ナタリー PowerPush - 砂原良徳
電子音楽のマエストロ 洋邦6曲を“架空”リミックス
僕が一番憧れるのは、巨大な廃坑をスタジオにすること
──変わらないということでは、環境はどうでしょう? この9年の間に変化したものはありますか?
それもあまり変わってませんね。ずっと自分の自宅スタジオで制作しています。確かに機材は増えましたけど、制作途中に買い足してしまうと、それまでのすべてのトラックにその音を試してみたくなってしまうので、意図的にセーブしていた部分はありますし。やっぱり「変化しない」ということには、人より敏感だったかもしれません。創作意欲を一定の状態にキープするために、マメに掃除もしてますね。僕が高校生の頃、地元(札幌)にBESSIE HALLというライブハウスがあって、そこの人に、「汚いスタジオからは汚い音しかしない」って言われたんですよ。その言葉はすごく残ってますね。
──例えば発電機の置かれた牛舎にカンヅメで作ることになったら、突然アーシーな音になったりすると思いますか?
無理です。
──やりもしないですか?
エサはやりますけど。
──……。
ただ、確かコニー・プランク(ジャーマンロックの名プロデューサーでありエンジニア。デヴィッド・ボウイの「ベルリン三部作」など歴史的名作多数)のスタジオがそうだったかな。豚小屋を改造したっていう。そういう前例があるのであれば、僕も牛を追い出してスタジオを作ってみようかな……。
──初期のFAUSTは廃校をスタジオにしてましたね。
(「ハイコウ」という響きを受けて)あ、僕がいちばん憧れるのは、巨大な廃坑をスタジオにすることですね。蹴飛ばせばガラガラ岩が崩れてくるような、煤だらけの暗闇の奥に、一部だけ完全無菌のガラス張りスタジオが光っているというのが理想。北海道にはわりと(廃坑が)たくさん残っていて、昔から見に行ったりしてたんですけど、そのたびに、「ここに自分のスタジオがあったらなぁ」って憧れてました。もちろんそんな場所、ネットなんてつながってないから、ディレクターに住所だけ伝えてデータを取りにきてもらうことになりますけど、ある日ガラガラと鉄のドアが開いて、「おい、もしかしてあそこじゃないか?」という不安な声に、深~いナチュラルリバーブがかかるんです。
──(笑)。
たぶん、そういう憧れって、「銀河鉄道999」から刷り込まれたものだと思います。見た目は古ぼけた蒸気機関車なんだけど、中はハイテクというギャップに惹かれるんですよ。
──北海道の廃坑にしても、宇宙の999にしても、かなり世間とは隔離された環境になりますけど、制作中、リスナーのことというのはどの程度考えてますか?
考えてますよ。ただ、それはその人がどんな気持ちで聴いてくれるのかということではなく、どんな環境で聴いてくれるのかということですね。CDなのか、iPodなのか、アルバム通してなのか、シャッフルなのか。そういうことはすごく考えます。もちろん自分でもMP3に変換してみたり、CD-Rに焼いた音質をチェックしてみたりしますね。逆に、世間的な(流行の)流れと照らしあわせて、もう少しアッパーなほうがいいんじゃないか、みたいなことはいっさい考えません。ディレクター──昔はサラリーマンみたいな人も多かったけど、今は業界も痩せ細って、濃い人しか残っていないですよね(笑)──の意見も一応は聞きますけど、それを反映するかどうかというのは、まったく別の話ですね。
砂原良徳(すなはらよしのり)
1969年生まれ、北海道出身のサウンドクリエーター/プロデューサー/DJ。1991年から1999年まで電気グルーヴのメンバーとして活躍し、日本のテクノシーンの基盤を築き上げる役割を担う。グループ在籍時よりソロ活動も行い、1995年に「Crossover」、1998年に「TAKE OFF AND LANDING」「THE SOUND OF '70s」という3枚のアルバムを発表。脱退後は2001年にアルバム「LOVEBEAT」をリリースしたほか、スーパーカーのプロデュースやリミックス、CM音楽を手がけるなど多方面で独自のセンスを発揮。特にアーティストの魅力を倍増させるアレンジ/リミックスには定評がある。2007年3月には自身のキャリアを総括するベスト盤「WORKS '95-'05」を発表。2009年にはキャリア初のサウンドトラック「No Boys, No Cry Original Sound Track」をリリース。さらに「SUMMER SONIC 09」「WORLD HAPPINESS 2009」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO」といった夏フェスに出演したほか、iLLのプロデュースや電気グルーヴの楽曲の“リモデル”を手がけるなど精力的な活動を展開した。2010年に入ると「いしわたり淳治&砂原良徳 + やくしまるえつこ」名義でシングル「神様のいうとおり」を発表。7月に待望のニューシングル「subliminal」をリリース。