ナタリー PowerPush - 砂原良徳

電子音楽のマエストロ 洋邦6曲を“架空”リミックス

30年という時間が経って同じ音楽を鳴らしたらどう響くか

──それではそろそろ架空リミックス企画の1曲目にいきたいと思います。彼らも流行に流されず、むしろ流行を決定づけた人たちだと思います。

ART OF NOISE「(Who's Afraid Of?) The Art Of Noise!」◎ART OF NOISE「Moments In Love」
(from the album「(Who's Afraid Of?) The Art Of Noise!」)
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これはすごく知ってる。そして、すごく難しい。

──ART OF NOISE は音色そのものが音楽になっているところもありますし、この曲のリミックスの場合、素材の取捨択一がすべてを決める気がしますね。

インタビュー写真

そうですね。しかも僕はこの作品を聴きすぎてしまっているし、マスターピースとして殿堂入りしているので、これは相当に意地の悪い選曲に思える(笑)。これ以上どうしろっていうんだろう……(最後まで曲を聴いて)……ただ、ひとつだけ方法があるとしたら、これは1983年の作品で、今は2010年じゃないですか。その時間の経過を使うという手はあるかもしれない。当時から30年という時間が経って、録音メディアもアナログからデジタルに変わった今、彼らと同じセンスを鳴らしたらどう響くのか、みたいなことを試してみるのはいいかもしれない。

──今の機材を、こっそりタイムマシンで届けて、30年前の過去にもあったことにしてみるというか。

それです。だから、音楽自体は変えないと思う。骨格も変えずに、各トラックの透明度とか、全体の解像度を上げていく。ちょっと前に、電気グルーヴの「Shangri-La」を、「リモデル」って形で再編成したんですけど(「Shangri-La~Y.Sunahara 2009 Remodel」/シングル「Upside Down」に収録)、それは元ネタのレコード(シルベッティ「Spring Rain」)の盤質のいいものを探してきて、すごく丁寧にサンプリングし直して組み直すという作業だったんですね。当時あの曲を好きだった人のことを裏切らずに、今の機材にしかできないなめらかさみたいなものを加えたバージョン。あれに近い形ならできるかもしれない。リマスタリングにも近い感覚ですね。

壁みたいにガーッと鳴っているような音楽に興味は持てない

LIMONIOUS「House Of Usher」◎LIMONIOUS「House Of Usher」
(from the album「House Of Usher」)

──フィンランドとスウェーデン発祥の新しいダンスミュージック=Skweee(スクウィー)の代表アーティストによるトラックです。アルバムはアナログでしか出ていないので、今日はSoundCloudにアップされていたファイルを聴いてください。

(しばらく聴いて)……これがダンスミュージックとして捉えられているというのはいいなぁ……。

──ここまでBPMが遅くて、ここまで音数も少ないんですけど、このシーンのライブ映像を観ると、客がテンポを倍でとって、おしくらまんじゅうのように踊ってるんですよ。アーティストもMPCのパッドを叩いたりして、意外と肉感的なんです。

いいシーンですね。これで盛り上がってるのか(笑)。じゃあ、僕のリミックスは、この隙間を活かしつつ、フロアにいる客のリズム感を試すようなものにします。さっき、音を聴く前に波形を見てしまったせいもあって、(モニターを指差して)この行儀のいいギザギザをもっとガタガタに前後させてみたくなりましたね。たぶんこれで踊る客なら、相当つんのめらしたり遅らせたりしても転ばないはずだし(笑)、小節アタマにキックがなくてもついてきてくれるはずですよね。基本的に、リミックスを聴く人というのは、原曲を知ってる人じゃないですか。であれば、曲の構造を見渡して、一番の特徴である部分から崩してあげるというのが効果的なんですよ。この曲の場合は、それが1拍目のアクセントにあると思うから、まずはそこから手をつけていきますね。

──この音数の少なさに関してはどう思いますか? 打ち込みの音楽の場合はとくに、足していくよりも、少なくしていくことのほうが勇気がいりますよね?

いりますね。実際「LOVEBEAT」の頃は、「意外とそこに気づいている人がいないんじゃないか。それならとっとと自分がやってしまってもいいんじゃないか」というのが着想になってます。この世の中の音楽、もっと言えば、音っていうのはなんでもそうなんですけど、「鳴ってない状態に対して、何かを鳴らす」というのが基本なんです。だから、無音の間(ま)であったり、空白というのは本当に重要。最近は「鳴っていないところが半分ぐらいあってもいいんじゃないか」と思うし、壁みたいにガーッと鳴っているような音楽に興味は持てないですね。せっかくの白い紙に対して、線を1本引いて、また1本引いて、それを繰り返してゆくことで真っ黒になってしまうなら、紙の白さには意味がなかったことになってしまう。

──真っ黒になった紙に対して、今度は消しゴムで線を描いていくという表現もありますが。

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あります。でも、僕は真っ黒まではいかなくて、いつもライトグレーぐらいで止めてますね。そこからさらに消してゆくことが多いです。……(曲が終わって)でも、これで踊ってるというのは本当にいいですね。日本もこうなればいいのに……いや、でも日本がこれじゃつまらないか。外から眺めてるぐらいがちょうどいいんだろうな……。

──音楽で人を踊らせることに関しては、どう考えていますか? 砂原さんの音楽はいつも、いわゆるダンスミュージックとは一定の距離を保っていますよね。

僕は、“踊る”ということとか“歌う”ということっていうのは、どちらかというと女性的な行為だと考えているふしがあるんです。それでなくても僕の実生活には踊りの要素が少なすぎるし(笑)、単純に、自分の好きな音を作ろうとすると、王道(のダンスミュージック)にはならないということなんだと思います。ただ、意識的に遠ざけているわけではないですよ。他の人が“これはダンスミュージックじゃない”というものでも、自分にとってはそうだったりすることも多いですし。

ニューシングル「subliminal」 / 2010年7月28日発売 / 1223円(税込) / Ki/oon Records / KSCL-1665

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CD収録曲
  1. The First Step
  2. subliminal
  3. Unconscious Fragment
  4. Capacity
砂原良徳(すなはらよしのり)

砂原良徳

1969年生まれ、北海道出身のサウンドクリエーター/プロデューサー/DJ。1991年から1999年まで電気グルーヴのメンバーとして活躍し、日本のテクノシーンの基盤を築き上げる役割を担う。グループ在籍時よりソロ活動も行い、1995年に「Crossover」、1998年に「TAKE OFF AND LANDING」「THE SOUND OF '70s」という3枚のアルバムを発表。脱退後は2001年にアルバム「LOVEBEAT」をリリースしたほか、スーパーカーのプロデュースやリミックス、CM音楽を手がけるなど多方面で独自のセンスを発揮。特にアーティストの魅力を倍増させるアレンジ/リミックスには定評がある。2007年3月には自身のキャリアを総括するベスト盤「WORKS '95-'05」を発表。2009年にはキャリア初のサウンドトラック「No Boys, No Cry Original Sound Track」をリリース。さらに「SUMMER SONIC 09」「WORLD HAPPINESS 2009」「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO」といった夏フェスに出演したほか、iLLのプロデュースや電気グルーヴの楽曲の“リモデル”を手がけるなど精力的な活動を展開した。2010年に入ると「いしわたり淳治&砂原良徳 + やくしまるえつこ」名義でシングル「神様のいうとおり」を発表。7月に待望のニューシングル「subliminal」をリリース。