音楽ナタリー Power Push - SUPER BEAVER

フロントマン渋谷龍太書き下ろし小説と共に振り返る歩み

渋谷龍太書き下ろし小説と振り返るSUPER BEAVERの歩み

SUPER BEAVERがライブDVDと渋谷龍太(Vo)による書き下ろし小説をパッケージした作品「未来の続けかた」を10月12日にリリースした。

ライブDVDには彼らが結成10周年イヤーの締めくくりとして、4月に東京・Zepp DiverCity TOKYOで開催したキャリア最大規模のワンマンライブ「SUPER BEAVER10周年記念〆『都会のラクダSP ~スーパーフィーバー~』」で披露した全曲のライブ映像と、舞台裏の様子を収録。「都会のラクダ」と題した小説には、渋谷の目線によって切り取られたSUPER BEAVERの結成から現在までの軌跡が全208ページにわたってつづられている。音楽ナタリーでは、今作を軸にしながら彼らのライブ観や現在のモードを紐解くインタビューを実施。特集の後半には「都会のラクダ」の一節やメンバーコメントと共にSUPER BEAVERのこれまでの歩みを振り返る年表を掲載している。

取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 後藤倫人

SUPER BEAVERというバンドを伝える作品

──今回SUPER BEAVERにとってキャリア最大規模となったZepp DiverCity TOKYOでのワンマンライブ(参照:SUPER BEAVER、渋谷涙のZeppワンマン「こうなった以上は絶対に離さない」)の様子を収めたDVDと、渋谷さんによる書き下ろし小説「都会のラクダ」がリリースされますが、そもそもなぜセットで発売することになったのでしょう?

SUPER BEAVER

渋谷龍太(Vo) 最初は「DVDだけをリリースしよう」っていう話になってたんですけど、たまたまその話が出た時期に僕が10周年に向けて、バンドの過去のエピソードをブログにアップし始めて。それでチームの中で「それをちゃんとした形で書いてみよう」という話になって、「じゃあDVDに本を付けちゃおう」っていう。今までずっと僕らを応援してくれている方に「ありがとう」の気持ちを込めるという意味と、最近僕らを知ってくれた方もすごく増えたので、そういう方に対して「SUPER BEAVERっていうのはこういうバンドで、こういう経緯があって、こういう歌を歌ってます」っていうのを、どちらも伝えられると思ったんですよね。しかも10周年イヤーの締めくくりで行ったZepp DiverCity TOKYO公演のライブ映像と、今までの僕らのたどってきた道をつづった小説がセットになったらすごくわかりやすいんじゃないかなと思いまして。

柳沢亮太(G) 僕らは映像作品を出すこと自体が初めてなので、それがこのタイミングっていうのはすごくいいなと思いました。セットリスト自体も新旧さまざまなものが入っていて、過去の曲を知らない人も、逆に昔から聴いていて「ああこの曲をやってくれた」って思ってくれた人もいただろうし。渋谷が言った通り、最近僕らを知ってくれた方が増えたことで、今フロアがけっこうないまぜになってきてるんですよね。僕らとしてはすごくうれしいことで。

──ないまぜになってきてるというのには、どの時期から感じ始めましたか?

渋谷 ここ2、3年だと思います。実際「10年もやってたんですね」って言われることもありますし、その事実を知らない人がたくさんいると思っていて。作品で言うと2014年に出したアルバム「361°」以降かな。そこから少しずつ少しずつ人が増えてきたし、自分たちが世に送り出す作品の手応えっていうのも感じ始めました。

上杉研太(B) 今やってるツアーでも、「どこからそんなに来たのー!?」っていうほど、若い世代のお客さんが来てくださったり。お客さんの期待値が高いのも感じられて、今までのツアーとは違う雰囲気がしますね。

藤原“28才”広明(Dr) 確かに今回のツアーで雰囲気の変化を感じましたね。これまではあまりなかったんですけど、すごく前のめりでライブを観てくれてるなと。

SUPER BEAVER「SUPER BEAVER10周年記念〆『都会のラクダSP ~スーパーフィーバー~』」東京・Zepp DiverCity TOKYO公演の様子。(撮影:青木カズロー)

渋谷 うん。ライブが始まって会場が暗くなって、SEで僕らが登場して、一発音を鳴らしたときに、ギュッと前にお客さんが来る感じがするよね。今までももちろん、手を挙げてくれたり、歌ってくれたりっていう、ライブに参加してくれてる感じはあったんですけど、今回のツアーではお客さん自体に「発信したい」っていうスタンスがあるんだろうなって。それをうまく引き出せたら面白い空間が作れそうだなと思いました。

──ツアーを始めてみて気付いたんですね。

渋谷 蓋を開けてみたらそういう雰囲気でしたね。それがわかってからセットリストとかもちょっと変わったと思う。前までは自分らでちゃんと空気を温めてから、最後にピークに持っていくっていう感じだったんですけど、最近はわりと最初からフロアのテンションがトップギアに入ってることが多いので、頭に激しめの曲を持っていっても大丈夫だろうなって。

──お客さんとの信頼関係が高まってるんですね。

渋谷 はい。めちゃくちゃ信頼してますよ。同じ場所にいて同じものを介して楽しんでる人間が、そんなにスタンスが違うわけないので。求めてもらってるし、僕らも求めるし、いい関係性になってきてると思います。でも僕らはステージに上げてもらってる人間なので、もっと発信しますけどね。

気付いたら11万字の原稿を書いてた

──渋谷さんは今回初めて小説を執筆されましたが、もともと読書がお好きなんですよね。

渋谷龍太(Vo)

渋谷 作家で言うと宮本輝、花村萬月、浅田次郎、町田康が好きですね。物語が好きで、わりと手広く読みます。本屋に行ったら新しい作家さんの作品を1冊は手に取ると決めていて。

柳沢 渋谷はどこにいても本読んでるんですよ。ライブ前は喫茶店に読みに出ちゃうし。

──渋谷さんが今回小説を書くと決まったときはどう思いましたか?

柳沢 もともと渋谷が書いたコラムとかを読んでいて、渋谷の文章は独特の言葉遣いがあって面白いなと感じていて。だからって小説が書けるか書けないかは別だと思うんですけど、彼がSUPER BEAVERの歴史を文章にするっていうのは面白そうだなと思いました。

──渋谷さんはご自分で「小説を書きたいな」と思ってました?

渋谷 文章で何かをやりたいなっていうのはずっと思ってましたね。コラムとかCDのコメントとかは書かせてもらってたんですけど、コラムで1000~1500字程度、CDのコメントで300字程度なので、「長編ってどうやって書くのかな?」って思ってました。それで今回初めて長い作品を書かせていただいて、やっぱり面白いなと。あと小説を出すのが決まる前、ブログにメジャー期のことを書かせていただいたときに、すごくいろんな方から感想をいただいたんですけど、特にメジャーレーベルの方からすごくいい反応をもらって。

──へえ! そうだったんですね。

渋谷 僕らはメジャーレーベルを離れた経緯があるし、すごくナイーブな問題だからあまり卑屈にならないようにっていうのは考えながら書いていたんですけど。そういう卑屈な感じに捉えられずに、メジャーレーベルの方にもいい反応をいただけたのでうれしかったですね。それで最初に人から「本にしちゃったら?」って言われたときに、「すげえ楽しそうかも」と思って、ブログにアップした文章を軸にボリュームアップさせたんです。そしたら結果的に11万字ぐらいになっちゃって。どんなページ数になるんだろうって思ったら208ページになって。

──そうだったんですね。今回の「都会のラクダ」には、そのときどきの渋谷さんの思いやメンバーのやりとりがすごく詳細に書かれていて面白かったです。

渋谷 例えば上杉に「バンドやろう」って誘われて、高校の後輩だった柳沢を廊下で紹介してもらったこととか、柳沢が幼なじみの藤原を連れてきたこととかを鮮明に覚えてるから、詳しく書けましたね。書き終わって気付いたら今回小説の中で藤原のことめちゃくちゃイジっちゃって(笑)。

藤原 ただの落ちだもんね(笑)。

渋谷 楽しくて喫茶店でニヤニヤしながら藤原のこと書いてたからね(笑)。バンドを組むときだって、メジャーレーベルから離れてメンバー全員がアルバイトを始めるときだって、要所要所でしっかりコミュニケーションを取り合ってたから、そのときの会話をちゃんと覚えてるんだと思います。

柳沢亮太(G)

柳沢 メジャーから離れてバイトをしながら音楽を続けるとか、実はそういう日常の感覚って、このバンドにとっては大事な部分だと思っていて。音楽と私生活が割り切れてないバンドっていうか。僕らが音楽をやるためにバイトをしていて、そのバイトの中ではこういうことがあってっていうのを、ただシリアスにじゃなくて、面白おかしい表現も含んだ上で、みんなが知ることができるっていうのはやっぱりいいなって。本来はバンドとして、見てもらわなくてもいい部分だと思うんですよ。でも僕らに関して言うなら、光の当たらない場所を見られたところで「えーガッカリ」とはならないと思っていて。

渋谷 うん。僕らはそんなスペシャルなバンドじゃなくて、ちゃんと学校の部活で出会って、普通の生活を送って、いろんな人と関わりながら歩んだ結果ここにいるんですよね。特別なことがあったから特別なことをしているのではなく、普通の生活を過ごしていく中で、特別なことを自分で感じる大切さというか。他人に何かをやってもらうこと、優しくしてもらうこと、一緒にいてくれることがいかに特別なことかっていうのを、やっぱり、それを選び取ってきた人間だからこそ伝えたいなと思います。

ライブDVD+小説「10th Anniversary Special Set『未来の続けかた』」2016年10月12日発売 / 4298円 / [NOiD] / murffin discs / NOID-0014
「哀余る」
  • 2016.04.10 @Zepp DiverCity
    SUPER BEAVER 10周年〆「都会のラクダSP~スーパーフィーバー~」
収録内容
  1. 361°
  2. 鼓動
  3. 言えって
  4. ことば
  5. 歓びの明日に
  6. あなた
  7. シアワセ
  8. 深呼吸
  9. らしさ
  10. 日常サイクル
  1. your song
  2. 人として
  3. 青い春
  4. ルール
  5. うるさい
  6. 証明
  7. 東京流星群
  8. ありがとう
  9. 愛する
  10. 秘密
  11. ILP
  • 渋谷龍太(Vo)初の書き下ろし小説「都会のラクダ」全208ページ
ライブ情報
10th Anniversary Special Set「未来の続けかた」発売記念 トーク&サイン会
  • 2016年10月13日(木)東京都 タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
    20:00~
  • 2016年10月16日(日)愛知県 名古屋PARCO 西館一階エントランス
    15:00~
  • 2016年10月21日(金)大阪府 タワーレコード難波店 5Fイベントスペース
    19:00~
  • 詳しくはこちら

SUPER BEAVER(スーパービーバー)
SUPER BEAVER

2005年に東京で結成されたロックバンド。メンバーは渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“28才”広明(Dr)の4人。ギターロックを基調としたエモーショナルなサウンドと、メッセージ性あふれるまっすぐな歌詞を特徴とする。2009年6月にEPICレコードジャパンよりシングル「深呼吸」でメジャーデビュー。2010年10月にリリースされたミニアルバム「SUPER BEAVER」の収録曲「ささやかな」が、映画「ソラニン」のラストシーンで使用され話題を呼んだ。2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベル「I×L×P× RECORDS」を立ち上げ、シングル「歓びの明日に」を発表した。2013年、東京・Shibuya eggmanのスタッフ・YUMAが「mini muff records」内に発足させたロックレーベル[NOiD]とタッグを組み、翌2014年2月にフルアルバム「361°」をリリースした。その後精力的にツアーや自主企画ライブを開催し、9月にはテレビアニメ「ばらかもん」の主題歌「らしさ」を含むシングル「らしさ / わたくしごと」を発表した。同月に柳沢が緊急入院するという事態に見舞われたが、バンドはサポートメンバーを迎えライブ出演をキャンセルすることなく敢行。柳沢の退院後にアルバムの制作に入り、バンド結成10周年の節目に当たる2015年4月1日、アルバム「愛する」をリリースした。2016年1月より3カ月連続でシングルをリリースし、4月にはバンド史上最大規模のワンマンライブを東京・Zepp DiverCity TOKYOにて開催。6月にフルアルバム「27」を発表し、10月にZepp DiverCity TOKYO公演の様子を収めたライブDVDと渋谷による書き下ろし小説「都会のラクダ」をパッケージした「10th Anniversary Special Set『未来の続けかた』」を発売する。