音楽ナタリー Power Push - 挫・人間
“超人”にして“美少女”下川リオの考えるバンドの今
超自我とともにダメな自分を脱却する美しさ
──ヒップホップ仕立ての「下川 vs 世間」では今言っていた超自我的なキャラクターと実際にMCバトルをしています。
世間と闘っていたら、超自我と向き合わざるを得なくなっちゃって。「世間とは、自分を束縛する道徳的な自分=超自我的な存在のことだった」みたいな感じで。でもこれは前からわかっていたことではあったんですよね。中学生の頃からTHE BLUE HEARTSと筋肉少女帯のどっちも好きで聴いてるんですけど、(甲本)ヒロトさんのおっしゃることと、大槻さんのおっしゃることって実は正反対だったりもするじゃないですか。ヒロトさんは夢を持つことの尊さを歌うんだけど、大槻さんは「叶わぬ夢もあるんじゃないかにゃあ?」って歌っているし。
──でもTHE BLUE HEARTSと筋少が並ぶCD棚ってそんなに違和感ないですよね。
そうなんですよね。で、バンドで曲を書き始めた頃に「あっ、これ両方とも正解だ」って気付いたんです。「確かにダメな自分を救うため、赦すためにバンドをやってはいるものの、ダメな自分がダメなままでいいわけがない」「自分の置かれている状況がハッピーではないなら、それを認めながら、でも超自我と一緒にその状況からの脱却を目指すことこそが美しいんだ」って。で、もしもそれが叶わなかったら、それでも挑んだ自分を認めてやろうって。だからこれまで書いてきたダメな自分を認める曲だって、ある意味ポジティブ。ダメなりの前向きさで状況を打開するためのものではあったんです。
──ただ「もう四日もしてない」と同じく、ちょっと表現が複雑すぎて伝わりにくかった?
だから今回は、“セルアウト”するべきかどうか、“禅問答”しながらも「アイラブユー」って言ってみたり、世間や超自我とホントに向き合って対決したりしてみた。自分を取り巻く状況を今までにないくらいストレートに表現してみた感じですね。
選択肢の出てこない会話なんて会話じゃないです
──「可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた」みたいな、かわいらしいラブソングもバンドにとっては新機軸ですよね。
実は渋谷系的な音楽も好きなんですよ。
──だからボサノバっぽい軽いギターカッティングにブラスが乗っかるしゃれたアレンジに仕上げた?
そうですね。でも「ベタなラブソングは挫・人間的にはどうなの?」っていう線引きはあって、いろいろ考えた結果、タイトルを……。
──最近のライトノベルみたいな長さにしてみた(笑)。
あとはヒロインを狐娘にしているのも僕らなりのヒネり方で。ただ、挫・人間ってラブソングがけっこう多くて、この曲を書いてるときに過去のラブソングを振り返ってみたら、どの曲も主人公が現実の女の子と恋愛してなかったんですよね。今回は狐娘が相手だし、死んでしまった子に恋する曲もありますし。ヒネってみたつもりが、僕の恋愛感情がまったくもって現実の女性に向かっていないことが浮き彫りになってヘコむという(笑)。
──2次元キャラみたいな非現実的な存在のほうが萌えますか?
2次元萌えもありつつ、でも現実の女の子も好きっていう感じかなあ。
──じゃあなぜラブソングの対象が現実に向かわないんでしょう?
現実の女の子も僕にとってはファンタジー的な存在だからですかね? 僕、小学生の頃の初恋の女の子のことをいまだに思ってたりするんですけど、その思いってもはやファンタジーの領域じゃないですか。
──その子ももう20代中盤。下川さんのクラスメイトだった頃のままであるわけがないですしね。
実際そうだったんですよ。このあいだその子をFacebookで見つけたんですけど、Facebookって「既婚」とか「未婚」とかってプロフィールに表示できるじゃないですか。そこが「交際中」になっていて……。
──15年以上の時を経て改めてフラれましたか(笑)。
向こうはバッチリ現実を生きてました(笑)。しかもその「交際中」の男のプロフィールも見てみたら、ソイツ「○○ってバンドのコピーバンドをやってます」とか書いてやがって!
──プロのバンドマンがコピーバンドをやってる男の子に負けた!(笑)
挙げ句の果てにその男のアイコンがご自慢のクルマだったりして、それが本っ気で悔しくて。だからいきなり覆すようでアレなんですけど「現実の女の子も好きです」っていうのはウソ! やっぱり2次元がいいです。女の子との会話っていうのは画面に表示された選択肢から一番いいと思うものを選ぶことで成立させるものだし、僕が話すターンになったとき目の前に選択肢の出てこない会話なんてホンモノの会話じゃないです(笑)。ただ僕らは「アイラブユー」ってみんなに伝えたくて大きな音を出してるわけでもあるから、その矛盾についていろいろ考えた結果、狐娘という非現実的な相手との恋愛を現実の世界で歌うことになったんだと思います。
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- ニューアルバム「テレポート・ミュージック」 / 2015年8月26日発売 / 2700円 / redrec / sputniklab inc. / RCSP-0061
- ニューアルバム「テレポート・ミュージック」
収録曲
- 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ
- セルアウト禅問答
- 土曜日の俺はちょっと違う(Memory Ver.)
- オー!チャイナ!
- 可愛い転校生に告白されて付き合おうと思ったら彼女はなんと狐娘だったので人間のぼくが幸せについて本気出して考えてみた
- 十月の月
- 下川 vs 世間
- もう四日もしてない
- 過呼吸です。
- 今までお世話になりました
- ロンググッドバイ
- 下川最強伝説
- お兄ちゃんだぁいすき
- 挫・人間 インストアライブ
- 2015年8月29日(土)東京都 タワーレコード渋谷店 4Fイベントスペース
- 挫・人間「あなたの心にテレポート~アルバムの曲全部やるまで帰れま10~」
- 2015年9月12日(土)東京都 新宿red cloth
- 2nd Album「テレポート・ミュージック」発売記念TOUR
- 2015年10月25日(日)愛知県 池下CLUB UPSET <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
- 2015年11月7日(土)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
- 2015年11月8日(日)福岡県 Queblick <出演者>THE STARBEMS / 挫・人間 / and more
挫・人間(ザニンゲン)
下川リオ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月、2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を発表する。