)」
ブラッドレー・ボンド、フィリップ・N・モーゼズ、本兌有、杉ライカほか「スズメバチの黄色」
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