「恋の門」の羽生生純と「ニンジャスレイヤー」のダイハードテイルズ(本兌有・杉ライカ)がタッグを組んだ、“混ぜるな危険”のアクション活劇「アラタの獣」。その単行本1・2巻が一挙に刊行された。物語の舞台は異形化ヤクザの集団・箆鮒會(ヘラブナカイ)のシマ、東京湾市・希望捨ストリート。欲望ひしめき合うこの街の片隅で、会社員の黎(レイ)は満たされぬ本能を満たすように、夜毎カラダを売っていた。しかし奇妙な少年・新(アラタ)との出会いから、彼女は箆鮒會との壮絶な戦いに身を投じていく。
コミックナタリーでは単行本の発売に合わせ、羽生生と本兌、杉の3人にインタビューを実施。連載開始の経緯や個性豊かなキャラクターたちの魅力、物語の見どころなどについて語ってもらった。もともと羽生生の大ファンだったという本兌と杉は、「アラタの獣」をまさに自分たちが読みたかった羽生生マンガだと話す。ストーリーを担当していない羽生生は、先の展開がわからないと語りつつ、だからこそ目の前の作画に全力投球できるとコメント。天井知らずで突き進む「アラタの獣」、その制作現場の熱を感じてほしい。
なお3ページ目からは「アラタの獣」を第2話まで無料公開。お見逃しなく!
取材・文 / 鈴木俊介
これが俺たちの読みたい羽生生マンガだ!
──まずはこの組み合わせで連載をやることになった経緯からお聞きできますか?
杉ライカ もともと僕ら、羽生生先生の作品の大ファンだったんです。特に本兌は、以前からプライベートでも先生とお付き合いがあって。
本兌有 タイム涼介先生が、僕と羽生生先生の共通の友人なんです。そのつながりから、一緒にゲームをしたり日帰り旅行に出かけたりと、とても仲良くさせていただいていました。
羽生生純 本兌さんたちが「ニンジャスレイヤー」で人気になられる前からですもんね。それをビームの編集長の清水さんがご存知で、一緒にやってみませんかと声をかけてくださったんです。最初に顔を合わせて打ち合わせしたのは、2020年の11月とかでしたっけ。
──「アラタの獣」は2021年3月12日発売の号でスタートしていますから、そこから連載開始までかなりスピーディだったんですね。
羽生生 最初の打ち合わせでトントン拍子に話がまとまったんですよね。そのスピード感、勢いみたいなものを、清水さんが活かしてくださったんだと思います。
──原作のおふたりは、「羽生生さんとやりませんか」とお話をもらってすぐ、物語の案が浮かんだんですか。
本兌 そうですね、「羽生生先生のこんな作品が読みたい!」って思っているものがあったんですよ。羽生生先生の作品は「ファミ通のアレ(仮題)」(原作・竹熊健太郎)の頃から読んでいて、やっぱり「恋の門」がきっかけで特に読むようになったんですが、「恋の門」のすぐ後に描かれた「青(オールー)」という作品のイメージが強くて。あれから約20年、さまざまなキャリアを重ねてこられた羽生生先生に、もう一度「青(オールー)」のようなバイオレンスアクションを描いてほしかったんです。
杉 僕も本兌とほぼ同じですね。「ファミ通のアレ(仮題)」で羽生生先生を知って、その印象が強かったので、僕はずっと羽生生先生のことを女性だと思ってたくらい(笑)。それから「青(オールー)」を読んで、やっぱり大好きになって。
※「ファミ通のアレ(仮題)」には羽生生が、女性型アンドロイド・羽生生純子として登場する。
本兌 近年の作品ももちろん面白いですが、どちらかというと変化球に感じるものが続いていたので、ここらで一度どストレートなやつを描いていただきたいと。
杉 うん、とにかくアクションがカッコいいやつ。
羽生生 最初の打ち合わせのときは、ちょっと現代ホラーっぽい話の案も持ってきてもらっていたんですよね。そっちも俺がやりそうな感じではあったんですけど、「アラタの獣」のほうが直接的にアクションを描けそうだったし、異形のバケモノと戦うって切り口もわかりやすかったです。
本兌 羽生生先生のマンガで、田舎を舞台にした「千九人童子ノ件」ってホラーがあるんですけど、その作品の後半に登場する異形のイマジネーションがものすごくて。その超常的な部分をヤクザアクションとくっつけたら、きっとケミストリーが起こると思ったんです。それが「アラタの獣」の始まりでしたね。
杉 第1話の完成原稿をもらったときは、超テンション上がったよね。
本兌 「読みたかったやつがきた! すげえ!」みたいな(笑)。中でも亜倍流(アベル)っていう、サメ型の異形に変身するヤクザがいるんですけど、あいつのビジュアルを見た瞬間が本当にうれしかった。
羽生生 ストーリー部分の肩の荷が下りてるぶん、力を絵に思いっきり回せるんですよね。怪物とかを描くのももともと好きだし、思う存分描くぞと意気込んでいます(笑)。
「ニンジャ」が好きな人は手に取って間違いなし
──羽生生さんは好きなキャラ、描いていて楽しいキャラを挙げるとしたら?
羽生生 いろいろいますけど、荼毘泥(ダビデ)かな。腕から刀を出すヤクザ。俺は今回、そのキャラクターがどうなるかほとんど知らずに描いているんですけど、荼毘泥は回を追うごとに存在感が強まっていって、描くときも思わず力が入りました。2巻で主人公の黎(レイ)と激突するんですが、あのバトルは自分でもうまくハマったという感じがしていて、ぜひ読んでいただきたいです。
杉 あの決着シーン、すごくエモーショナルですよね。あれがあるから、2巻まで一気に読んでほしい。
羽生生 あと亜倍流の部下のポチにも愛着があります。みんなが自分の欲望ばかりで生きている中、あいつだけは愛に生きている感じがしていいなって。もともとあっさりやられちゃう予定だったみたいなんですけど、打ち合わせで出番を増やしてもらいました(笑)。
本兌 羽生生先生の描くポチがあまりに生き生きとしたいいキャラクターだったので(笑)。そういうライブ感は今回すごく重視していて、もちろん設定としてはいろいろ考えて準備しているんですが、がっちり決めすぎず、その時々で面白いと思うもの、いいと思うものを詰め込んでいきたい。打ち合わせでの意見交換もそうだし、僕は百笑(ドウメキ)組の財醐(ザイゴ)が、羽生生先生の“罵り合いながらドタバタするイズム”みたいなものがすごく出ていて好きなんですが、脚本として渡す段階では細かい罵り声とか叫び声はあまり入れていないんです。だけど、羽生生先生のマンガとしてできあがったものを見せていただくとそういう要素が増えていて、結果キャラクターが魅力的になって面白い。
羽生生 そこは原作を尊重したい気持ちと、自分の爪痕を残したいっていう気持ちのせめぎ合いで(笑)。合わないと言われたら削るんですが、なるべく提案していきたいとは思ってますね。先の展開がわからないから、「羽生生さん、これ言っちゃダメなやつです」みたいなことも多分出てくると思うんですけど。
本兌 でも自由に入れていただくことでいいグルーヴが生まれると思うので。我々も楽しみにしているところです。
──読んでいて感じたのは、バトルに入る前に少し敵の回想シーンが挟まるじゃないですか。あれがすごく印象的で、戦う前から敵のヤクザに対して愛着が湧きました。
本兌 それは「ニンジャスレイヤー」の翻訳チームとしてTwitter連載とかをやってきて身に付いた“よさみ”を、この作品にもしっかり込めているからだと思います。「ニンジャスレイヤー」の魅力の1つは、やっぱり倒されるニンジャにもドラマがあるところだと思うんです。どんな恐ろしい敵にもエモーショナルな過去があって、それがちょっと垣間見えて死んでいく。敵をただ敵としてだけ描くんじゃなくて、感情移入できるキャラクターとして描きたい。それを「アラタの獣」でもきちんとやっているので、「ニンジャスレイヤー」のそういうのが好きな人は「アラタの獣」も手に取ってもらって損はないと思います。
杉 基本このマンガはアクションやバトルがメインなんですが、そこにほんの一瞬エモーショナルなシーンが挟まると、すごく心に刺さるんですよ。亜倍流の過去の学生時代の話なんかも、ページにしたらちょっとなんですが、僕自身とても印象に残っている。亜倍流は序盤から登場しているし、どんどん思い入れが強くなっていて、取り巻きも含めて好きですね。
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逃げるのではなく、自分から飛び込んでいくような主人公