コミックナタリー Power Push - 「アリスと蔵六」
どんな空想も、彼女が願えば現実に アニメ化記念今井哲也インタビュー"
都会の雑踏には、真っ当な人もアウトサイダーもいていい
──突然ですが、ここでお便りのコーナー。マンガ家の西尾雄太さん(@snobby_snob)から質問が届いています。「『アリスと蔵六』はフィクションが現実を侵略していく骨子なので現実の側の情景にできるだけリアリティを込めるのは必然だったかと思うのですが、主人公(たち)が冒険から帰ってくる居場所にわかりやすいホーム、郷里、ではなく他人があふれ、流れる原宿を選んだことにどんな意味を込めたのでしょうか」。
西尾さんは何をやってるんですか(笑)。
──アニメ化の発表時に大きな反響があり、Twitterでたくさんのマンガ家さんがお祝いのコメントをされていたのが印象的だったもので。西尾さんは今井さんとご友人ということで、この取材の前にアンケートを取らせていただきました。
舞台の話ですね。一番ちっちゃいレベルの話をすると、蔵六の花屋が原宿にあるのはモデルにさせてもらったお店が実際にそこにあるからです。ホームを都会にしたのは……僕自身が東京に住んでいるっていうのもあるんですが、そもそも人混みってものがすごい好きなんですよ。
──そこの好みって人によってはっきりと分かれますよね。どちらかというと、嫌いという人のほうがよく見かけますが。
いろんな種類の人がいるのが楽しくて。日曜日にちょっと買い物に来た老夫婦みたいな人と、何を仕事にしてるのかよくわからない変な人が、都会の雑踏なら一緒にいてもおかしくない雰囲気がある。そういう場所なら、紗名や蔵六もモブの1人として溶け込める気がして。たぶん田舎を舞台にしていたら、このマンガはぜんぜん違う話になっていたんじゃないかと思います。
──それはなぜ?
田舎の人間関係の狭さからして、その地域のコミュニティに紗名っていう異物がどう受け入れられるかっていう部分に主軸を置いた話になっちゃうと思うんですよ。そもそも蔵六と早苗も、孫とおじいちゃんで両親がいないっていう特殊な家庭だし。そこにさらに紗名っていう変な子が越して来たら目立ちすぎる。このマンガでは紗名みたいな子も、人目を気にせずのびのび暮らせたらいいなと思って。記号的な郷里感よりも、周囲は他人なのが当たり前みたいな環境を用意しました。
──なるほど。ただ、人混みを描くのは作業的に大変そうですよね。
3巻に出てきた中華街で追いかけっこをするシーンとか、モブもいるし、建物もごちゃごちゃしてるし、バイクとか出てくるし、ここはもう描きながら死ぬ……死ぬ……と思っていました。けど、なんか背景を描くのって好きなんですよね。こういう広さとか、こういうくらいの空間とか、この場所にいるっていう状態を表現したくて。狭い場所とか広い場所とか通りとか、いろんなロケーションを出すんですけど、総じて作業的には大変ですね。
──さらに言うとアニメでは、その雑踏を動かすわけで。
J.C.STAFFのプロデューサーの松倉友二さんに背景が大変じゃないですかって話はしたんですけど。割とあっさり「ああ、やりますよー」みたいな感じなので、びっくり。僕はいつも、ただただびっくりしてます。
──アニメで一番楽しみにしている部分はありますか?
内藤ってキャラが、アニメになると想像以上にいいんですよ。監督も「出番を増やしたくなった」って言ってて。後半ちょっとカッコいいシーンがあるので、期待してます。
「アリスと蔵六」は今井哲也のワンダーランド
──原作は単行本7巻まで発売されていますが、あとどのぐらい物語は続く見通しなんでしょうか?
僕は知らないです。
──ええっ?
ぶっちゃけ、第1話のネームしかない状態で連載は始まりましたからね。1巻分を描き終わる頃になって、これは大人になった紗名が子供時代を回想する話ということにしたら最終回までまとまると思いついたし。「不思議の国のアリス」っていうモチーフも初めからあったわけじゃなく、漠然とした超能力の設定に説得力を持たせるアイデアとして出た案で。
──意外です。結構ライブ感のある作り方をしているんですね。
「ぼくらのよあけ」がカチッと構成の決まったお話だったので、その方向性を求められているなという実感はありました。でも自分で枠組みを作っちゃうより、違うことも一旦やってみたくて。だから今は逆に、思いついたことをどんどん突っ込んでいってる感じです。打ち合わせで言ったのと違うことを描いてしまったりもするんですけど、やっぱりそこは連載なのでライブ感を大切にして。(ろくろを回すポーズで)キャラクターの行動から生まれたグルーヴで担当さんとセッションを……ねえ、猪飼さん?
猪飼 はい、セッション? なんかこう今井さんは、容量が大きい作家さんだと思うんですよね。好奇心が強くて、素直にどんどんインプットをする。そうして取り込んだものを、アウトプットしてくる感じが常にあって。新キャラとか新エピソードとか、急に出てくるんです。だいぶ色合いの違うものが混ざってるんですけど、それを総合して飲み込める設定が作品にあるので、結果的に今の作り方が物語自体を豊かなものにしてるんじゃないかと。何をやっても、きちんと集約できる手応えがあるというのは見ていて面白いと思うんですよね。
確かに最近になってようやく、どれだけ脇道になっても、たぶんこういうゴールにいけるなっていう感じは見えてきた気がしますね。インプットの話は、自分ではよくわかんないですけど。そんなしてます?
猪飼 マンガに出てくる「ワンダーランド」って、紗名を通してこの世界を学習していますよね。知りたいっていう無意識の衝動そのものというか。そういうものを描こうっていう発想が出ること自体が、作家性の現れかなと。冗談じゃなく。
──「アリスと蔵六」は今井哲也のワンダーランドと。
無理やり話がつながったかもしれない(笑)。連載では、次から蔵六の過去編が始まる予定です。単行本1巻分くらいを使ってキャラクターのバックボーンを描いていくので、蔵六の内面が明らかになったら、紗名との掛け合いもより面白くなるんじゃないかと。楽しみにしていてください!
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テレビアニメ「アリスと蔵六」
放送情報
- TOKYO MX:2017年4月2日(日)22:30~
- KBS京都:2017年4月2日(日)23:00~
- サンテレビ:2017年4月2日(日)24:30~
- BS11:2017年4月4日(火)24:00~
- AT-X:2017年4月7日(金)22:00~
キャスト
- 紗名:大和田仁美
- 樫村蔵六:大塚明夫
- 樫村早苗:豊崎愛生
- 雛霧あさひ:藤原夏海
- 雛霧よなが:鬼頭明里
- 一条雫:小清水亜美
- 内藤竜:大塚芳忠
- 山田のり子:広瀬ゆうき
- “ミニーC”・タチバナ:能登麻美子
- 鬼頭浩一:松風雅也
- クレオ:内田秀
スタッフ
- 原作:今井哲也(徳間書店「月刊COMICリュウ」連載)
- 監督:桜美かつし
- シリーズ構成:高山文彦
- キャラクターデザイン:岩倉和憲
- 美術設定:廣瀬義憲
- 美術監督:柳原拓巳
- 色彩設計:田辺香奈
- 撮影監督:大河内喜夫
- 編集:後藤正浩(REAL-T)
- 音楽:TO-MAS
- オープニング主題歌:ORESAMA「ワンダードライブ」
- エンディング主題歌:toi toy toi(kotringo edition)「Chant」
- 音響監督:岩浪美和
- アニメーション制作:J.C.STAFF
- 今井哲也「アリスと蔵六(1)」 / 発売中 / 徳間書店
- 今井哲也「アリスと蔵六(1)」
- コミック / 669円
- Kindle版 / 619円
「研究所」から脱走して、初めて外の世界を知った少女・紗名。彼女は「アリスの夢」と呼ばれる超能力の持ち主。しかし幼くて未熟なため、能力を使いこなすことができていない。途方に暮れていた彼女が出会ったのは、花屋のじいさん・蔵六。超能力も何も関係なく「悪いことは悪い」と説教してくる蔵六との出会いが紗名の運命を、そしてこの世界の運命をも大きく変えていくことになる。
第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作品!
今井哲也(イマイテツヤ)
千葉県船橋市出身。2005年アフタヌーン(講談社)四季賞2005冬大賞を「トラベラー」で受賞してデビュー。代表作に「ハックス!」「ぼくらのよあけ」がある。2012年に月刊COMICリュウ(徳間書店)で「アリスと蔵六」を連載開始。同作で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。アニメと猫が大好物。