元システムエンジニアで、コロナ禍をきっかけに音楽活動をスタートさせたシンガーソングライター・がらりが、2ndアルバム「コントラスト」をリリースした。
2025年1月に放送された「EIGHT-JAM」では、川谷絵音が「2024年のマイベスト10曲」にがらりの「午後二時の通り雨」を選出。その後もドラマやWeb CMのタイアップ、楽曲提供など、本人いわく「途切れることなく常に曲を作っていた」がらりが、それらを集め14曲入りという大ボリュームのアルバムを完成させた。
「もはやITコンサルタントに近い」と自身の活動を評するがらりに、今作に詰まったこだわりや、2026年にやりたいことなどをじっくりと聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ
もはやITコンサルタントに近い
──前回のインタビューからおよそ1年が経ちましたが、どんな1年でした?
2025年は、とにかくずっと制作をしていました。すごくありがたいことなんですけど、自分の制作にプラスして、楽曲提供のご依頼とかタイアップのお話とかが「おっ」というタイミングで来たりして。
──「おっ」というタイミングで(笑)。
はい(笑)。おかげさまで、途切れることなく常に曲を作って出せていたような感じでしたね。密度の濃い1年だったと思います。
──依頼された曲を作り続けることは、特に苦ではない?
どうだろう……苦であるか楽であるかというよりは、そこに「仕事としての哲学を持って挑まなければならない」というような意識にちょっとずつ移行していったような気がします。もちろん「創作の炎を燃やしてやれ」みたいな意識も絶対的にあるんですけど、それ一辺倒ではなく、曲として形になったときの受け取られ方に気を回すようになったというか。これまでの「不特定多数を呼び込んで、いかに自分のリスナーとして取り込むか」という視点ではなく、例えばドラマのエンディングであったりWeb CMであったり、そのフィールドにいる既存のお客さんがいったいどういうものを求めているんだろうかという、お客さん目線でも見るようになったんです。
──たぶん、その考え方はもともとお得意ですよね?
そうですね。どの曲も、“商品としての価値”みたいなところは常に念頭に置きながら作ってきましたから。それがさらに自覚的になってきたかな、という気はしますね。
──それこそシステムエンジニア的な思考回路というか。
おっしゃる通りです。仕様書がまずあって、その中にお客さんの求める要件が含まれる。それをもとにシステムを構築していくという……開発の一部だけじゃなくて、プロジェクト全体を見たことがある人じゃないと、なかなかそういう視点は持てないかもしれません。
──だからがらりさんはプログラマーではなく、あくまでシステムエンジニアなんですよね。
もはやITコンサルタントに近いですね(笑)。
交互に明暗を繰り返すアルバム
──その“作り続けていた1年”を証明するかのように、このたび完成した2ndアルバム「コントラスト」は前作「手のひら望遠鏡」に引き続き、全14曲という大ボリュームで。
実を言うと、制作過程では15曲にしようかという案もあったぐらいで、本当はまだいけました(笑)。ただ今回のアルバムは、交互に明暗を繰り返す構成になっていまして。めっちゃざっくり言うとポジティブとネガティブみたいなものが……もちろん1曲の中でそれが反転したりもしながらではあるんですけど、おおむね1曲ごとに明と暗を行ったり来たりしているんです。それを表現するには、やっぱり偶数のほうが収まりがよかったんですよね。
──なるほど。でも依頼で作った曲も多くある中で、そのトータルコンセプトを一貫させるのはかなり難しいことなのでは?
そうなんです。最終的にアルバムとしてまとめる際に、そこが本当に大変ではありました。ただまあ、偶然うまいことハマったピースもあったりして……例えばドラマ「AKIBA LOST」の主題歌として書き下ろした「Answer Me」という曲がありますけど、その最後のコードがFmなんですね。で、それとは別に用意していた「Question」の最初のコードもたまたまFmで、「これはもうこの順番でつなげるしかないやん」ということになったり。
──ちょうどタイトル的にもアンサーとクエスチョンの対比にもなっていますしね。
はい。そういう偶然もありながら、制作過程で「こういうピースが必要だな」とあとから加えていったものもあって、14曲そろった段階で自分的に辻褄の合う構成になんとかなった、という感じです。
──それを形にできるのもすごいですよね。普通はどこかでコンセプトが破綻してしまって、「まあいいか、曲がよければ」となりがちなところだと思うので。
破綻の痕跡も実はちょっと残ってて(笑)。さっき「15曲にしようとしてた」という話をしましたけど、仮にそのもう1曲を「Question」と同じ8文字のアルファベットタイトルにしていたら、全部の曲名で対称型のペアが作れていたんですよ。「うつろ」と「ステラ」、「逃避行」と「夢遊病」、「正体不明のLADY」と「ZEROの時間旅行」……というように。そういうようなことを考えながら組み立てていったんですけど、最後にちょっと整合性が取れなくなってしまって。
──それぐらいは許してあげてください(笑)。ということは、依頼された曲を個々に作っていく中でも「最終的にはアルバム全体でコントラストを表現しよう」というテーマがすでにあったわけですか?
ふわっとはありました。2025年の頭頃に「ガラスの靴」を作った段階でアイデアとしてはもうあって、それと「透きとおる夏」とのセットで明暗が浄化されていくイメージなんですね。アルバムではその2曲を真ん中に置いていますけど、それを入れるんだったら、全体としてもその高低差を味わえるような構成にできたら面白いよなって。
──なるほど。しかもその流れを作ることによって、アーティスト名の「がらり」も明確に体現できますしね。
まさしくその通りでして、「コントラスト」という言葉自体が“がらりと”ってことじゃないですか。その言語的なつながりを感じてくれる人もいるやろうなと思いながら、全部その言葉に集約できるようなコンセプトとして設定した感じですね。
ちょっとモーニング娘。的なイメージもあって
──個人的な感想としては、14曲のリズム的な流れがものすごく見事だなと感じました。1曲1曲でがらりと変化しつつも、リズムに着目するとすごく有機的に連なっている。
ありがとうございます。なんとなくですけど、特に後半はそれがちゃんとできた気がします(笑)。
──しかも1曲目の「うつろ」が、「よりによってこのリズムから始まるんかい!」という意外性があって最高でした。
いや、そうなんです。「オリジナリティを感じてもらわないと」という思いがあったので、心が壊れるようなイントロから始めていますね。楽曲としては完全にジャズワルツの方式なんですけど、途中で3拍子が5拍子に変化したり、最終的にはビートが失われたりと、普通に作っていたら生まれないであろう構成にしていて。終盤の「ラララララ」というパートなどでアルバムの幕開けを担えるだけの華やかさも担保しつつ、「こんな曲、今までなかった」と思ってもらえるようなアプローチも試している。全部入りの1曲目、という感じですね。
──そこから、まさに「さあ始まりまっせ!」というムードの2曲目「逃避行」につながる。この流れがまず痛快です。
このつなげ方は、たぶんまだ誰もやっていないと思います。絶対にマネされたくないというか……2曲目にこういう歌謡曲っぽいものが来るのはわりとありがちですけど、その前に「うつろ」みたいな曲を持ってくる流れはなかったんじゃないかなと思いますね。
──しかも、ジャズから歌謡曲へつながる流れは日本のポップス史を想起させるものでもあって、そういう意味での必然性や説得力も強く感じるんですよね。
そのへんはあまり意識してないんですけど、偶然にもそういう進化の感じはアルバムの中にちょいちょい含まれていまして。もしかしたら、サウンド的な心地よさのあるトランジションを意識すると、自然と歴史の流れともリンクするものなのかもしれません。
──それこそ3曲目の「Answer Me」はちょっとボカロ的でもありますし、人工的なビート感にまで進化してしまう。そこから“ビート音楽つながり”でネオソウルっぽい4曲目の「Question」にいったりと、とにかくすべて理にかなっていて気持ちがいいです。
テクノやハウス方面とは別軸でR&Bやネオソウルもあるよっていう、「こっち方向への進化もあったよね」と思い出せるような感じですね。そのあとの「退屈な夜に」や「正体不明のLADY」あたりでも、ハウスやトラップの要素を取り入れたりしていて……要はハイパーポップ的な発想なんですけど。
──ああー、なるほどなるほど。言われてみれば確かに。
「正体不明のLADY」は「Answer Me」と同じく「AKIBA LOST」のタイアップ曲なんですけど、採用していただけて「これテレビでイケるんや?」というびっくり感はちょっとありましたね(笑)。もちろんキャッチーさは意識しましたけど、わりと実験的なこともいろいろやっている曲ではあるので。
──普通に聴いたら、まさかタイアップ曲だとは思わないです。
あと、これはあまり誰にも言ってないんですけど……「正体不明のLADY」には僕の中でちょっとモーニング娘。的なイメージもあって。サビで極まってきた先の部分、ちょっと面白ゾーンを抜けた先の開放感みたいなところは、つんく♂サウンドを意識した部分が実はあるんです。
──それはまったく気が付きませんでした(笑)。でも確かに、「ロックバンドの人が歌謡曲とブラックミュージックを融合させてアイドルに歌わせた」というモーニング娘。のあり方は、思想的にはすでにハイパーポップ的ではありますね。
そういう文脈も込みで考えましたね。「LADY!」をお客さんに叫んでもらおう、みたいなことも想像しながら(笑)。
──面白いのが、続く「ガラスの靴」がサンバじゃないですか。
ですね。ただ、発想としては「サンバを作ろう」とか「サルサにしよう」とかの方向ではなくて、アルバム1曲目の「うつろ」からずっと迷っていた人が「ガラスの靴」で1回何かを得る状態にしたかったんです。それを表現するためのメロディとビートであって……このメロ感とラテンビートの感じというのは、今のJ-POPの基礎にあるものなんじゃないかという感覚がちょっとありまして。そこに一旦立ち返ったような感覚ですね。
──つまり前半の7曲をかけて、さんざん迷った果てに何かを取り戻しているんですね。ビート進化論でいうと、いろいろなものにトライした結果、ここでやっとひとつのスタンダードにたどり着いたみたいな。
うんうん、そんな感じです。
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「僕が出さないと」という使命感に駆られた

