マキタスポーツ アルバム「推定無罪」完成インタビュー
オリジナルとパロディの線引きはどこにあるのか?
──アルバム完成おめでとうございます。ものすごい集大成ができあがりましたね。
「これでマキタスポーツのすべてがわかる」みたいな感じで言ってますけど、逆にわかりづらくなってるかもしれない(笑)。評価は真っ二つという形になればいいなと思ってます。僕はやっぱりオーバーグラウンドに出て間もないので、今まで出会ってこなかった人たちがいると思うんです。こうやってメジャーからアルバムを出すことで、そういう人たちにも触れてもらえる機会ができると思うので、反応が楽しみですね。
──これまでの音楽活動の中から、アルバムに絞り込んだ楽曲の基準は?
ビクターさんと一緒に選曲したんですけど、普段ライブとかでやっている雰囲気をなるべくそのまま見せるっていうことを一番の基準にしました。「作詞作曲ものまね」っていうお笑い芸人としてのネタに寄せたものと、オリジナルで歌っているシリアスなメッセージ性のある曲が両方混在してる形になってます。
──これを全部ひっくるめて「推定無罪」というタイトルにしたのは、どういう意図ですか?
やっぱりポップスとかって、似通ってきちゃうんですよ。世の中の大半の人が受け入れられるようなものは、あんまり外れたものにならないというか。ある程度文化的な訓練とかを積んだ人じゃないと感じることができないものっていうことではないんですよね。だから、「推定無罪」っていうのは、「ポピュラーミュージックとは一体なんぞや?」とか、あるいはもっと言うと、「オリジナルとパロディの線引きはどこにあるのか?」みたいな問題提起が裏テーマとしてあって。僕の興味関心というのは、その境界線を1回取っ払って見せるっていうところにあるので、アルバムのタイトルもこうなりました。
──マキタさんはミュージシャンとしての顔以外にも、コラムニストとしてたくさん連載を抱えていますし、本名名義で書かれた書籍「一億総ツッコミ時代」もヒットしています。俳優として「苦役列車」でブルーリボン賞を獲られたり、テレビでは「モノマネ芸人」というくくり方をされることもあって、そのあたり、ご自身の肩書きをどう説明しているんでしょうか?
それは僕もやっぱり悩みどころで(笑)。高城剛くらい面の皮が厚かったら「ハイパーメディアクリエイター」とかわけのわかんない肩書きで煙に巻いていたんでしょうけど、そういうことが照れくさくてできないので。だから、あえてほかの人に委ねるようにしてるんです。今回のアルバムに関しても、選曲を僕の思いだけで決めてしまうと、世の中の人とズレが生じるだろうし、やっぱり今までやってきたことと同じだなって思っちゃうんですね。ある程度顔が見える人たちに向けてやるっていうことに、なんかもう僕はちょっと飽きちゃったというか。いや、本当は嫌ですよ。テレビに出て「モノマネ芸人」とかって紹介されるの。だけど、それで誤解が生まれることも仕方がないし、ミスリードされるのを恐れるよりも、出会うことのほうを優先しようって。
広がっていくことに意味がある
──マキタさんの単独ライブでお客さんの反応を見ると、すでにものの見方が養われている方が多いというか、笑いどころをよくわかっている人たちが集まっていますよね。アルバムで展開していることも、批評の切り口やパフォーマンスの高度さを考えると、ある程度文化的な素養がない人にはちょっと敷居が高いんじゃないかと。
確かに、アルバムという単位で聴く人にはそれなりに見方を問うものになっているとは思います。でも、今は1曲単位で好みの音楽を買えるじゃないですか。ほかの活動をまったく知らなくて、「十年目のプロポーズ」だけを聴いて気に入ってくれる人もいるかもしれない。勘違いしたまま聴いてもらっても構わないというか、むしろそうやって広がっていくことに意味があると思っていて。アーティスト側とアイドル側ってあえて分けるとすると、今はアイドル側のほうがなんか面白いじゃないですか。1つのプロダクトとしてやってることがより過激だし。音楽的にむちゃくちゃな感じのこととかもけっこう平気でやってたりする。あれはやっぱり観客本位だからだと思うんです。アーティスト本位にさせてないことによって、お客さんの気持ちとかお客さんの欲望に沿ってカスタマイズをした結果ああいうことになってるんで。僕からしてみたら、ORANGE RANGEが初期にやってたこととか、今ゴールデンボンバーがやってることとあんまり変わらないと思ってるんです。
──なるほど。金爆とかORANGE RANGEの名前が挙がって、今すごく腑に落ちました(笑)。
もうすごくシンパシー覚えるんですよね、彼らのこと。もっと言うと、佐野元春さんも僕から言わせたら、作詞作曲ものまねの典型的な人だと思うんですよ。ある層からは、「ものすごくマネしてた人だ」とかって言われてますけど。まあ確かにちょっと野放図にやりすぎたところもあったと思いますが(笑)。それは時代がそうさせていたところもあって、彼はものすごくジャーナリスティックっていうか、編集マンなんです。桑田佳祐さんとか絶対そうですし。でもそれをちゃんと煎じ詰めて、本人でしかない歌にしてるじゃないですか。僕のアルバムも、カスタムの仕方とか、いかにして自分のオリジナルなものに変えていくかっていうことに関しての虎の巻になってるんじゃないかなと。僕はそういうところの構造に関して、すごく性格的に気にしたり、またそういうものにヨダレが出ちゃう体質なんですよね。
──マキタさんの理系の部分とハートの熱い部分のブレンド具合が絶妙だと思いました。
そうですね。それをうまく混ぜ合わせるっていうか、そういう才能を磨いてきた結果がこのアルバムなんだと思います。
DISC1
- マキタスポーツのテーマ
- 芸人は人間じゃない
- お母さん
- SOUND LOGO 1
- SOUND LOGO 2
- コーヒー★ギュウニュー【作詞作曲ものまね】
- サンボマスターはお湯に語りかける~美しき日本の銭湯~【作詞作曲ものまね】
- SKIT サンプリングおじさん(「ラッパー」編)
- 俺はわるくない(BAND ver.)
- SKIT サンプリングおじさん(「青春歌謡」編)
- はたらくおじさん
- Oh!ジーザス
- SKIT スパッツ
- SOUND LOGO 3
- みそ汁(独唱)【作詞作曲ものまね】
- 袋とじ【作詞作曲ものまね】
- SKIT サンプリングおじさん(「韓流」編)
- オーシャンブルーの風のコバルトブルー~何も感じない歌~
- SKIT サンプリングおじさん(「NEWS」編)
- 1995 J-POP
- オレの歌
- SOUND LOGO 4
- 歌うまい歌
- SKIT サンプリングおじさん(「頑張ったって…」編)
- 浅草キッド(アンコール)
DISC2
- 十年目のプロポーズ
- SKIT
- 十年目のプロポーズ(Feat.スチャダラパー ver.)
- 十年目のプロポーズ(カラオケ)
マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ、山梨県出身。1998年にピン芸人としてデビュー。2012年に本名の槙田雄司名義で書籍「一億総ツッコミ時代」を発売したほか、映画「苦役列車」では俳優として第55回ブルーリボン賞新人賞を受賞した。