音楽ナタリー Power Push - 挫・人間

“超人”にして“美少女”下川リオの考えるバンドの今

四つ打ちバンドと、グダグダ言うだけのバンド

──「狐娘」のアレンジもそうだし、「念力が欲しい!!!!!!」「セルアウト禅問答」「オー!チャイナ!」の四つ打ちや、「下川 vs 世間」のヒップホップ的手つき、「過呼吸です。」のグランジ的・ラウドロック的な手つきもそうなんですけど、サウンドも「苺苺苺苺苺」とは違いますよね。

下川リオ(Vo, G)

何か新しいジャンルとかサウンドが現れると、それを取り入れたバンドに対して「なんだよ」って言い出す人って必ずいるじゃないですか。

──「フェス映えするからといって四つ打ちダンスロックバンドが増えているのはいかがなものか」みたいな議論はありますね。

特にバンドマンほどそういうことを言いたがっていて、だったら逆に、いかにも流行に乗らなそうな僕らがそれをやったら面白いんじゃないかと思って。実際に今フェスでウケてる四つ打ち系のバンドと、グダグダ言ってるだけのバンドマン、音にしても態度にしてもどっちがカッコいいか?っていったらフェスでウケてるバンドに決まってますし。特に四つ打ちの曲はそういうつもりで作ってます。それに確かに過去の名曲っていうものはたくさんあるし、僕も好きで聴いてはいますけど、今ライブハウスに来てる子たちに聴かれているのは、今のバンドの音楽ですし。だったら懐古趣味的に過去ばかり追いかけるのは若いバンドの仕事じゃないな、とも思ってます。

──ただ、挫・人間は「最後のナゴムの遺伝子」と呼ばれがちな存在でもあります。

そう呼ばれがちな僕らが四つ打ちやラップをやれば絶対にほかとは一緒にならない。挫・人間らしいものになるっていう自信はあった気がします。イマドキの速い四つ打ちではあるんだけど「中国はデカい」「スゴい」ってことしか歌ってない「オー!チャイナ!」なんかも僕ららしい曲だと思いますし。

オレの入会を認めるテニスクラブには入りたくない

──中国に行ったことは?

ないです! というかパスポート持ってないです!

──あはははは(笑)。

自分の部屋から外に出るのもイヤなのに、海外なんか行けるわけないですから(笑)。テレビで中国のドキュメンタリーを見て「デケー」「カッケー」って思ったから「チャイチャイチャイナ」「でかいぞチャイナ」「かっこいいチャイナ」って、ほとんど意味のないことを繰り返してみただけという。「挫・人間だったら何やってもいいや」って思っていて。「オレはパンクしかやらねえ」「パワーコードしか弾かねえ」っていう一本筋の通ったバンドももちろんカッコいいんですけど、人ってその1本の筋のためだけに生きているわけじゃないじゃないですか。パンクバンドの人も常にパンキッシュに怒ってるわけじゃなくて、悲しいこともあれば、うれしいこともあるはずですし。だから一本筋の通ったマジメなバンドでもなければ、曲ごとにやりたいことや目指している着地点が違う僕たちはそのパンクバンドとは逆。「人っていうのは筋のためだけに生きてるわけじゃないよね」という曲ばかり作ってみた感じですね。

──「十月の月」のリズムトラックを打ち込みにしたのも筋のために生きるわけじゃないからですか? ベーシストがいるバンドなのに大胆なアレンジだなって思ったんですけど。

下川リオ(Vo, G)

曲がカッコよければ演奏なんかしなくてもいい。演者のエゴより曲のよさが優先されるべきだろうとは思ってます。それはアベ(マコト / B)くんも夏目(創太 / G)もそうですし。確かに「十月の月」はバンド的なサウンドではないんだけど、「リズムは打ち込みがいいよね」っていう僕の提案に、アベくんと夏目が「いいね」って言ってくれたから、こういうアレンジになった。そういう意味ではすごくバンド的な曲の作り方をしてると思っていて。で、これまでスゲー勢いでメンバーチェンジを繰り返してきたんですけど、そのアベくんと夏目がいる今のバンドの状態はすごくいいとも思ってます。ドラマーがいないことについては考えると心がバッキバキに折れそうにはなるものの(笑)、それでも今回のアルバムを「いいですね」ってもらえるんであれば、それは2人と作れたからというか。

──下川さん自身に「いいアルバムができた!」という自信や確信は?

聴いてもらいたい曲がたくさんできたとは思う半面「よっしゃ! オレ、スゲー」みたいな自信はないですね。ウディ・アレンの映画「アニー・ホール」に出てきた「オレの入会を認めるテニスクラブには入りたくない」みたいな気持ちが常にどこかにあるんですよ(笑)。

──オレを認めるテニスクラブなんてロクなもんじゃない、ひいてはオレなんてロクなもんじゃない、と(笑)。

認めてもらえることは本当にうれしいし、認めてくれた人のことをウソ吐きだともチンケな存在だとも思ってはいないんですけど、僕自身は自分のことが本当に嫌いだから、どこか自分のことを認められないんですよね。

ニューアルバム「テレポート・ミュージック」 / 2015年8月26日発売 / 2700円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0061
ニューアルバム「テレポート・ミュージック」
収録曲
  1. 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
  2. セルアウト禅問答
  3. 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
  4. オー!チャイナ!
  5. 可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
  6. 十月の月
  7. 下川 vs 世間
  8. もう四日もしてない
  9. 過呼吸です。
  10. 今までお世話になりました 
  11. ロンググッドバイ
  12. 下川最強伝説
  13. お兄ちゃんだぁいすき
挫・人間 インストアライブ
2015年8月29日(土)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
挫・人間「あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~」
2015年9月12日(土)東京都 新宿red cloth
2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR
2015年10月25日(日)愛知県 池下CLUB UPSET <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月7日(土)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月8日(日)福岡県 Queblick <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
挫・人間(ザニンゲン)

挫・人間

下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表する。