ナタリー PowerPush - 大橋トリオ
“グリーンアコースティック”を奏でる好評カバーシリーズ第2弾
ピアノでアレンジしたかった「If Ain't Got You」
──最後はアリシア・キーズの「If Ain't Got You」。ジャンルやスタンスはまったく違いますが、アリシアも大橋さんもピアノプレイヤーという共通点がありますよね。
彼女はピアノを弾いてるというより、マイクに向かって歌を歌うボーカリストっていうイメージなんですよね、僕の中で。ダニー・ハザウェイといったらエレピ、ってすぐ思い浮かぶけど、アリシアはそうじゃない。そもそもブラックミュージックの人って、歌の印象が強過ぎて楽器のイメージが薄くなるのかもしれない。
──ああ、なるほど。
でもこの曲はピアノでアレンジしたいと思ってましたね。まんまになっちゃうよなって思いつつ、でもピアノでやりたいなって。弾き方も変えてますけど、大きく言えば、跳ねてるリズムをやめたんです。それぐらいですけどね。いかにちょっとだけ違えるかっていう(笑)。
──聴いた印象はかなり違いますけどね。大橋さんの声が持つ揺るぎない世界観、という部分によるところも大きいと思いますが。
そうなんですか? 自分の歌声については自分ではわからないんですけどね。
セミがうるさいから夏はレコーディングできない
──そういえば今回、すべての楽曲を自宅のスタジオで録音されたそうですが。
自宅スタジオっていうか、自宅の中の広い部屋って感じですね。スタジオというと、ちゃんと防音してあるって感じだけど、周りにほとんど誰も住んでない郊外の家なので、近所に音が漏れても平気っていう。Pro Toolsを置いて、マイクも何本か立てて、ちゃんと機材通してやってはいますけどね。まぁ、予算的にもエコなハンドメイド作品というか。テーマも“グリーン・アコースティック”ですから。
──昨年末にリリースされたオリジナル・アルバム「NEWOLD」は、大橋トリオ流のエレクトロにも取り組んだ作品でしたよね。となると「FAKE BOOK II」のテーマはその逆、ということになりますよね。
そうですね。
──では、エレクトロを追求するというテーマは「NEWOLD」で一旦終了って感じですか?
とりあえずは。何をテーマにするにしても、そのときそのときでちゃんと今やるべきことを考えて作るべきだと思うんですよ。だから次はもしかしたら全部エレクトロニックになるかもしれないし。絶対ならないですけど(笑)。そういういい方向に持っていく可能性が見えれば、そういうものを作るべきだと思うし。
──つまり、今後もずっとハンドメイドなスタイルで音楽を作り続ける、というわけではないんですね。
実際、今後自宅で作ることは次のタイミングではムリなんですよ。というのも、次にレコーディングするときはタイミング的に夏なんで、24時間セミがうるさいから絶対ムリなんです(笑)。よっぽど防音とかしないと。
──そんな理由で(笑)。「FAKE BOOK」「FAKE BOOK II」とくれば、自ずと「FAKE BOOK III」もあるかな、という期待をしてしまいますが。
とりあえず、じっくり考えて作りたいですよね。企画盤を作るなら、カバーのほかにも、ジャズアルバムとか、ピアノ弾き語りとか、いろいろやってみたいこともあるし。ただ、タイミングはあるでしょうね。今ジャズをやっても、メジャーシーンでは難しいだろうなって。例えば超売れっ子シンガーがジャズアルバムを出しても、普通のファンは買わないですよね? 内容がすごく良かったとしても、“ジャズ”というイメージで苦手だなっていう感じで。だとしたら、大橋トリオだとかなりハードルが高いだろうなって(笑)。
──でもいつか実現するといいですよね。やっぱり聴きたいですからね、大橋トリオのストレートなジャズアルバムも。
まぁ、そのためにも、いいアイデアを考えないとなぁと、日々ボーっとしながら、考えてるフリをしてます(笑)。
CD収録曲
- ANGEL(AEROSMITH)
- Kiss Of Life(SADE)
- CALFORNIA DREAMIN'(THE MAMAS & THE PAPAS)
- You Gotta Be(デズリー)
- Heartbeat(TAHITI 80)
- MY CHERIE AMOUR(スティーヴィー・ワンダー)
- The Man Who Sold The World(デヴィッド・ボウイ)
- If I Ain't Got You(アリシア・キーズ)
大橋トリオ(おおはしとりお)
マルチプレイヤー大橋好規によるソロプロジェクト。 音楽大学を卒業後、2003年に映画「この世の外へ クラブ進駐軍」にピアノ演奏とビッグバンドアレンジで参加。その後も映画やCMの音楽制作や楽曲提供、サポート演奏などで幅広く活躍する。2007年に大橋トリオ名義のアルバム「PRETAPOTER」、2008年に「THIS IS MUSIC」をリリース。「THIS IS MUSIC」は第1回CDショップ大賞で準大賞に選出され、大きな話題を呼んだ。2009年5月にミニアルバム「A BIRD」でメジャーデビュー。2010年3月には初のカバーアルバム「FAKE BOOK」で幅広いジャンルの名曲に挑戦した。同年夏には「GREENROOM FESTIVAL 10」「WORLDHAPINESS 2010」などの野外フェスにも出演し、多くのファンを獲得。2011年3月、カバーアルバム第2弾となる「FAKE BOOK II」をリリースする。