ナタリー PowerPush - 奥華子
デビュー5周年で見せる「たかが奥華子」の本気
大切なテーマはデビューからずっと変わってない
──タイトルにもなっている「ガラスの花」という言葉が印象的ですが、これってゲームにも登場するものだったりするんですか?
いや、出てこないんですよ。ゲーム側の方が「何かフックになる言葉が欲しい」って言ってくださったので、何かを象徴する言葉を使いたくって。
──どんなものを象徴しているんでしょう?
「本当の強さは優しさの中に隠れて見えない」っていう歌詞があるんですけど、けっこう誰でもそうなのかなって思うんですよね。大事なもの、かけがえのないものっていうのは、儚かったり壊れそうなものだから大切に思えたりするのかなって。なので、そういう儚さを表す言葉として「ガラス」を使ったんです。で、「花」っていうのは、心の中に咲かせるか咲かせないかは自分次第だ、みたいなイメージとして使ってます。聴く人それぞれの「ガラスの花」を、っていう感じですね。
──それぞれに感じてほしいと。そういう儚いものだからこそ大切にしたいっていう気持ちは、奥さんの歌にはずっと一貫して描かれているような気がします。あと、花にまつわる曲名も多いですよね。
ああ、そうですよね。デビュー曲が「やさしい花」っていう曲だったんですけど、今回と同じようなテーマでしたからね。そういう意味ではずっと変わってないんですね、きっと。言いたいことっていうのは。花をよく使うのは、単純にわかりやすいからかもしれないです。
──でも、咲いている時間が短い花というものにも儚さを感じますもんね。
あ、それだ! そういうことなんだと思います、きっと。そういうことです(笑)。
カップリングは珍しいタイプの曲
──で、今回のシングルは2バージョンでリリースされて、それぞれカップリング曲が違うんですよね。まず「Tales Edition」には、「ガラスの花」の弾き語りバージョンと「初恋」「変わらないもの」のライブバージョンが。
「ガラスの花」の弾き語りは、原曲とは全然違う、すごくゆっくりしたバラードになっています。また違った雰囲気で楽しんでもらえるんじゃないかと。ライブバージョンに関しては、「あ、この曲有線で聴いたことある!」とか「時かけ(アニメ映画「時をかける少女」)で聴いたことある!」とか、そういう感じで初めて奥華子を知った人に、より興味を持ってもらえるような意味合いで選曲しました。
──ストリングスだけで歌われる「変わらないもの」は感動的ですよね。
弦だけで歌うのはものすごく難しかったんですけど、すごくいいなあって自分でも思うので、ぜひみんなにも聴いてもらいたいなと思って。
──通常盤には、アルバムにも収録されている新曲「トランプ」と、「初恋」「一番星」のライブバージョンが収録されています。
「一番星」はバンドでやったライブバージョンなんです。私は普段、弾き語りライブをやっているので、バンドアレンジはちょっと特別感があるかなと思って入れさせてもらいました。で、「トランプ」なんですけど、これはちょっと面白い作り方をしたんです。もともとアルバムに入っている「フェイク」という曲が「トランプ」というタイトルで、それをカップリングにするつもりだったんですね。でも、アルバムの中に入れたらちょっと変化が出るかもっていうことで、シングルには入れないことになったんですけど、その時点でホームページに「トランプ」がカップリングとして収録されるということをすでに発表しちゃってて。で、もうどうしようもないから、もともとの「トランプ」を違うタイトルにして、もう1曲新しい「トランプ」を作ることにしようと。それがこれなんです。結局、コレもいいねっていうことになり、アルバムにも入れることになったんですけど(笑)。
──なるほど。じゃあタイトルから作っていったわけなんですね。
そうなんですよ。初めてですね、曲名から作ったのは。でもやっぱり、タイアップに合わせて曲を作るのと同じように、向かうところがあると力を発揮できるんでしょうね。1日でできちゃいましたから。
──めちゃくちゃいい曲だと思いますよ、これ。すごく好き。
良かった! 超うれしいです。声はデモをそのまま使ってるんで、ちょっとかすれてるんですけど、それがこの曲には逆にいいかもね、みたいな。そういう部分でも珍しいパターンの曲だと思います。
「たかが奥華子じゃん」って
──そして、シングルに続いて5枚目のアルバム「うたかた」もリリースされます。
1年に1枚出すっていうのは前から決めていたので、できると思ってたんですけど……なかなかできなかったんですよ、曲が。今回は一番苦しかったですね。
──どうしてなんでしょうね?
前回のアルバム(「BIRTHDAY」)のときは、自分の気持ちがすごく前向きだったんですよ。でも今回は素の奥華子の状態が出ちゃった。私、素はほんとに後ろ向きなんですよ(笑)。そこが前面に出ちゃったから、そこに打ち勝つまでに時間がかかった感じなんです。曲を書くこと自体、なんのためにやるんだっけ、みたいなところまで行っちゃってたんで。
──どうやってその状態を抜け出したんですか?
曲ができないっていうのは、自分が納得できるものができないっていう意味なんですけど、よくよく考えると「自分ってどんだけすごいの?」みたいな話になるじゃないですか。そこで、何言ってんだよ、たかが奥華子じゃん、ちっぽけなことじゃんって思うことで気持ちを戻していったんですよね、だんだんと。
──「たかが奥華子」って、すごいですね(笑)。
でもほんとそうだと思うんですよ。もちろん、ちっぽけなこととはいえ、そこに対してどれだけ真剣になれるかっていうのは大事なことなんですけど、たかがって思うことでできたアルバムかなって(笑)。
──そんな苦労の末に完成した作品自体に関しては、どんなふうに感じますか?
「泡沫」っていう曲は10年前に作った曲だし、「木漏れ日の中で」っていう曲もけっこう昔に作った曲なんです。なので最近作った曲から、昔の自分が作った曲を今の自分が歌った曲まで含まれてる作品なんですね。でも、やっぱり曲のテーマっていうのはずっと変わってないんだなってすごく思えたんです。そういう意味では、奥華子の芯の部分を出せてるアルバムになったのかなって、結果的には思いました。
──うん、それは僕もすごく感じました。さっき話していた、儚いものこそ大切にしたいというテーマは全曲に満ちているし、儚く消えやすいものを意味する「うたかた」というアルバムタイトルからしてまさに、ですもんね。
全曲を聴き終わったときに、すごく「うたかた」だなと思ったんです。「泡沫」という曲自体がそれを象徴していると思ったし、やっぱり全部がそういう発想からできているんですよね。全部がそこに辿りつくというか。なので、やっぱりこれが私の本質なんだと思います。
CD収録曲
- ガラスの花
- トランプ
- 初恋(Live ver.)
- 一番星(Live ver.)
- ガラスの花(Instrumental)
CD収録曲
- ガラスの花
- 初恋(Live ver.)
- 変わらないもの(Live ver.)
- ガラスの花(弾き語り ver.)
- ガラスの花(Instrumental)
DVD収録内容
- 「テイルズ オブ ファンタジア なりきりダンジョンX」トレーラームービー ほか
奥華子(おくはなこ)
赤いメガネがトレードマークの、キーボード弾き語りシンガーソングライター。2004年2月にスタートした駅前路上ライブで1年間に2万枚のCDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビュー。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用されスマッシュヒットとなる。2010年3月発売のシングル「初恋」は自身初のオリコンウィークリーチャート初登場10位を記録。CMソングも多く手がけており、その飾らない歌声は幅広い層からの支持を集めている。