音楽ナタリー Power Push - 挫・人間

“超人”にして“美少女”下川リオの考えるバンドの今

そして下川リオは“超人”になった

──自分を認められないと言いつつ、今回下川さんは、のっけから「弱者の味方 下川です」とガナる「下川最強伝説」を書いてますよね。これ、相当自信がないと歌えない気がします。

実際、弱者の味方でありたいとは思ってるし、曲を書いているときそういう気分だったんです。この曲を作った日っていうのは、初恋の女の子のステータスが「交際中」になってるのを発見した日でして……。

──あらま(笑)。

さっきも言った通り、ホンットに絶望したんですよ。「彼女に自分の存在を知らしめたくて血を吐く思いで音楽をやってたのにコピーバンドでよかったのか!」って。

──「誰のために『もう四日もしてない』と思ってやがるんだ」と(笑)。

下川リオ(Vo, G)

ホントにそうで(笑)。ただその日はスピッツの「空も飛べるはず」を聴いたりもしてまして。草野(マサムネ)さんが「君と出会った奇跡が この胸にあふれてる」って歌い出した瞬間、悟りを開いたんですよね。「なるほど! あの子と出会った小学生の時点でオレの人生はOKだったんだ!」「今、絶望的な状況のように見えるけど、実はオレはあの子に会ったその瞬間、すでに絶望をも超越するほどの奇跡を体験できていたんだ!」って。前のアルバムの「人類」っていう曲はニーチェ的な意味での「超人」、人間を超えた存在になることを目指す曲だったんですけど、奇跡を実感したオレは今、人間を超えたな、と。

──ついに万物の霊長を凌駕する存在になった、と。じゃあ「下川最強伝説」言うところの「弱者」っていうのは……。

人類というか、生きとし生けるものすべてですね。……いや、僕、躁鬱のケがあるし、たぶんその日はアッパーに入ってただけだっていうのはさすがにわかってるんですけど(笑)、それでもこの曲ができたからアルバム全体のカラーが決まったのも事実で。「もう世間や誰かに対するルサンチマンばっかり歌ってる場合じゃないな」「『殺す! 殺す!』って言ってる場合じゃないな」って。

──超人であり、生きとし生けるものすべての味方としては。

はい。最初に言った通り、苦手だと思っている人たちとも融和を図っていくべきだし、その人たちにも声を届けるべきだろうな、って。

音楽を続けていれば“美少女”になれるかもしれない

──それなら「下川最強伝説」で超人宣言をして大団円を迎えてもよさそうなところ、なぜアルバムの最後を「お兄ちゃんだぁいすき」というエロゲームのタイトルみたいなダンスナンバーで飾ったんですか?

あっ、この曲で「お兄ちゃん」って呼びかけてるのも僕なんです。

──へっ!? この曲だけ一人称の代名詞が違いますよね。ここまでの12曲は「おれ」「ぼく」「下川」なのに、この曲は「あたし」。女性、それも幼女になってます。

自分のことが嫌いすぎるから、いっそ美少女になってしまいたいというか……。

──自己否定ゆえの変身願望はわかるものの、なんでその対象が美少女なんですか?

だって美少女って素晴らしいじゃないですか!

──そこに異論はないんですけど、美少女と道ですれ違った我々が「あの子キレイだな」と思うことはあれ、美少女自身は自分の素晴らしさを実感することはまずないはずで。よほどの自己陶酔型じゃない限り、毎朝鏡を見ながら「私、キレイだわ」とうっとりしたりはしないというか。自分が美少女になってしまったら、その素晴らしさを堪能する機会が失われる気がするんですけど……。

下川リオ(Vo, G)

でも道行く人たちから「キレイだ!」と思われるなんて、僕にはあり得ないことですし。できることなら大嫌いな自分からもっともかけ離れた存在になりたいし、だからこの曲は歌っててすごく楽しかったです。

──憧れの美少女をになれたことだし。

ええ。この曲でもやっぱり「僕を入会させるテニスクラブには入りたくない」精神が発揮されてはいるんですけどね。この「だぁいすき」な「お兄ちゃん」は、美少女の妹こと僕には絶対に振り向かない兄ですし。

──せっかく超人や美少女になれてもやっぱり自分と自分を認める世界に対しては懐疑的。だからまず叶うことのない恋愛という茨の道を選ぶ。悩みは尽きないですねえ(笑)。

だから音楽をやり続けるのかな?っていう気はしています。その瞬間だけは超人にも美少女にもなれるし、それを繰り返していたらいつか僕の中の超人願望や美少女願望が僕自身を侵食して超人や美少女になれるかもしれないですし。

──了解です! 今日は本当にありがとうございました! ……あっ、ちなみにどんな美少女になりたいんですか?

「THE IDOLM@STER」のいおりん(水瀬伊織)みたいな美少女ですね。

──釘宮理恵さんが声をあてているツンデレでロリなお嬢さまのゲームキャラ?

そうですそうです。やっぱり美少女とは選択肢で会話してナンボですから。

ニューアルバム「テレポート・ミュージック」 / 2015年8月26日発売 / 2700円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0061
ニューアルバム「テレポート・ミュージック」
収録曲
  1. 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
  2. セルアウト禅問答
  3. 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
  4. オー!チャイナ!
  5. 可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
  6. 十月の月
  7. 下川 vs 世間
  8. もう四日もしてない
  9. 過呼吸です。
  10. 今までお世話になりました 
  11. ロンググッドバイ
  12. 下川最強伝説
  13. お兄ちゃんだぁいすき
挫・人間 インストアライブ
2015年8月29日(土)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
挫・人間「あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~」
2015年9月12日(土)東京都 新宿red cloth
2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR
2015年10月25日(日)愛知県 池下CLUB UPSET <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月7日(土)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
2015年11月8日(日)福岡県 Queblick <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
挫・人間(ザニンゲン)

挫・人間

下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表する。