鈴木亮平が主演を務めるNetflix映画「シティーハンター」が4月25日よりNetflixで世界独占配信されている。
1985年に連載が始まり、現在、累計発行部数5000万部を超える北条司の大ヒットマンガを日本で初めて実写化した「シティーハンター」。舞台は令和の新宿だ。裏社会でのトラブル処理を請け負う鈴木演じる冴羽獠が、相棒・槇村秀幸の死を発端に、槇村の妹・香と出会うことから物語は展開していく。
本作の配信を記念して、映画ナタリー、音楽ナタリー、コミックナタリーで全3回の特集を展開中。音楽ナタリーでは、エンディングテーマ「Get Wild Continual」を手がけたTM NETWORKメンバー3人のソロインタビューを掲載する。1987年から放送されたアニメ「シティーハンター」のエンディングテーマとして広く愛された「Get Wild」を、“Continual(継続的)”な楽曲として、映画のため新たにアレンジ、レコーディングしたという彼ら。この曲は小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登にとってどんな意味を持つのか、それぞれの視点で明かしてもらった。
取材・文 / もりひでゆき
Netflix映画「シティーハンター」予告編公開中
生みの苦しみを味わいながら、作品を少しでも支えられる曲にしよう
──Netflix映画「シティーハンター」のエンディングテーマとして新録された「Get Wild Continual」は、どんなイメージでアレンジを固めていったんですか?
オリジナルのよさは残しつつも、あくまで最新の「Get Wild」を聴いてみたいというオーダーがありまして。それがなかなか難しかったです。Netflixを通してたくさんの方に聴いていただくことになるとは思いますが、今日の時点(取材は4月頭に実施)ではまだ皆さんからの反応がわからないのでちょっと心配な部分はあるかな。
──いや、まさにイメージ通りの仕上がりだと思います。原曲の魅力はそのままに、新しい要素が注入されることできっちりアップデートされていますから。
一番大きいところで言えば、宇都宮(隆)くんが何十年かぶりにしっかり歌い直しているというのがわかりやすい変化ですよね。ほかにも使っている音を基本的には全部変えていますし、木根(尚登)さんのアコースティックギターを入れたりもしているので、僕たち3人的にはすごく変えたつもり。ちょっとマニアックな部分では、オリジナルのドラムを叩いてもらった山木(秀夫)さんに今回もお願いして、当時の雰囲気を踏襲しつつ、さらに新しいリズムというのを一緒に考えたうえで叩いてもらったんですよ。だから僕ら3人プラス山木さんで今のサウンドを作っていった感じでした。あとはオリジナルの音源を使っているところも実はあって。
──そこはあえて残したんですか?
調味料というか、エッセンスとして使った感じです。少しだけ調合することでオリジナルの香りが漂うように。残したというよりは、あえて使ったっていう表現のほうが正しいですね。あとね、オリジナルバージョンと「Get Wild Continual」のテンポは同じなんですけど、今回のほうがスピード感があるんです。今までにもいろいろなところで話してますけど、それは実写とアニメの違いによるもので。実写っていうのは1秒たりとも止まっている画、同じ画というのがないんだけど、アニメの場合はそれが1秒以下だとしてもフィックスの画があるんです。その差を埋めたいという思いが自分の中にあるので、それがタイム感に現れた。今回は実写なので、スピード感を出すことで映像の動きに追いついていくというイメージです。
──BPMを変えずにスピード感を出すにはどんなアプローチが必要になるんでしょうか?
それは音楽家だったらなんとでもなる(笑)。楽器の組み合わせによって聴き心地を遅くしたり速くしたりできるんです。今回のアレンジで一番大きいのは僕が弾いているシンセベース。オリジナルとは全然違うフレーズになっていて、それによってスピード感を出しました。ベースという名前の楽器なので、やっぱりサウンドの基本になるんですよね。
──先ほどお話に出た木根さんによるアコースティックギターを盛り込んだことにはどんな意図があったんですか?
30周年のときに作った「Get Wild」のアレンジは木根さんのアコギと僕のシンセが絡むものだったんだけど、その評判がすごくよくて。僕自身も気に入っていたし、木根さんもお好きだったようなので(笑)、それをまたやってみようと。もちろんそのときと同じフレーズは一切なくて、まったく新しいアレンジではあるんですけどね。あの雰囲気を引っ張ってきた感じ。
──前半は比較的オリジナルに忠実なアレンジですが、中盤にはシンセがたっぷり入ってきて、まさに今の、新しい「Get Wild」を感じることができますよね。
そうそう。監督から言われたと思うんですよ。ワンコーラス目だけオリジナルに近い雰囲気にしてもらえたら、あとは好きにしちゃってくださいって。そこはオーダー通りになったかなと。もちろんワンコーラス目も楽器の鳴り方はオリジナルと全然違ってはいるんだけど。
──間奏のシンセの洪水は最高に気持ちいいですよね。小室さん的にも思い切りやった感じですか?
たぶん今までにはなかったパターンだと思います。すごく広がりを表現できた気がしていて。しかも、劇中ではワンコーラス目まで映像と一緒に流れるんだけど、そのシンセのパートでブラックのエンドロールに切り替わるんですよ。すごく大切に考えて楽曲を使ってくれていたのがうれしかったですね。本当に感謝しています。
──それは小室さん、引いてはTM NETWORKにも言えることですよね。「シティーハンター」という作品に寄り添うために、本当に細部までこだわり抜いて作られたことが伝わってきますから。
今回の「シティーハンター」は、冴羽獠役の鈴木亮平さんがカラダ作りを含め、本当に大変な思いをして撮影に臨まれた作品ですからね。そこで使っていただく音楽を簡単に作ってしまってはダメだなという思いが強くあった。鈴木亮平さんのエネルギーに負けないよう、僕らもとにかく苦労しようと。生みの苦しみを味わいながら、作品を少しでも支えられる曲にしようという思いを持ちながら制作をしていました。それはウツ(宇都宮)も木根さんも同じ気持ちだったと思います。
これからも世代関係なく、たくさんの人たちに聴き継いでいってほしい
──TM NETWORKが約37年前にリリースした「Get Wild」が、「Get Wild Continual」として新たに生まれ変わりました。
これほどまでに長い間、愛される楽曲になるなんてね、当時はまったく思ってませんでしたよ。アニメの「劇場版シティーハンター<新宿プライベート・アイズ>」(2019年公開)で使っていただいたくらいから、また「Get Wild」の注目度が上がり、そこから“Get Wild退勤”なんて言葉が生まれたりもして。「なんだよ、それ(笑)」と思いながら面白がっていたら今回、Netflixでの実写版「シティーハンター」とのご縁があって。そういった流れというのはもう自分たちの力だけじゃどうにもならないことなので、タイミングがうまく重なったからこそという気持ちが強いですね。
──「Get Wild Continual」は、1999年リリースの「GET WILD DECADE RUN」以来となる完全新録音源となります。小室さんによるアレンジについてはどんな印象を受けましたか?
「Get Wild」にはものすごい数のバージョンがあって、ライブでもまたアレンジが変わっていくんですけど、今回はちょっと前のライブアレンジの雰囲気を感じるところがありましたね。もちろん完全に新しいアレンジにはなっているんだけど、木根がアコースティックギターを弾いているという部分なんかは、ちょっと地続きなものを感じたかな。
──宇都宮さんのボーカルも新たな印象をまとっていますよね。
ツアー中でのレコーディングだったので、「歌えるかな」という心配がちょっとあったんですけど、今回のアレンジにうまくはめられたとは思います。せっかく新録するんだから少し雰囲気を変えてみようということで、オリジナルには入っていなかったBメロのコーラスを入れたりもしたんですよ。「ちょっと木根、下ハモやってみて」みたいな感じで。そのあたりも含めて、配信がスタートしたあとの反応が楽しみです。
──宇都宮さんのボーカルに木根さんのハモが重なる部分は、往年のファンにとっては間違いなくグッとくるポイントですが、ご自身としても特別な感情があります? 気心の知れた関係から生まれる安心感というか。
安心というか、小さい頃からずっと一緒にいるわけなので。もはやそこに関してはなんとも言えないですけどね(笑)。
──あと、今回の音源を聴かせていただいて一番衝撃を受けたのは、宇都宮さんのボーカルのみずみずしさだったんですよ。
ボーカルっていうのは年齢が大きく関わってくるパートなので、今の自分の年齢の歌が乗せられたらいいなとは思っていました。ここ最近の自分の喉の傾向って、わりと初期の声に戻っている感じがあるんですよ。アルバムで言えば「RAINBOW RAINBOW」(1984年リリースの1stアルバム)や「CHILDHOOD'S END」(1985年リリースの2ndアルバム)の頃に近い声。だから、年齢的にはまったくみずみずしくはないんだけど(笑)、声に関してはそういう部分を感じてもらえるかもしれない。周りの人間もびっくりしてましたから。木根には「声、若くねえか⁉」って言われましたし(笑)。
──同じ感想を持つリスナーもきっと多いと思いますよ。小室さんは何かおっしゃってました?
今回の曲に限らずですけど、「転調が多いのによく歌えるよね」みたいなことを小室はよく言ってきますね。僕からしたら「そういう曲を自分が作ったんだろ?」って思うんだけど(笑)。
──あははは。TM NETWORKとして活動してきた40年は、ボーカリストとして徹底的に鍛えられてきた時間でもあったのかもしれないですね。
うん、そういう感覚はありますよ。特に最初の10年は本当に鍛えられたと思う。再始動して以降も小室が作ってくる曲は毎回、すごく難しいんですけど、だんだんそこの乗り越え方がわかってきたところもあって。今ではどんな曲が来たとしても、「今度はこう来たか」と思いつつ、うまく表現できるようになっちゃった感じ(笑)。
──今回のレコーディングで特にこだわった表現はありました?
曲全体の雰囲気にうまく当てはめていくことですよね。あとは歌詞をちゃんと伝えられる歌い方をすること。それは今回の曲に限らずではあるんだけど。ただ、改めて「Get Wild」をレコーディングしてみて感じたのは、ものすごく早口だよなっていうことで。たぶん、もうちょっとしたら口が回らなくなりそう(笑)。
──絶対にそんなことにはならないと思います(笑)。楽曲タイトルには“Continual(=継続的な)”というワードも付けられているので、これからもそのときごとの宇都宮さんで歌い続けてください。
そのタイトルに関しては、「Get Wild」の作詞をしてくれたみっこ(小室みつ子)ちゃんがこだわって付けてくれたものなんですよ。TMが40年続いてきたこと、「Get Wild」がここまで愛してもらえ続けてきたことを考えると、だからこそこの先も続いていくんだろうなって思えるというか。そういう意味を込めてくれたんじゃないかな。4月8日が“Get Wildの日”という記念日になってしまったりとか、曲以外の部分でも広がり続けているのは本当にすごいことですからね。僕らとしてはできる限りライブで歌い続けようと思っているし、これからも世代関係なく、たくさんの人たちに聴き継いでいってほしい。「Get Wild」はそういう曲ですね。
「Get Wild」は僕らにとってカラダの一部
──Netflix映画「シティーハンター」のエンディングテーマとして新たな「Get Wild」である「Get Wild Continual」が誕生しました。今回は実に25年ぶりとなる完全新録作になるんですよね。
はい。制作を進める中で小室(哲哉)さんから「今回はアコギを入れたいんだよね」という話をされて。僕がアコギをかき鳴らしているところが、オリジナルの「Get Wild」とはひとつ大きく違うところだと思いますね。振り返るとTM NETWORKが30周年のときにやったライブ(「TM NETWORK 30th 1984~QUIT30」「~QUIT30 HUGE DATA」)での「Get Wild」はアコギを使ったバージョンだったりしたんですよ。その雰囲気を踏襲した感じで改めてレコーディングするのは、すごく新鮮で楽しかったです。
──アコギをフィーチャーしたのにはどんな意図があったんでしょうね。
3人それぞれの個性を出したいということだったと思います。「Get Wild Continual」を作っていたのは、3人だけでステージに立つということをテーマにしていたツアー(「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days~DEVOTION~」)中だったので、そういう意図が生まれたような気がしますね。
──改めて「Get Wild Continual」の仕上がりについてはどう感じていますか?
一番気になっていたのはボーカル部分だったんですよ。だってね、40年近く前に生まれた曲を今、もう一度録音するわけだから。どんなものになるのかがあまり見えなかったし、ちょっと心配する気持ちも確かにあったと思う。でも、そんな思いをあっさり覆してくれた気がして。年齢を重ねているにもかかわらず、「むしろ若い頃に戻ってるんじゃないか⁉」って思うくらいの声を聴かせてくれた。それがメンバーとしても友達としても一番うれしかったところですね。
──楽曲としての新たな可能性を感じさせてくれる仕上がりになっていますよね。それだけ楽曲としての懐が深い「Get Wild」とはTM NETWORKにとってどんな存在になっていますか?
普通ね、37年前のヒット曲と言えば、その時代をリアルタイムで過ごしていた人だけのものだったりするじゃないですか。「ああ、昔この曲よく聴いたんだよね」みたいな。でも、「Get Wild」に関しては、時代に関係なく常に、ずっと支持していただけてきたわけで。そういう意味ではやはりものすごく大きな存在ではありますし、そうなったのは間違いなく「シティーハンター」のおかげでもあると思います。「シティーハンター」という作品を愛している人たちが、同時に「Get Wild」も愛し続けてくれたおかげ。しかも今回、冴羽獠を演じた鈴木亮平くんのように、新たな世代の人たちがまた広めようとしてくれている。去年もアニメ版(「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」が公開されているのに、すぐにまた日本で実写映画が作られ、世界に向けて配信されるなんてね、もう極めつけですよ。「また使っていただけるんですか!」っていう(笑)。それはもうミュージシャン冥利に尽きることだし、もはや僕らにとっても体の一部になっている楽曲だと思います。
──長年愛され続ける理由には、どれだけ聴いても飽きさせることのない楽曲としての強度があると思うんですよね。そのあたりメンバーとしてはどう感じます?
いまだに客観的に聴けない部分はあるんだけど、あのイントロの強さに尽きるような気はするかな。メロディとしては“ミレド、ミレドドド”っていう子供でも弾けるシンプルなものではあるけど、これから何かが始まる予感がそこにはある。デモの段階ではなかった、あとから付けたイントロではあるんだけど、あれが生まれたからこそ「Get Wild」はここまで来たんじゃないかなと僕は思ってます。もちろんサビのメロディや“Get wild”という言葉の強さとか、ほかにもいろいろな要素はあるんだと思うんですけどね。飽きるという意味では、演ってる側としては当然そういう時期も確かにあったんですよ。でも今はもうそういう時期を超えて、愛おしさしかない。ライブでも毎回、楽しく演奏させてもらっています。
──では、「Get Wild」の未来についてはどんな思いがあります?
未来⁉ まだありますかね(笑)。
──いやいや(笑)。この曲の持つ意思はここで終わるわけがないと思いますけど。
もう十分じゃないかと思うんだけど(笑)。あ、でもNetflix映画「シティーハンター」を観ると、その先の物語があるように感じますもんね。それはぜひ観てみたい。で、もし続きがあった場合、エンディングを違う人が担当してたらちょっと複雑かも(笑)。また関わることができる奇跡が起きたらうれしいですけどね。
──TM NETWORKとしては当然、歌い継いでいく気持ちはあるわけですよね。
それはもちろんです。言ったらもうメンバー3人だけの「Get Wild」ではなく、そこには育ての親とも言えるTMファン、そして「シティーハンター」ファンの方がたくさんいてくださるわけなので。みんなで一緒に、という気持ちですね。
──Netflixを通じてその輪が今まで以上に広がっていくんでしょうね。
日本だけでなく、世界に広がっていくわけですからね。「Get Wild Continual」をたくさんの方々に聴いていただけることを想像しただけで、ゾクゾク、ワクワクします。本当にありがたい話ですよ。
プロフィール
TM NETWORK(ティーエムネットワーク)
小室哲哉(Key)、宇都宮隆(Vo)、木根尚登(G)による音楽ユニット。1984年にシングル「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」、アルバム「RAINBOW RAINBOW」でデビューを果たし、1987年に「Self Control」「Get Wild」が大ヒットを記録した。1990年にはTMNとして「TIME TO COUNT DOWN」「Love Train」などを発表し、1994年5月の東京ドーム2DAYSを最後に活動を終了した。1999年7月にTM NETWORK名義で再始動し、デビュー30周年にあたる2014年には全国ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」の開催、さらに12枚目のオリジナルアルバム「QUIT30」の発表など精力的な活動を展開した。2022年にはアリーナ公演を含む全国5都市ツアー「FANKS intelligence Days」を実施し、計4万人の動員を記録。2023年6月にはニューアルバム「DEVOTION」をリリースし、全国ツアーを行った。2024年4月にデビュー40周年を迎え、ライブ映像作品「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~ LIVE Blu-ray」を発表。5月にはトリビュートアルバムがリリースされる。