「トイレの神様」もほかの曲と同じように大事

──ところで、巷では植村さんを「『トイレの神様』の人」と呼んでいる人が少なからずいると思うんですよ、正直なところ。

言いますよー、それは。

──今、ご自身としてはあの曲の存在をどう捉えていますか？

あの曲のおかげで今の活動があるわけやし、客観的にあの曲だけ突出して世間の人に知られてるっていうのもわかってます。たくさんの方に知っていただけて、自分の音楽人生を変えてくれた1曲でもあるので、そういう意味では特別な思いがあるし、おばあちゃんとの思い出を歌ってるので個人的に大切な曲でもあります。でも、あくまでも私にとってはほかの楽曲と変わりなく、同じようにかわいいし、同じように大事な1曲ですね。

──ああいったいわゆる“ヒット曲”が1つできてしまうと、その後作る曲の方向を変に意識してしまうことはないですか？

あんまり思ったことないですね、私は。あの曲がヒットしたから、次の作品は同じような曲を書いたほうがいいのかなとか、まったく違う感じの曲にしようかなとか、そういう迷いは一切なかったですね。私は今まで通りそのときに感じたことを曲をしてコンスタントに発表していくっていうことしかできないし、それがすべてなんで。だから何も変わらないです。

──売れる売れないはまったく気にしていない？

ゼロではないですよ。やりたいことをやるためには結果も必要だし、たくさんの人に聴いてもらいたいっていつも思ってるから、そういう意味での「売れたい」という野心はもちろんありますよ。ただ、それが強すぎてもっと大事なものを見失ってはいけないから。

──もっと大事なもの？

例えば「こういう曲作ったら絶対ミリオンヒットしますよ」というのを教えられたとして、私は作りたくない、でも売れたい、でも作りたくない……って思ったら、やっぱ作らないですね。みんなが純粋に「聴きたい」と思って、お金を払って買ってくれるCDだから意味があって、単に結果だけを求めるためだけに作っているわけではないから、私は。だから「みんな、絶対に損はさせませんよ！ 本当にこれ自信あるからぜひ買って聴いてね！ ありがとう！」みたいな（笑）。

──本当に自信を持って届けられるものしか届けたくないと。

結果、もしも思うような実績が出なかったとしても、それなら後悔しません。もちろん私だけじゃなくて一緒に仕事してくれてるスタッフの分も自分は責任を背負ってると思ってるから、がんばってくれるスタッフのためにも結果を残したいっていう気持ちはあるんですけど、自分の中で曲げちゃいけないことを曲げてまで、とは思わないですね。つまり普通より結果に対する関心が低いっちゃ低いかもしれない（笑）。とにかく「いいものを作りたい」ってスタンスで仕事しているので。

──なんだかお話を聞いている限り、人よりそのこだわりが強そうですね。

どうなんですかね。こだわりっていうかめっちゃシンプルやと思いますけどね、私が望んでいることは。人それぞれ何を大事にするかは違うと思うんですけど、私は本当にシンプルにいい音楽をやりたいっていう、それだけ。そのためにいろんなところをこだわってるんですね。

スターにはなれない

──ひとつ思っていたんですが、いい音楽を届けることにこだわりを持って活動しているアーティストはほかにもたくさんいますよね。その中でも、植村花菜の音楽、植村花菜のライブにはこんな魅力があります！というセールスポイントはどういうところだと思いますか？

自分のCDやライブのセールスポイント？ 私だけの？ うーん……。

──なかなかパッと出てくるものでもないと思うので、ゆっくり考えてくださって大丈夫ですよ。

（少し考え込んで）やっぱりウソのないとこかな。ライブでもCDでも。いいことも悪いことも包み隠さず歌詞に書いていたり、下手くそでもギターを演奏していたり。例えばライブのMCでも、カッコいいこと言うたり、ええこと言うたりあんまりしないっていうか（笑）。ミュージシャンの人ってすごいカッコいいじゃないですか。

──「今日は俺が幸せにしてやるぜ！」みたいな（笑）。

そうそう（笑）。私の場合はそういうのより、みんなと同じ目線でいたいというか。

──スターになるわけではなく。

スターにはなれないでしょう（笑）。スターのような絶対的な存在で、その人にしかできないことっていうより、私自身が地味に素朴に、生活に根付いた感じで雑草のような生き方してるんで（笑）、音楽も身近なテーマになるし、ライブもみんなが私んちに遊びに来たみたいな雰囲気になるんです。だからこそ、私の音楽を聴いてくれる人に対してウソのないようにいつもしてますね。まあウソがないとこと、素朴なとこ、身近なとこ（笑）。それが自分のセールスポイントなのかなあと思います。

──「ウソのないように」という姿勢は一見簡単なようでいて、メジャーシーンで貫いていくのは大変なときもあると思います。

そうですね。本当は「はい、わかりましたー」って周りの言うこと聞いてるほうが楽ですもん。けどそこで我慢しちゃったらその人に対するわだかまりも取れないし、そういうものが入ったCD、そういう思いがあるままのライブになってしまうので。ホンマに音楽ってめちゃめちゃ繊細で、その人のそのときの心境であったり精神状態が丸裸になって表れるから、なるべく周りとは誠心誠意話し合ったり、ぶつかったりしながらもお互い歩み寄って理解しつつベストなものを届けようとやっていってますね。