ナタリー PowerPush - マキタスポーツ

いとうせいこうゲストに「作詞作曲ものまね」

マキタスポーツが8月21日にメジャーデビューアルバム「推定無罪」をリリースした。これは、新曲、新ネタ、過去の代表作を含む2枚組で、初心者からマニアまで彼の魅力を余すことなく味わえる作品だ。

アルバムの発売を記念して、ナタリーTVではマキタスポーツによる夏期集中講座「マキタ学究 J-POPの軌跡」を全3回にわたって配信。Bose(スチャダラパー)、真矢(LUNA SEA)、いとうせいこう(□□□)をゲストに迎え、マキタはどのような講義を展開したのか。この特集ページでは、ナタリーTVのアーカイブ映像を期間限定公開するとともに、レポートとインタビューを掲載する。

取材・文 / 遠藤敏文 撮影 / 福本和洋

マキタ学究 J-POPの軌跡 #3 作詞作曲ものまね講座
~オリジナリティとは何か?~
ゲスト:いとうせいこう

左から、ウチノファンタジー、マキタスポーツ、いとうせいこう。

収録レポート

「作詞作曲ものまね」をテーマにした第3回は、日本語ラップの先駆者でもあるいとうせいこうをゲストに迎えての公開講座となった。

左から、ウチノファンタジー、マキタスポーツ、いとうせいこう。

オープニングでは、ついにアルバム「推定無罪」の見本盤ができあがったことを集まった観客に報告したマキタスポーツ。大きな拍手が送られると、ジャケットを見せながら「これ、広島刑務所から逃げた李国林が描かれてるんですけど」と笑わせた。いとうを呼び込んで挨拶を交わし、さっそく本題へ。今回の講座では、オリジナルとパクリの境目はどこにあるのかを探っていきたいと意気込むマキタに対して、いとうはさっそく持論を展開。「パクリだって言うんだったら、普通の楽曲を作ってる奴らのほうがたいていパクリだよね。なんとなくこの言葉を置けばウケるとか、このメロディラインにすればウケるとか考えてオリジナルみたいな顔でやってるけどさ。でも、その人がやりがちな手法を持ってくるっていうのはパクリじゃなくて批評だから」と熱く語ると、思わずマキタも「そう、そう!」と大きく頷いていた。

左から、マキタスポーツ、いとうせいこう。

講座の中でマキタは、「作詞作曲ものまねは、5つの分析要素から成り立っている」と解説。「のど癖」「歌詞の世界観」「メロディの導線」「コード進行」「大掴みな印象と妄想を含んだキャラ付け」という5つのアプローチで対象を真似すれば、誰もが曲を作ったり表現することができると説明した。そして、作詞作曲ものまねを行うためには、5つ目の要素「大掴みな印象と妄想を含んだキャラ付け」が大切だと教え、aikoやスピッツの作詞作曲ものまねを自身が率いるバンド・マキタ学級とともに実演してみせた。横で聴いていたいとうは「俺も演奏に参加しちゃった。□□□の中で担当楽器フリスクって言われてるから」と、フリスクをシェイカー代わりにしたことを明かして笑わせつつ、「マキタは歌のよさがあるから、受け取り方によって笑ったりもできるし、いい歌だなって普通に聴くこともできる」と感想を語る。

左から、ウチノファンタジー、マキタスポーツ、いとうせいこう。

作詞作曲ものまねについての解説を終えると、「日本のポップスは全部ノベルティソングだと思っている。どうしてもパロディの要素が入ってきてしまう」と語り始めたマキタ。いとうに対して、「世の中がヒップホップというものを知らない中、どのように取り入れて広めてきたのか」と質問すると、いとうは「新しいジャンルの音楽を日本語でやるとき、ロックンロールもそうだったけど、最初に必ずパロディにする人がいた」と語る。「エノケン(榎本健一)もそうですよ。日本に新しい音楽が入ってきたときに、やっぱりちょっと面白くして受け入れてもらうしかなかったんです」と続け、自身がヒップホップを日本語で表現する際にも、広く伝えるために笑いの要素を取り入れたという経験を語った。

マキタスポーツ

その後、メドレー形式でMr.Children、森山直太朗、尾崎豊、福山雅治、加山雄三の作詞作曲ものまねを披露して客席を大きく沸かせたマキタ。改めて8月21日発売のアルバム「推定無罪」をPRし、講座を締めくくった。なおアルバムには、この日披露した森山直太朗の作詞作曲ものまね「みそ汁(独唱)」と福山雅治の作詞作曲ものまね「袋とじ」も収録される。

収録を終えて

──せいこうさん、今日はいかがでしたか?

左から、いとうせいこう、マキタスポーツ。

いとう まだとば口じゃないの? パクリかオリジナルか問題は、ここからみっちり論理付けていかなければいけない問題ですよ。

マキタ はい。僕なりに半ばライフワークみたいな形で考えているんですけどね。なぜ日本のポップスはノベルティソングになってしまうのかと。

いとう 僕も、あんまり人に聞かれてこなかったんだけど、エノケンがオペレッタを日本語で歌うときに面白くせざるを得なかったとか、今日はそういう話ができてよかったなと。もちろん全部は話せていないけど。結局、いくらネットが普及して海外から新しい音楽が入ってくるようになっても、日本語にしたときにどうしてもノベルティ性が出てくるんじゃないかと思っていて。でも、今はもうそういうことに気付けないかもね。気付く批評性が失われちゃったというか。だからマキタくんがやるしかないんじゃないの? 俺はもう新しい音楽をやるわけじゃないから。新しい音楽を日本語でやるときに必ず葛藤があって、「ほら、こうなるでしょ?」っていうところを見せるっていう。「だからこそ日本語っていうのは面白い力を持ってるんじゃないの?」っていうことの証明にもなるだろうし。今日はいろいろ考えました。

左から、いとうせいこう、マキタスポーツ。

マキタ ただ、せいこうさんがヒップホップを日本語でやり始めたときは、よき紹介者でありながら自ら実演するスタイルだったと思うんですけど、今は時代が変わっちゃったから。

いとう そうなんだよ。当時は輸入盤屋に行かないと買えなかったけど、今はネットで直だもん。

マキタ 完全に他者と接した感じというか、もっと言うと宇宙人扱いされるような経験ってなかなかできないんですよね。だから、笑いというテクニックを使わざるを得なかったせいこうさんの経験談はすごく貴重だし、面白かったです。

いとう 使わないと、こっちが笑われちゃうから。カッコよくやってるつもりだからさ。

──せいこうさんが今後のマキタさんに期待したいことは?

左から、いとうせいこう、マキタスポーツ。

いとう やっぱディナーショーでしょうね。ディナーショーがやれるブラックな人がいないとダメなんだって。どこなら安全にすごいこと言えるかって考えると、意外に会員制のディナーショーみたいなものなのかもしれないよ。

マキタ どういうメディアでやっていくかっていうのはすごく考えるんですけど、まさかディナーショーと言われるとは思わなかった(笑)。

いとう 最後の曲みたいなのいいじゃん。いい気分にもなるし、おかしいし(笑)。高度な音楽をやればやるほどギャグが効くから、ディナーショーいいと思うな。あと、ブルーノート東京でマキタを観たい!

マキタ ブルーノートいいですね(笑)。やりたいなあ。

マキタ学究 J-POPの軌跡 #3 作詞作曲ものまね講座
~オリジナリティとは何か?~
ゲスト:いとうせいこう(※2013年11月30日まで限定公開)

マキタ学究 J-POPの軌跡
#1 ヒット曲の法則 ゲスト:Bose(スチャダラパー)
#2 ヴィジュアル系のビジネスモデル ゲスト:真矢(LUNA SEA)
#3 作詞作曲ものまね講座 ゲスト:いとうせいこう
マキタスポーツ アルバム「推定無罪」完成インタビュー
ニューアルバム「推定無罪」 / 2013年8月21日発売 / [CD2枚組] 2500円 / ビクターエンタテインメント / VICL-64053~4
ニューアルバム「推定無罪」
DISC1
  1. マキタスポーツのテーマ
  2. 芸人は人間じゃない
  3. お母さん
  4. SOUND LOGO 1
  5. SOUND LOGO 2
  6. コーヒー★ギュウニュー【作詞作曲ものまね】
  7. サンボマスターはお湯に語りかける~美しき日本の銭湯~【作詞作曲ものまね】
  8. SKIT サンプリングおじさん(「ラッパー」編)
  9. 俺はわるくない(BAND ver.)
  10. SKIT サンプリングおじさん(「青春歌謡」編)
  11. はたらくおじさん
  12. Oh!ジーザス
  13. SKIT スパッツ
  14. SOUND LOGO 3
  15. みそ汁(独唱)【作詞作曲ものまね】
  16. 袋とじ【作詞作曲ものまね】
  17. SKIT サンプリングおじさん(「韓流」編)
  18. オーシャンブルーの風のコバルトブルー~何も感じない歌~
  19. SKIT サンプリングおじさん(「NEWS」編)
  20. 1995 J-POP
  21. オレの歌
  22. SOUND LOGO 4
  23. 歌うまい歌
  24. SKIT サンプリングおじさん(「頑張ったって…」編)
  25. 浅草キッド(アンコール)
DISC2
  1. 十年目のプロポーズ
  2. SKIT
  3. 十年目のプロポーズ(Feat.スチャダラパー ver.)
  4. 十年目のプロポーズ(カラオケ)

マキタスポーツ / 真矢(LUNE SEA)

左 / マキタスポーツ

1970年1月25日生まれ、山梨県出身。1998年にピン芸人としてデビュー。2012年に本名の槙田雄司名義で書籍「一億総ツッコミ時代」を発売したほか、映画「苦役列車」では俳優として第55回ブルーリボン賞新人賞を受賞した。

右 / いとうせいこう

1961年3月19日生まれ、東京都出身。早稲田大学在学中からピン芸人としての活動を始動し、出版社の編集を経て、音楽や舞台、テレビなどの分野でも活躍。1988年に小説「ノーライフキング」でデビュー。その後も小説、ルポルタージュ、エッセイなど、執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなす。2009年7月、□□□に正式メンバーとして加入した。総合プロデュースの「第6回したまちコメディ映画祭in台東」が2013年9月13日より開催。