音楽ナタリー PowerPush - ナオト・インティライミ

「Viva The World !」から見える正体

ナオト・インティライミがニューアルバム「Viva The World !」を10月1日にリリースする。この作品は彼にとって約1年5カ月ぶり、5枚目のアルバム。

ナタリーではこの新作の発売を記念して、ナオトの連続特集を企画。「Viva The World !」の全曲解説などを通して、彼の音楽の魅力や、音楽家としての彼の“正体”を解き明かしていく。

取材・文 / 成松哲

ニューアルバム「Viva The World !」2014年10月1日発売 / UNIVERSAL SIGMA 全曲解説
初回限定盤 [CD+DVD] / 4104円 / UMCK-9695
通常盤 [CD] / 3240円 / UMCK-1491

CD収録曲

初回限定盤DVD収録内容

MUSIC VIDEO
  • The World is ours !
  • 手紙
  • LIFE
ナオト・インティライミ LIVE キャラバン 2013@ARENA Nice catch the moment ! 2013/10/31 @横浜アリーナ
  • Catch the moment
  • I FEEL IT GOOD
  • ナイテタッテ

2013年5月、前作アルバム「Nice catch the moment !」リリース時、ナオト・インティライミはこんなことを語っている(参照:ナオト・インティライミ「Nice catch the moment !」インタビュー)。

「ブラックアーバンやEDM的な音楽が一番好きだし、一番よく聴いているから、どうしてもそういうサウンドでコーティングしたくなっちゃうんですよね」

またその一方で「ただ、自分の好きな音楽っていうのはもちろんそれだけじゃないから、アルバムには(中略)『ほのぼの』『ぬくもり』『太陽』みたいなノリのあったかい曲もある」とも語り、その「両方とも今の自分にとって必要なものではあるんですよ」としていた。

今回リリースされる「Viva The World !」は、「Nice catch the moment !」の正統的な次回作と呼ぶべき1枚だ。ナオトは本作で、大久保薫、久保田真悟、soundbreakers、SHIKATAら盟友とともにここ数年自身が志向するブラックアーバン路線、EDM路線、そして「ほのぼの」「ぬくもり」「太陽」的路線、いわゆるJ-POP的路線をさらに深化させた。

トレンド全開のダンスチューンと、メロウなJ-POP。ともすれば背反しそうな2つのエレメントがスムーズに混ざり合うのが本作「Viva The World !」、そしてナオト・インティライミの最大の特徴だろう。「世界標準をもにらんだJ-POP」。ややもすると手垢の付いた言葉に聞こえかねないキャッチコピーではあるが、世界を旅する“放浪者”的横顔と、お茶の間でもおなじみの、自身曰く「調子のいい兄ちゃん」的横顔を無理なく内在させる彼だからこそ到達できた境地が、このアルバムには間違いなく刻まれている。

1. Just let it go

作詞:ナオト・インティライミ、Komei Kobayashi / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:ナオト・インティライミ、大久保薫

オープニングを飾るのは、大久保薫アレンジによる表情豊かなダンスチューン。ぶ厚いストリングスによるイントロが始まったかと思いきや、太いシンベとクールなエレピが絡み合うAORのようなAメロ、Bメロを聴かせ、ワイルドなリードシンセが鳴り響くサビへとリレー。自身の内に眠る音楽的嗜好や衝動を解き放ったかのような展開を見せる。そしてそのメロディに乗るのは「どこに向かってるの?」「連れてくよ Brand new land」といった歌詞。まさに「Viva The World !」。世界を祝福する言葉の数々だ。

2. FUNTIME

作詞:ナオト・インティライミ、Komei Kobayashi / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:SHIKATA、REO

2曲目でナオトは「Just let it go」で見せたエレクトリックなダンスミュージック路線をさらに深化させていく。EDMやトランスを思わせるハードなリズムトラックとシリアスなシンセパッドの和声が印象的なオケを背に、エフェクトを効かせまくった声で巧みなフロウを聴かせるヒップホップチューンを作り上げた。それでいて間奏には自身のルーツを思わせるアコースティックギターのファンキーなカッティングとスキャットをインサート。従来型のエレクトロヒップホップの単なる焼き直しではない、“らしさ”満載のナンバーだ。

4. アレコレ

作詞・作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:soundbreakers

28カ国を巡り各地の音楽と文化を体感したというナオトにとって、“world”とともに、その世界で暮らす“キミ”や“アナタ”が創作上の大きなモチーフの1つになっていることは間違いないだろう。「アレコレ」はドラム、ベース、ギター、ピアノ、ストリングスというシンプルな編成。温かなアレンジの中、冒頭から「一人では解けない謎も 二人なら解き明かせるかも いつもそばにいたいなと ふと君に会いたくなる」と切り出し、「あれこれ考えていたら Ah-キミに会いたくなる」で締めくくる、あけすけなメッセージを届けている。

5. Everlasting Love

作詞:ナオト・インティライミ、川村結花 / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:JiN、Futoshi Kamashima

ナオトのボーカリストとしての魅力を味わえるバラード。ピアノをバックに訥々と、「アナタ」と出会えなければ「この世界が こんなにも眩しいことも 生まれてきたホントの理由さえも きっと知らないまま」だっただろうと歌い出し、かと思えばサビでは何声ものコーラスを重ねつつ、「アナタ」に出会えたことを最上級の言葉を駆使して喜んでみせる。しかもメロディの導入部Aメロとクライマックスであるサビを橋渡しする、Bメロはカット。運命の1人に巡り会えたことをよりシンプルでダイレクトなアレンジと言葉で祝う。

3. The World is ours !

作詞・作曲:ナオト・インティライミ、Antonia Armato and Tim James / 編曲:久保田真悟(Jazzin' Park)、ナオト・インティライミ

この楽曲は6月に実施された「コカ・コーラ FIFA ワールドカップ トロフィーツアー」のテーマ曲。この曲でナオトはトライバルなパーカッション隊とともに、「The World is ours !」=“世界は我らのもの”というメッセージを叩きつける。また自身が「サッカー系ミュージシャンを自負している身としては、選手としてアガるもの。サポーターとしてアガるもの。そういうものをイメージして全力で歌って制作」したと語っている通り、確かにメロディはスムーズ。リズムに煽られて思わず口ずさみたくなる1曲となっている。

6. LIFE

作詞:ナオト・インティライミ、磯貝サイモン / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:久保田真悟(Jazzin' Park)、ナオト・インティライミ

アルバム中盤戦のスタートを切るのは、ブラックミュージックを志向する“音楽ファン”ナオトと、“J-POPアーティスト”ナオトをフューズした、まさに“ナオト・インティライミ”的な「LIFE」。ファンキーなクリーントーンのギターカッティングと四つ打ちのビートで聴き手を踊らせながら、J-POPリスナーにとっても耳になじみのいいフレンドリーなメロディに乗せて「予想もつかない未来を書き足すのさ」「もう最強さ もし世界が灰になっても キミのためなら 生きていける」とたった一度きりの“LIFE”への讃歌を歌い上げる。

7. メガロポリス・ラプソディー

作詞:ナオト・インティライミ、常田真太郎 / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:久保田真悟(Jazzin' Park)

旧友、常田真太郎(スキマスイッチ)と作り上げた歌詞は、デジタルな巨大都市=メガロポリスに飲み込まれそうになりながらも「機械のVoiceでShake tonight」と聴く者を煽る。Sly & The Family Stoneの有名なあの一節を引用する大胆さも面白い。一方、久保田真悟(Jazzin' Park)と手がけたトラックはブライトなブラスを聴かせる正調ファンク。音楽ジャンルとしての“ブラックアーバン”と、字義通りの “アーバン”=都会。いずれの意味もはらんだ遊び心あふれる1曲だ。

8. 線香花火

作詞:ナオト・インティライミ、磯貝サイモン / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:EIGO、ナオト・インティライミ

ブラックミュージック好きであると同時に、J-POPアーティストであることに対しても並々ならぬ自負を抱いているナオト。そんな彼の横顔が伺えるのが、この楽曲だ。“線香花火”というキーワードから見通せる日本の夏の風景を、ヒップホップの手つきも感じさせるメロウなメロディラインやアレンジに乗せてジェントルに日本語のみで描き出す。「FUNTIME」「メガロポリス・ラプソディー」など、きらびやかでファンクネスあふれるナンバーがそうである以上に、実は最も“ナオト・インティライミらしい”楽曲はこの曲なのかもしれない。

9. 花びら

作詞:ナオト・インティライミ、SHIKATA / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:SHIKATA、REO

「線香花火」で見せたブラックミュージック的手法とJ-POP的手法をよりスムーズにマリアージュさせたこの楽曲。ブレイクビーツのループを思わせる、ダーティなエフェクトを施したドラムパターンに、16ビートのギターストローク、ただひたすらにいいメロディを歌うボーカルと、それを追いかけるようにオブリガードを弾きまくるピアノという編成で、おそらく悲しい別れをしたであろう「あなた」を「無理していませんか?」と気遣い、「花びらみたいな 愛に囲まれて」暮らしていることを願う、泣き笑いのラブソングがつづられている。

10. Ole!

作詞:ナオト・インティライミ、佐伯ユウスケ / 作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:大久保薫、ミトカツユキ、ナオト・インティライミ

“エレクトリックファンク”という言葉を直訳したかのようなダンスチューン。そのトラックではともすればチープにも聞こえかねないシンセブラスを大きくフィーチャーし、歌詞も天気予報にさえダマされる「ボク」が「君にとっての 1番」になるべく、ときに権謀術数を巡らせながら奮闘する姿を描くコミカルなものとなっている。さりとて安っぽくは響かないのが、ナオト&大久保コンビの妙。どこまでも陽性なビートには否応なく踊らされ、「必死んなって胸ん中をぶちまけろ!」と叫ぶ彼には、思わず「Ole!」とレスポンスを返したくなる。

11. 手紙

作詞・作曲:ナオト・インティライミ / 編曲:田中義人、ナオト・インティライミ

ラストナンバーはシングル曲「手紙」。ピアノとアコギで愛する「君」との別れを歌うメロウな1曲だけに「調子のいい兄ちゃんによるちょっと切ないラブソング」ととられかねないが、やはり一筋縄ではいかないのがナオト流。自らアレンジも手がけたこの楽曲のAメロ、Bメロには汚しを入れたブレイクビーツを投入し、Dメロではそれまでのメロウな展開から一転、スピーディなフロウを聴かせている。また別れを歌いながらも、「これは未練なんかじゃなくて まぎれもなく 揺るぎない 僕の『誇り』」と言い切るあたりも、いかにも“らしい”。


2014年10月17日更新