ナタリー PowerPush - 奥華子
リアルな言葉が胸を打つ切なすぎる失恋ソング誕生
この曲では希望が見えすぎないほうがいいと思った
──リアルを意識して書かれたという歌詞は、ストーリーや情景が鮮明に浮かんでくるものになっています。別れを告げられたけど「もう見るだけでもかまわない」って思ってしまう気持ち。悲しすぎますねえ。
どんだけだっていう(笑)。最初は、とにかくひたすら別れるのはヤダみたいなことをずっと歌ってる感じだったんですよ。でも、それだとちょっとしつこいかなと思ったんで、途中で1回前向きな感じに変えてみたんです。「悲しいけどもう終わったことだから」みたいな。でも、そうしたら途端につまんなくなってしまって。あまりにも希望が見えちゃったというか。この曲ではやっぱり、そんなに希望が見えすぎないほうがいいのかなっていうところで、何回か練り直して今の形に落ち着いたんです。
──なるほど。はっきりと前を向いているかと言えばそうではないけど、でも今の状態はちゃんと納得してる印象ですよね、さじ加減としては。
そうなんです。ただ、過去にしがみついてるだけで終わるのも良くないと思ったんで。そういう意味では、自分の中でもう完結してる失恋ではあるんですよね。だって、ものすごく好きになった人とは絶対、友達になんて戻れないと思うんですよ。それもちゃんとわかってる、でも自分に言い聞かせたいというか。それが一番切ないなあって自分の中では思ったので。
歌うときに心がけているのは自分の感情を入れすぎないこと
──歌録りはいかがでしたか?
歌は毎回、何百回も録るんですよ。ノドがちぎれるんじゃないかっていうくらい。でも結局、最初に録ったのを使うことが多いんですけど(笑)。
──あはは(笑)。「もっといい表現があるんじゃないか」っていう気持ちでテイクを重ねる感じなんですかね?
ホントは1回で録れたらいいんですけど、なかなか録れないんですよね、私自身が。細かいことで言うと、マイクとの距離とか、その部屋の環境とか、機材のコードとか、そういうことでも変わってくる部分がすごくあるんで。
──感情面ではどんなところに気をつけて歌いました?
いつも心がけているのは、自分の感情を入れすぎないこと。具体的に言うと、あんまり歌い上げない。そのほうが聴いてる人には伝わるんだなっていうのがすごくあって。昔は歌い方も今とは結構違っていて、「自分が、自分が」みたいな感じだったんですけど、路上ライブを始めてからは意図的に変えていったんです。今でも意識しないとやっぱり戻っちゃったりもするので、そこは毎回、すごく意識して歌っています。
──この「初恋」のような曲は、入り込めば入り込むほど感情が自然と高まってしまいそうですが。
そうですね。1番よりも3番のほうが、感情はワーッとなってますね。ただ、やっぱり行きすぎないようにっていうんですかね、そういうところは全体として意識はしました。歌詞が結構ねっとりしてるので、そこで歌い方もねっとりしていると、聴いてる人が「もういいです」ってなっちゃう気がしたんで。
奥華子(おくはなこ)
赤いメガネがトレードマークの、キーボード弾き語りシンガーソングライター。2004年2月にスタートした駅前路上ライブで1年間に2万枚のCDを手売りするなどの驚異的な集客力が話題となり、2005年7月にシングル「やさしい花」でメジャーデビューする。2006年には劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌に「ガーネット」、挿入歌に「変わらないもの」が起用され、心に染みる歌声が話題を呼ぶ。グランドピアノとキーボードでの弾き語りスタイルで3度の全国ツアーを実施。各地で大きな反響を呼んでいる。