人気マンガ「北斗の拳」が、2018年の35周年を前に初めて舞台化される。だが、そのタイトルは「舞台『北斗の拳―世紀末ザコ伝説―』」と何やら様子がおかしい。本作には主人公のケンシロウや、その宿敵である世紀末覇者拳王ことラオウは登場しない。主役は「ひでぶっ!!」「あべし!!」といった独特な断末魔を上げてメインキャラクターに殺されてしまうザコたちだ。原作では決して日の目を見ることがなかったザコの魅力とは? “ザコの、ザコによる、ザコのための、ザコだけの舞台!”と称されたこの挑戦作で、ザコを演じる磯貝龍虎、脚本の川尻恵太、そして企画立案者の1人である川本成が、ザコへの熱い思いを語った。
取材・文 / 川口聡 撮影 / 朝岡英輔
子犬を蹴り上げます!
──まず「北斗の拳」を舞台化する上で、なぜケンシロウではなく、ザコを主役にすることになったのでしょう?
川本成 原哲夫先生原作のアニメ「義風堂々!! 兼続と慶次」で声優をやらせていただき、僕が主宰している時速246億の舞台をプロデューサーがよく観に来てくれるようになりました。それで、あるとき川尻(恵太)くんも一緒になって呑んでたんです。呑みながら「ザコを主役にした舞台がやりたい」って話になって、「だって俺たちザコじゃないか!」と、盛り上がりました。「北斗の拳」と言えばケンシロウやラオウですが、世の中を支えているのはザコなんだと。舞台化はあくまで夢の話でしたが、急転直下、“公式さん”の力を借りて実現することになっちゃいました。
川尻恵太 「北斗の拳」が2018年でちょうど35周年を迎えるので、35をもじって“3.5次元=ザコ舞台”という具合に。
──2.5次元舞台でも活躍されている磯貝さんですが、今回、ザコ役のオファーが来たときはどう思いましたか?
磯貝龍虎 「やった!」と思って、食い気味に「やります!」って答えましたね。父が「北斗の拳」大好きなんです。僕も気になって「これはどんな物語なんだろう?」 と、マンガを読んでみたら面白くて、「北斗の拳」と共に生きてます(笑)。
川本 今まで悪役を演じたことはあるの?
磯貝 それがまったくないんですよ。昔からずっと“心優しくて力持ち”という感じの役が多くて、悪役をやりたい願望はずっとあったので、今回ようやく“人を殺せたりする役”ができてうれしいです。
川尻 残虐非道なザコを期待してます。
磯貝 子犬を蹴り上げます!
川尻 血も涙もない感じでね……。脚本にも、優しくて巨漢なザコが出てくるんですが、磯貝くんにはその役を。
磯貝 優しいのは変わらないんですね(笑)。
川尻 優しいとは言え、村人を殺したりはします。人には良い部分と悪い部分があって、「北斗の拳」で描かれてるのはザコの悪い部分だけかもしれない。この舞台では「ザコにも良いところがあるよ」という一面を見せたいんです。
川本 原作はケンシロウ目線だけど、ザコ目線で見たらどっちが悪かわからないもんね。あの“199X年”の世界は核戦争のあとだから、ろくに食料もない。実際に戦時中ってあんな感じだったかもしれないし、何が正義かなんてわからないんですよ。
川尻 マンガを読み返すと、ケンシロウって実は相手の言い分を聞かないで殺したりもしてるんですよね。
磯貝 そう聞くとケンシロウも結構悪いですね。
肩パット職人もいます
──そんなケンシロウに殺されてしまうザコを、磯貝さんはじめナイスガイなイメージのある俳優さんたちが演じる面白さってなんでしょうか?
川尻 好青年がザコを演じることで、お客さんは世界観に入り込みやすいんじゃないかな。根っからの悪人なんて1人もいないと思うので、「時代がこうさせた」というのを描きたいんです。核戦争で世界がめちゃめちゃになっただけで、元々は弁護士だったザコや、普通の高校生だったザコもいるでしょうし、それぞれバックボーンがあると思うんです。
磯貝 今、ザコの役作りのために体を鍛えてるんです。共演する寿里さんと現場が一緒なので、並んで腕立て伏せをしたり。
川本 ザコって体の鍛え方も相当ストイックなんですよ。
川尻 だらしない体のザコはなかなかいないですからね。
川本 髪型もモヒカンだったり個性があるよね。ザコも床屋に行くでしょうし、ブリーチするのがうまいオヤジがいたりして。
磯貝 「いつもの!」って注文するんでしょうね(笑)。衣装もすごいです。
川本 キャストがザコに扮したビジュアル撮影をしたんですが、肩パットとか着られるからすごい羨ましいんですよ。
川尻 肩パット職人もいますんでね。
──肩パット職人ですか(笑)。
川尻 原作ではごく当たり前の形でザコが出てくるけど、そこに至るまでのザコの日常とかザコの周囲の人たちも描きたいんです。ザコ行きつけの武器屋のオヤジがいたり、肩パットを作ってる職人がいたり、ザコをサポートすることで生活が回ってる人たちもいたと思うので。
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みんな本当はザコだしクズだと信じてます
- 舞台「北斗の拳―世紀末ザコ伝説―」
- 2017年9月6日(水)~10日(日)
東京都 東京ドームシティ シアターGロッソ
-
原作:「北斗の拳」(原作:武論尊 漫画:原哲夫)
脚本:川尻恵太(SUGARBOY)
演出:村井雄(KPR/開幕ペナントレース)
出演:磯貝龍虎、河合龍之介、寿里、花園直道、林野健志、水希蒼(A応P) / 青山フォール勝ち(ネルソンズ)、キャベツ確認中(キャプテン★ザコ、しまぞうZ)、街裏ぴんく / 大岩主弥、福島悠介、吉野哲平 / 円盤ライダー(渡部将之、冠仁、賢茂エイジ、森田和正)、KPR/開幕ペナントレース(高崎拓郎、G.K.Masayuki、森田祐吏)
ジャギ役トリプルキャスト
角田信朗:9月6日(水)、7日(木)夜、9日(土)昼
山本圭壱(極楽とんぼ):9月7日(木)昼、9日(土)夜、10日(日)夜
武田幸三:9月8日(金)、10日(日)昼OPENING LIVE「愛をとりもどせ!!」:クリスタルキング(ムッシュ吉﨑) with A応P
声の出演:千葉繁
©武論尊・原哲夫/NSP 1983, ©北斗の拳-世紀末ザコ伝説-製作委員会2017 版権許諾証GP-907
- 磯貝龍虎(イソガイリュウコ)
- 1987年北海道出身。「ミュージカル『テニスの王子様』」の千歳千里役で注目を集め、その後コメディ、朗読劇など数々の舞台に出演。ブレイクダンスやアクションなどにも定評があり長身を生かしたパフォーマンスと瞬発力のあるアドリブを得意とする。また2016年には東京・俳優座劇場で初脚本・演出の「上手」を上演した。音楽活動にも力を入れており2017年6月には自身が参加する音楽ユニット・メンズヘラクレスの1stミニアルバムをリリースしている。好きなザコは“でかいババア”。
- 川尻恵太(カワジリケイタ)
- 1981年北海道出身。脚本家、演出家、俳優。SUGARBOY主宰。2000年に札幌で劇団ギャクギレを旗揚げ、2010年の解散まで、ほぼすべての作品の脚本・演出を担当。2006年に上京し、ラーメンズ及び小林賢太郎作品の演出補、エレキコミック、エレ片の構成作家を務め、お笑いから演劇に至るまで幅広く作品を発表。近年では、乃木坂46出演の舞台「じょしらく弐 ~時かけそば~」や、「ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』2 ~信越地方よりアイをこめて~」、「おん・すてーじ『真夜中の弥次さん喜多さん』双」などの脚本・演出を担当している。好きなザコは“「息をするのもめんどくせぇ」って言うやつ”。
- 川本成(カワモトナル)
- 1974年鳥取県出身。欽ちゃん劇団1期生在籍。1994年あさりどを結成。主な出演番組として、「笑っていいとも!」9代目いいとも青年隊、「王様のブランチ」、「スタイルプラス」、ドラマ「真昼の悪魔」、アニメ「テニスの王子様」など。近年の主な出演舞台は、ブルドッキングヘッドロック「おい、キミ失格!」、男子はだまってなさいよ!「聖バカコント」、月刊「根本宗子」の「もっと超越した所へ。」「忍者、女子高生(仮)」、劇団鹿殺し 電車2部作「電車は血で走る」「無休電車」など。自らも時速246億を主宰し、毎回多彩な作家・演出家を迎え、ジャンルにとらわれない作品をプロデュースしている。2016年には細川徹(男子はだまってなさいよ!主宰)を作・演出に迎え、SFコメディ「バック・トゥ・ザ・ホーム」を上演。2017年9月には、自身のソロ公演第3弾「独走」の上演が決定している。好きなザコは“「汚物は消毒だー!」と火炎放射器を振り回すやつ”。