ナタリー PowerPush - 植村花菜
いつもウソのない音楽を
植村花菜が約1年2カ月ぶりの新作となるミニアルバム「Steps」を完成させた。アコースティック、ゴスペル、ワルツ、ロック、ディキシーランドジャズなど、さまざまなサウンドに彩られた本作は、昨年2カ月間アメリカを1人で旅してステップアップした彼女のありのままの姿が凝縮されている。
今回のインタビューでは新作に込めた思いはもちろん、世間的に植村花菜の代名詞として知られている「トイレの神様」についても言及している。全編から、彼女の表現者としての強い意志やスピリットを感じてほしい。
取材・文 / 鳴田麻未 インタビュー撮影 / 佐藤類
20代最後にアメリカ1人旅
──こうして新作が出るのはけっこうひさびさですね。
そうですね。去年の1月にフルアルバムを出して以来なので、だいたい1年ぶりかな。
──植村さんは「トイレの神様」というヒット曲が出てからも、「今だ!」って焦ることなくちゃんと制作期間を取って自分のペースで作品を発表していますよね。
「トイレの神様」以前も以後も自分のスタンスは同じなので、コンスタントに曲を書きつつ、いい作品ができたらリリースしてっていう感じのペースはぜんぜん変わってないですね。急いで活動するのは嫌ですし。むしろ自分の中では昔よりじっくり楽曲を制作するようにしてます。
──じっくり作るようにしているのは何か理由でもあるんですか?
デビューしてから2011年までは、ありがたいことに休みなくずっと働いてるって感じだったんですよ。でも自分の中から何かをアウトプットするってことは、当然ながらインプットしないと出てこないわけで。この7、8年ずっとアウトプットし続けてきたんで、より深い作品だったり自分が一歩踏み出す作品を作ろうと思うと、やっぱり出すものを溜めないといけない。今まではそういうインプットの時間をじっくり作業として取ってこなかったんですけど、今は自分でちゃんと時間を作って、いろんなものを吸収するようにしてるんです。そうじゃないと書けないから。2012年はその一環で、プライベートでギター1本背負って2カ月くらいアメリカを旅したんですけど。
──ほお、アメリカに2カ月間1人旅。それはまたどうして?
2011年にNHKの「旅のチカラ」というドキュメンタリー番組で、アメリカのテネシー州にあるナッシュビルっていうカントリーの聖地に行かせてもらう機会があったんです。そのとき、短い8泊10日っていう期間の中で今まで自分が知らなかった世界を知って、ものすごい刺激を受けたんですよ。こんなにも短い期間で刺激をもらえるってことは、次誰にも頼らずにアメリカを旅したら、これはもうえらいことになるぞと。だからナッシュビルから帰ってすぐ、来年は絶対に1カ月以上1人でアメリカに行こうって決めてて。20代最後にアメリカ1人旅をすることが、自分の人生においてすごく大きな意味を持つってなんか直感で思ってたんです。
──それで海を渡って、現地では生活するだけなく音楽活動をしたりも?
はい。ストリートライブをやったり、飛び込みでライブハウスで歌ったり、各地そこでしか聴けないいろんな音楽に触れたりして、音楽の旅でもありました。
──新鮮なものをたくさん吸収できた旅なら、行く前とあとではできあがる曲にも変化がありそうですね。
作り方は今までとぜんぜん変わらないんですよ。けど、より自分に正直な曲が書けるようになったなと思いますね。やっぱりアメリカの文化に触れて、自分らしく生きるってすごく大事なんやなっていうことを感じて帰ってきて。もともと思ってたけど、その確信がより強くなって、自分の信じてるものとか、恥ずかしいところもカッコ悪いところも正直にさらけ出して書けるようになったかなと。
──アメリカの自由な文化は植村さんの肌に合っていたんですかね。
そうですね。アメリカって本当に自己責任の国というか個性を大事にする国で、何があっても自分で責任を持って自ら行動するっていう姿勢がすごくいいなあと思って。自分らしさを貫くっていうかね。自分に正直に生きるってことは、人とぶつかったり、わかってもらえなかったり、苦労もたくさんあると思うんですけど、自分はゼロからいろんなものを生み出していく人間なのでやっぱり妥協は許せないんです。本当に自分がいいと思ったものしか作らない。それくらい命削って生む作品だからこそ、聴く人にも響いてくれるやろうし。
──確かにそうですね。
今回のアルバムには、そのアメリカの旅で得たものとか感じたものを詰め込んだんです。今までのストックじゃなくて、全部アメリカから帰ってきて書き下ろした曲。あの経験があるからこそ書けるものを今回は入れたかったんで。なので“2012年の植村花菜”が純度100%で詰まってるって感じですね。
1曲1曲主役になる楽器が違う
──じゃあ今回のミニアルバムは、“自分”がこれまで以上に濃く出たような作品なんですね。
濃いでしょー。濃すぎるでしょう。1曲1曲の持つメッセージがよりストレートに伝わるようになったんじゃないかなと思いますね。
──うん、フルアルバムではないけど濃さはすごいですね。
しかも、今回初めてセルフプロデュースをしたんですね。なので作詞作曲はもちろんですけど、アレンジも音選びも全部自分でやってますし、楽器もいろいろ弾いてるし、本当に細部にわたるまで私のいろんな思いが詰まってます。
──例えば、サウンドに関してはどんなところにこだわりました?
1曲1曲、主役になる楽器が違うんですよ。例えば1曲目の「新しい世界」はストリングスで、オーケストラの壮大な美しい音色がメインです。「でこぼこ」は特に目立った楽器っていうのはないんですけど、この曲のこだわりは、タイトルの通りメロディも上がったり下がったり“でこぼこ”してて、アレンジでも右と左で違う音が聞こえたり、いろんな楽器のフレーズを混ぜて“でこぼこ”させてるんです。3曲目の「迷悩焦ワルツ」はアコーディオンとバイオリンがメインなんですけど、ティンパニとかマリンバとか、あんまりJ-POPには入らない楽器を入れてみたりしてミュージカルっぽく仕上げて。これは私がニューヨークでいっぱいミュージカルを観たので、それっぽい曲になったら楽しいなあと思って作りました。
──なるほど。順に追っていきますと、次の4曲目「めがね」は?
「めがね」は王道のアコースティックナンバーなんですけど、極力音数を少なくして、ちょっと切なさを出したくてハーモニカを入れました。私のアコギとウッドベース、チェロ、そこにもうひとつブルースハープが入ることによってフォークな感じもして、懐かしさもありながら古すぎずっていうか。で、「リグレット」はエレキがメインのロックバラード。「Oh! New Orleans」はディキシーランドジャズの雰囲気を出してトランペットがメインで、歌も楽器も一発録りで録ったままなんです。で、最後の「LOVE」は、ゴスペルっぽい曲を作りたかったんでオルガンを基調に、初めて自分以外の人のコーラスをいっぱい入れて。
──それらを1つひとつ意識してみるとさらに聴き応えがありそうですね。
そうですね。ホンマにこだわって全部違うから面白いと思います。
- ミニアルバム「Steps」 / 2013年3月13日発売 / KING RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2700円 / KICS-91895
- 通常盤 [CD] / 2100円 / KICS-1895
CD収録曲
- 新しい世界
- でこぼこ
- 迷悩焦ワルツ
- めがね
- リグレット
- Oh! New Orleans
- LOVE
初回限定盤DVD収録内容
The Birthday Live 2013.1.4
- Tennessee Waltz
- (They Long To Be)Close To You
- ミルクティー
- トイレの神様
- 世界一ごはん
- メッセージ
- My Favorite Songs
LIVE TOUR 2013 "Steps"
- 2013年5月22日(水)
愛知県 名古屋DIAMOND HALL - 2013年5月24日(金)
大阪府 なんばHatch - 2013年5月29日(水)
東京都 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
「Steps」リリース記念インストアイベント
- 2013年3月16日(土)
千葉県 イクスピアリ2F セレブレーションプラザ - 2013年3月17日(日)
埼玉県 イオン越谷レイクタウン kaze 翼の広場 - 2013年3月23日(土)
大阪府 阪急うめだ本店13F屋上ステージ - 2013年4月20日(土)
東京都 タワーレコード渋谷店B1F「CUTUP STUDIO」
※名古屋、広島、仙台でも開催予定。詳細は近日発表。
植村花菜 (うえむらかな)
兵庫県川西市出身。1983年1月4日生まれのシンガーソングライター。8歳のとき、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観て歌手になることを決意し、その日から毎日歌の練習を始める。19歳で曲作りを始め、地元を中心とした関西各地のストリートやライブハウスで活動を行う。その後「ストリートミュージシャンオーディション」で1200組の中からグランプリに選ばれ、2005年にシングル「大切な人」でメジャーデビュー。2010年3月にリリースしたミニアルバム「わたしのかけらたち」に収録の「トイレの神様」は口コミで話題になりドラマ化、小説・絵本化も実現し、同年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。その後コンスタントに作品を発表し続け、2013年3月にミニアルバム「Steps」をリリース。