スカパラ「風に戦ぐブルーズ feat.TAKUMA (10-FEET)」特集|自分たちの音を背負い続けるために

東京スカパラダイスオーケストラが5月6日に新曲「風に戦ぐブルーズ feat.TAKUMA (10-FEET)」をリリースした。

今年、デビュー35周年を迎えたスカパラ。アニバーサリーイヤーのキックオフコラボとなる今回の楽曲は、10-FEETのTAKUMAをゲストボーカルに迎えて制作された。10年前の2013年から2014年にかけて、スカパラがデビュー25周年のタイミングで新たに挑んだ“バンドコラボ3部作”の第1弾として10-FEETを迎えて以降、何度となくステージをともにし、楽曲制作も行ってきた両雄。2組が新たに作り上げた「風に戦ぐブルーズ」は、これまでのどのコラボ曲とも異なるシリアスなムードをまとった、聴く者の胸に迫る楽曲に仕上がっている。

リリースを記念して、音楽ナタリーでは作詞を担当した谷中敦(Baritone Sax)と作曲を担当した川上つよし(B)に話を聞いた。なお、インタビューの最後にはTAKUMAから届いたコメントも掲載する。

取材・文 / 大山卓也撮影 / YURIE PEPE

10年間で一番濃い関係

──今回のTAKUMAさんとのコラボはどういう経緯で実現したんでしょうか?

川上つよし(B) 「閃光」で10-FEETとコラボしたのが10年前なんですけど、その後もTAKUMAとは「Samurai Dreamers<サビレルナ和ヨ>」という曲を作ったりしてるし、逆にスカパラが10-FEETのアルバム(2017年リリースの「Fin」)に収録されている「HONE SKA」に参加したり、フェスで共演してる数もハンパなくて。それで今回35周年のキックオフどうする?と考えたときに、この10年の間、一番濃い関係を続けてきたTAKUMAの顔がみんなの頭に浮かんだ感じですね。

谷中敦(Baritone Sax) いつも二つ返事でやってくれるんだよね。

川上 今回も即答でした。

谷中 「スカパラ兄さんへの返事はハイかYESしかありません!」って(笑)。

左から川上つよし、谷中敦。

左から川上つよし、谷中敦。

──さすがの信頼関係ですね。

川上 今思い出したけど、あのときもすごかったよね。当日頼んで「ミュージックステーション」に出てもらったとき(笑)。スカパラは石原(慎也 / Saucy Dog)くんと「紋白蝶」で出演することになっていたんですけど、出演者としてラインナップされていた宮本(浩次 / エレファントカシマシ)さんが体調不良で出られなくなっちゃったんですよ。で、その日たまたまTAKUMAが渋谷のライブハウスにいることがわかった番組プロデューサーの方が出演をお願いしたら、自分のライブが終わったあとに駆け付けて、宮本さんの代役で歌ってくれたんだよね(参照:TAKUMA、体調不良の宮本浩次に代わりこのあと「Mステ」緊急出演!スカパラとともにエレカシをカバー)。

谷中 TAKUMAもエレカシは好きだし聴いてはいたけど「俺たちの明日」をちゃんと歌ったことはなかったんで、その日のうちに歌詞とかメロディとか、楽屋で必死に覚えてくれて。

川上 言われたその日に「Mステ」で歌うってすごいよ。

谷中 終わったあとにサザンの桑田(佳祐)さんに「歌声に勇気をもらった」って褒められて、TAKUMAはめっちゃ喜んでましたね。お母さんに教えなきゃって(笑)。

“封印”を解いた歌声

──TAKUMAさんの参加が決まったあと、楽曲の方向性はすぐに見えましたか?

川上 「閃光」は明るいパンクの曲で「Samurai Dreamers」も激しい曲だったから、今回はちょっと違う路線にしたいということで、この曲を書きました。いつものガナる感じじゃなく、TAKUMAの歌い上げる系のボーカルに興味があって。

谷中 デモの段階で何回も歌ってもらったんだよね。

川上 3曲くらいデモを投げたら全部歌ってくれたんです。「第ゼロ感」が大ヒットして大忙しの時期だったのに。しかもキーを変えて何パターンか歌ってもらったり。難しいんですよ。声が無理なく出ればいいってもんじゃなくて、ちょっと苦しそうだけどこのキーがいいみたいな判断もありますからね。

川上つよし

川上つよし

──この曲を聴いてTAKUMAさんの美声に驚きました。

川上 そうそう、こんなに歌うまかったんだ?って(笑)。

谷中 紅白歌手に失礼だよ!(笑)

川上 本人が言ってたんですけど、ロックバンドをやるって決めたときにビブラートみたいなテクニックを封印したんですって。お父さんが歌とギターをやられていたそうで、そういう歌い方もできたんだけど、それはロックじゃないということで。でも今回ちょっと封印を解いたと言ってた。

谷中 お父さんから習ったものじゃなく、自分の歌を作りたいという思いがあったんでしょうね。そのせいなのか今回はどこか歌謡曲っぽいというか、それこそ桑田さんっぽく聞こえる部分も自分的にはあったりして。彼の記憶の中のいろんな歌がここにすべて集約されて出てきてる気がするんですよね。

谷中敦

谷中敦

「戦ぐ」は能動的

──最初に曲名を見たとき「戦ぐ(そよぐ)」の表記が意外でした。普段はひらがなで「そよぐ」と書くことが多いので。

谷中 普通は読めないですよね。以前たまたま「そよぐってこう書くんだ?」と気付いてすごいなと思ったときがあったんです。「戦ぐ」は受動的じゃなくて、自分から能動的に風に身を任せていくイメージなのかもしれないなって。

──歌詞にある「同じ仲間で」「俺たちは」といった言葉はスカパラ自身のことを歌っているんでしょうか?

谷中 やっぱり35周年なんで、音楽に捧げてきた自分たちの人生を描きたい気持ちはありました。もっと言えば自分たちだけのことじゃなく、TAKUMAだって同じようにがんばってるし、ファンの人たちもいろんな音楽に勇気付けられながら生きている。そういう気持ちをまとめて1つの絵を描きたいと思っていましたね。

──この曲を象徴するフレーズはどこだと思いますか?

谷中 うーん……そうだな、「あの頃は焦る指先 力みすぎてうまく 鳴らせない和音」のところですかね。ここはけっこう大きいかも。

川上 そこなんだ? それは作詞者ならではの視点かも。

谷中 ときには力むことも必要だって歳をとると理解できるんですけど、若い頃はわからないですよね。力みたいわけじゃないのに、どうしようもなく力んでしまう。その姿が愛おしいなと思ったんです。

左から谷中敦、川上つよし。

左から谷中敦、川上つよし。

──歌詞だけでなくメロディにも深い哀愁を感じます。川上さんはベースを弾きながら曲を作っているんですか?

川上 いや、ベースだと限界があるんで、ギターの和音を力みながら押さえていますね(笑)。

谷中 あはは。そういえば川上はミーティング中に鼻歌を歌ってるときあるよね。「えっ、話聞いてないのかな?」と驚くんですけど。

川上 無意識で歌っちゃうんだよね。

谷中 本人が思ってるより大きい鼻歌なんですよ。常に作曲のことを考えてるんだろうなと思いながらみんなで見守ってます(笑)。

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