ナタリー PowerPush - 奥華子
リアルな言葉が胸を打つ切なすぎる失恋ソング誕生
今年でメジャーデビュー5周年を迎える奥華子。リスナーに向けてまっすぐに思いを届けるアーティスト活動のかたわらでは、TEPCOひかりやガストなど数多くのCMソングの歌唱も手掛け、最近では自らもCMに出演。その親しみやすいキャラクターと、耳をとらえて離さない素敵な歌声の認知度はさらなる高まりを見せている。
そんな中、リリースされるニューシングル「初恋」は、終わった恋とはわかっているのに、友達でもいいから、特別じゃなくてもいいからそばにいたい──そんな思いをつづった切なすぎる楽曲。昨年のコンサートでの手応えをもとに、届けたいターゲットを明確にして作り上げられたというタイトル曲、そして奥華子の幅広い個性を実感できる充実のカップリング曲について語ってもらった。
取材・文/もりひでゆき
CMソングは15秒のインパクトを重視
──「お部屋探しMAST」のCM、よく拝見しております(笑)。
あはは、CM初出演なんですけど「私で大丈夫ですか?」っていう感じですよね(笑)。でも屋外で路上ライブをするっていう内容だったので「これは奥華子のCMなんじゃないか?」っていうくらいで。すごくうれしかったです。ほんとに人生最大の露出だと思います(笑)。
──これまでいろんなCMで歌声を披露してきていますけど、それはご自身のアーティスト活動とどんな関係にあるんでしょう?
やっぱりCMの曲っていうのは、15秒でいかにインパクトがあるものを作れるかが大事なので、自分の歌とは全然違うものとして受け止めていますね。自分の曲はものすごく悩むんですけど、CMソングはパッとファーストインプレッションでできたものが採用されることが多かったりするので。
──オリジナルの曲を聴いていて思うんですけど、奥さんの声ってすごく耳になじみやすいというか。しっかりと届いてくるんですよね。CMでもその魅力は存分に発揮されているような気がします。
声が特徴的だねっていうのは、よく言ってもらえますね。自分の声が響くところを探して作るっていうのはどっちも一緒なんですけど、CMソングの場合は、ちょっとうるさいぐらいっていうか、極端に高い音を意識的に使ったりすることはあります。
──15秒で視聴者の耳を引きつけないといけないわけですからね。
そうですね。そういう違いはありますけど、どっちもすごく楽しいし大事なものですね、私にとっては。自分が出るのはもう十分ですけど(笑)。
若い世代に届けるためにリアルな歌詞を意識した
──で、今年初めてのシングル「初恋」がリリースされるわけですが。この曲、切なすぎますよね、ホントに。
今回の曲は、失恋ソングを作ろう、若い世代の人にも届くものを作ろうっていうテーマがまずあったんですよ。で、とことん切ない曲にしよう、と。そういう意味では、自分が思ってたものがちゃんとできたなって思います。
──「若い世代に届くものを」っていうテーマを掲げたのはなぜなんですか?
去年、32カ所を回る全国ツアーをやらせてもらって、行ったことのない場所にたくさん行ったんですね。で、どんな人が来てくれるかなあと思っていたら、中高生中心の若い世代の方がほとんどだったんですよ。歌詞の検索サイトとか、ネット上の動画サイトで曲を知ってくれた人がほとんど。しかも、みんなが失恋の曲やバラードを「大好きです」って言ってくれていて。その影響は今回、すごく大きかったですね。
──実際にそういった若い世代を意識して、曲や歌詞の作り方に変化はありました?
私の個人的な感覚なんですけど、漠然と抽象的な言い方をすればするほど幅広く、年齢層の高い方にも聴きやすい感じになると思うんですよ。逆に、設定や表現を細かくしたり、例えば「友達」って言葉を使ってみたりとかすると、今まさに青春時代を過ごしていて、恋に夢中になっている若い世代の人にはリアルに伝わるのかなって思うんですよね。なので、今回はすごくリアルな歌詞っていうのを意識して作りました。
──曲に関しては、そんなにいつもと違いはなく?
そこは別に世代は意識しませんでしたね。私はいつも曲が先なんですけど、この曲は絶対にいいって自分で確信できたので。あと、メロディと歌詞のマッチングは私が一番大事にしている点でもあるので、そこはこの曲でもすごくこだわりました。
──切ない思いを吐き出すサビのメロディがものすごく胸に染みます。さらに、シンプルながらも、曲で描かれる感情と同調してドラマチックに展開していくアレンジがすごく良かったです。
今回、初めて佐藤友亮さんという方にアレンジをお願いしたんですけど、「やっと出会えた!」って思えるくらい、ホントに息が合って。「シンプルで王道の、奇をてらわない感じでお願いします」っていうことを口頭で伝えて、あとは現場で詰めていく感じで。それと今回のレコーディングはバンドで、「いっせーのせっ!」で録ったんですよ。いつもはだいたい弾き語りで録っているので、それもちょっと不思議な感覚で楽しかったです。
──ミディアムテンポのバラードを「いっせーのせっ!」で録るって、結構面白いですよね。
そうですね。弦はもちろん別で録ったんですけど、やっぱり人間の気持ちが入った感じを肌で感じられましたね。すごく感動しました。
──確かにタイプとしては、そういった人間味が大切な曲でもありますもんね。
ミュージシャンの人もみんな「すごくいい曲だね」って言ってくれて。そういう気持ちを込めてプレイしてくれてましたね。
奥華子(おくはなこ)
赤いメガネがトレードマークの、キーボード弾き語りシンガーソングライター。2004年2月にスタートした駅前路上ライブで1年間に2万枚のCDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビューする。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用され、心に染みる歌声が話題を呼ぶ。グランドピアノとキーボードでの弾き語りスタイルで3度の全国ツアーを実施。各地で大きな反響を呼んでいる。