腹がくくれたのかもしれない
──「お母さん」を作った13年前と今とで一番大きく変わった部分ってどこにあると思いますか?
今回のアルバムに入っている一番新しい曲は「1995 J-POP」っていう曲で、シリアスなメッセージ性のある曲なんです。当時からシリアスな曲も作っていたんですけど、やっぱり照れもあって。自分の中で咀嚼しきれていなかったというか、笑いの要素と切り離して考えがちだったんです。現場の肌感覚で、シリアスな曲とかをいきなりやるとお客さんが引くんですよね。そしたらやっぱりそれに耐えられなくて。で、どういう選択をとったかって言うと、だんだんライブの中でネタをやらなくなってきたんですよ。その代わりに、ミュージシャンやバンドマンとしての自我が芽生えてきて、それにすり替えていくようになっていって。たぶん自分のある種の個性を削っていっちゃったんでしょうね。今は何を言われようがいいかなっていう感じっていうか。いい意味ですれたのかもしれないし、お客さんが困惑しても別にまあ仕方ない。今は「これが僕です」っていうことを言い切れる度胸がついたというか、腹がくくれたのかもしれないです。
──アルバムでは確かにシリアスな面もそのままストレートに出してますもんね。
二重人格的って言ったらそれまでなのかもしれないですけど。僕は「鳥の目」と「虫の目」って言ってるんですけど、当事者意識があんまりないものに関してはわりと鳥の目でいられるんですよ。でも、僕自身はもともとすごく虫の目の人間だと思うんですよね。タンスの角に小指をぶつけたりとか、「あのさあ」って夢中になって話してるときに広げた手をぶつけるみたいなこととかってよくあるんです。それっていうのは、すごく夢中感が強い人間だと思うんですよ。で、生きていく中で鳥の目と虫の目のどっちのほうが自分にとって快いのとかっていうことを考えたときに、やっぱり虫の目のボケ的な領域に行ったほうがナチュラルなんじゃないかなと思ったんです。僕いつも言うんですけど、人に迷惑かけなかったら自分のご機嫌さを追求してもいいでしょって。そうするためのコツは、人と比べないこと。よくね、「お前ラーメン二郎好きって言ってるけど、まだそんなレベルなの?」みたいなことを言う人がいるじゃないですか。そういうのに惑わされないことですよ。自分の興味関心とかっていうものは、人と比べずに自分の速度感でやればいいことだし。ただ単に批判とかっていうことをする気構えだけだと何も見つからないよとは思うんです。
──書籍の「一億総ツッコミ時代」でもそういった思いをつづられていて、大きな反響がありましたね。
あれは別に僕がやらなくても誰かがやった仕事だと思うんですけどね。ただ、僕が芸人だからっていうこともあると思うんですけど、人が額面通り言ってる言葉のニュアンスの裏側にあるものとかをわりと感知するのが得意というか、そうしてしまう人間なので。で、まあ僕が言ってるのは、「ツッコミのほうが楽だよね」っていうことなんですけど。表現に対する欲求があるくせに、ごまかしてやりすごし、ツッコミ散らかして逃げていく人たちっていうのが世の中の大半だとあえてざっくり定義して。だけどその中でも、なんとかしたいなって思ってる人にとって有益なきっかけになればいいなということで。
ばらまいて燃え尽きたい
──アルバムの曲順や構成は相当練られたと思います。通して聴いてみると、1つのエンタテインメントショーを観た気になるというか。
曲順は練りましたね。すごく気にしたのは、1つのバンドがやっているように見せること。音色は変えたりするけれども、同じステージの中で行っているように見せたいなと。だからそれはライブ感ということなんですけど。1人のおじさん、マキタスポーツおじさんが率いるバンドが行っていることっていう筋の通し方を大事にしました。
──これだけの集大成的なアルバムができてしまうと、燃え尽き症候群みたいな感じにはならなかったですか?
時間とお金をかけて作ったものすごい名刺ができたんで、これを全国にばらまくぞっていう気持ちですね。カッコよく言えば、ばらまいて燃え尽きたい(笑)。本当にこれはベスト盤で、今できることの最高到達点だと思ってるので。結局未収録になったけど、ほかにもレコーディングした曲が何曲もあるんです。でもそれは諸事情により落とさざるを得なかった。それも僕の実力だと思えば、もうこれが僕のすべて。だから売れないとしょうがないんです。
──最高の名刺ができたと。
そうですね。ライブ会場で売るのはもちろんですけど、あとは間違って交通事故みたいに「十年目のプロポーズ」とかが思わぬ広がり方とかしてくれたらいいなって。不特定多数の人たちになんとか届けたいですね。
衣装 / CRIMIE(03-6434-0551)
マキタスポーツ/1995 J-POP
DISC1
- マキタスポーツのテーマ
- 芸人は人間じゃない
- お母さん
- SOUND LOGO 1
- SOUND LOGO 2
- コーヒー★ギュウニュー【作詞作曲ものまね】
- サンボマスターはお湯に語りかける~美しき日本の銭湯~【作詞作曲ものまね】
- SKIT サンプリングおじさん(「ラッパー」編)
- 俺はわるくない(BAND ver.)
- SKIT サンプリングおじさん(「青春歌謡」編)
- はたらくおじさん
- Oh!ジーザス
- SKIT スパッツ
- SOUND LOGO 3
- みそ汁(独唱)【作詞作曲ものまね】
- 袋とじ【作詞作曲ものまね】
- SKIT サンプリングおじさん(「韓流」編)
- オーシャンブルーの風のコバルトブルー~何も感じない歌~
- SKIT サンプリングおじさん(「NEWS」編)
- 1995 J-POP
- オレの歌
- SOUND LOGO 4
- 歌うまい歌
- SKIT サンプリングおじさん(「頑張ったって…」編)
- 浅草キッド(アンコール)
DISC2
- 十年目のプロポーズ
- SKIT
- 十年目のプロポーズ(Feat.スチャダラパー ver.)
- 十年目のプロポーズ(カラオケ)
マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ、山梨県出身。1998年にピン芸人としてデビュー。2012年に本名の槙田雄司名義で書籍「一億総ツッコミ時代」を発売したほか、映画「苦役列車」では俳優として第55回ブルーリボン賞新人賞を受賞した。