音楽ナタリー Power Push - 木村カエラ
新しい仲間と見つけた“PUNKY”な私
メジャーデビュー10周年イヤーを経て、木村カエラが1年10カ月ぶりのニューアルバム「PUNKY」を完成させた。本作は、彼女が長年連れ添ったバンドメンバーから一度離れ、試行錯誤の末に“パンク”という自らの原点に立ち返ると共に、H ZETT Mやシャムキャッツといった新たな作家陣とのコラボレーションや、くるりの岸田繁作曲の映画主題歌にも挑んだ意欲作となっている。アルバムに込められた彼女からの真摯なメッセージを、ぜひ受け止めてほしい。
取材・文 / 金子厚武
やっぱり自分が好きなことをやるべき
──Hi-STANDARDの新作が出るってご存知でしたか?(※取材日はHi-STANDARDの新作「ANOTHER STARTING LINE」の店着日である10月4日に実施)
え? ハイスタ?
──ハイスタの新しいシングルが告知一切なしに発売されて、今、SNSはハイスタ祭になってます。カエラさんのアルバムにも参加されているハイスタメンバーのでもある恒岡(章)さんとかから聞いてるかなと思って。
知らなかったです(笑)。今日はずっとここで取材をしてるので、世の中のことは……。
──お疲れ様です(笑)。個人的に2016年はパンクの年だと思っていて、今回のハイスタのリリースもそうだし、その前には横山健さんの日本武道館公演があったり、若手もWANIMAや04 Limited Sazabysが一気に伸びてきた。そんな中で、カエラさんのアルバムのタイトルが「PUNKY」だと知って、「やっぱり、そうだよな」って思ったんです。カエラさんも、そんな時代感のようなものは感じていらっしゃいましたか?
そういう体感があったからこういう作品になったんだと思うんですけど……今、みんな、パンクのような、人の熱が感じられる音楽を欲しがってるんじゃないかっていうのはなんとなく思ってたし、それは私自身もそうだったんです。
──まさに、その感覚が2016年のムードを作ったように思います。
流行り廃りは繰り返されるものだから、何がいつどう来るのかはわからないですけど、やっぱり私はそういう音楽が好きなんですよね。それこそ夏フェスでWANIMAとかでワーって盛り上がってるのを見ると、「そうだよな」って思いますもん。人のパワーは何にも負けないっていうか、心を動かされますからね。
──もちろん、パンクはもともとカエラさんの原点でもあるわけで、10周年イヤーを経て、原点に戻ってきたとも言えるのかなって。
それはまさにその通りですね。10周年が終わったときに、世の中的に打ち込みの音楽があふれていて、自分が置いてけぼりになってる感じがしちゃったんですよね。今はみんな携帯で音楽を聴くし、それに合うギシギシ刺さる音の方がいいのかなって思って、自分でも生音と打ち込みの音を混ぜた曲を作ってみたりもしたんだけど、どうもしっくりこなくて、1年くらいずっと悩んでたんです。でも最終的には、やっぱり自分が好きなことをやるべきだと思った。それに気付かされたのが、このジャケットを撮ったときだったんです。
──ハードなスタッズとキュートな花柄のシャツが同居する、実にカエラさんらしい写真ですよね。
締め切りの関係で、音が完成するより先にジャケットとアー写を撮らなきゃいけなくて、でもそのときはまだアルバムの方向性が決まってなかったから、「どうしよう?」って感じだったんです(笑)。ただ、「輝いていたい 尖っていたい」とか「光と影」とか、いくつかキーワードが自分の中にあったので、スタッズ、スパンコール、星の形のラメとか、そういうのを使って撮ってるうちに、「これだ!」ってなったんです。「やっぱり、私のやりたいのはこれだ。アルバムの方向性はパンクだ」って。ずっと悩んでたんですけど、この写真のおかげでバシッと方向性が決まって、アルバムを一気に作っていったんです。
旅に出ることで自分を見つけられた
──もう1つ、アルバム制作に大きく関係しているのが、バンドメンバーの変化だと思うんですね。
それは大きかったですね。これまでずっと同じメンバーでやってきたんですけど、同じ人と長くいると、“その人といるときの自分”って決まってきちゃうじゃないですか? だから、バンドメンバーといるときの自分も決まってきてしまって、もちろん、これまではそれが居心地よかったんです。ただ、10周年を迎えて、自分はこれからさらに変わっていかないといけない、そうしないと何か止まってしまうんじゃないかっていう危機感と、もっと目標を持って、刺激を求めていきたいっていう思いがどんどん強くなっていって。
──あえて居心地のいい場所を抜け出して、変化を求めたと。
そう。「何かが違う」っていうのをずっと感じてて、でも答えが見つからなくて。そうなると自分の心が開かなくなっちゃって、いいことも入ってこないし、悪いことばっかり考えちゃう。で、あるとき「あれ? 居心地がよすぎるんだ」って思ったんです。それでメンバーのみんなに「ちょっと旅に出ようと思う」って相談をしました。もうちょっと修行をしてこないと、みんなに甘えちゃうし。納得いくまでいろんなことに挑戦して、それでまたみんながよければ一緒にやってくださいって話をして、一旦離れることにしたんです。
──恐らくは、その後のキーパーソンとなるのが、去年からライブで共演していて、アルバムにも全面的に関わっているH ZETT Mさんの存在かと。
そう、一旦離れたものの、やっぱりまだ悩んでて、自分が何をしたいのかが見えてなかったんですね。そんなときに、NHK Eテレでやってる「ムジカ・ピッコリーノ」を観てたら、H ZETT Mさんが子供と「トルコ行進曲」を弾いてたんです。それを見た瞬間に、私感動して泣きそうになっちゃったんですよ。「何この人!」って思って、次の日スタッフさんに「あの人のピアノで歌いたい」って話して、調べていったら、PE'Zのヒイズミ(マサユ機)さんで……。
──別人らしいですけどね(笑)。
親戚らしいですね(笑)。それで一緒にやってみたら、やっぱり自分の立ち位置が変化したんです。とにかくすごい方じゃないですか? 「この人と一緒にやったら、私目立てない」みたいな危機感に襲われて、そこで自分の燃える気持ちが出てきた。要するに、私はそれを欲してたんですよね。そういうことが一緒にやる中で見えてきた。
──ヒイズミさんとの作業の中で、気付かされることがたくさんあったと。
ヒイズミさんはデモのときに楽器だけ演奏するピアノと、私の歌が入ったときのピアノがまったく違うんです。歌をすごく聴いてくれて、毎回弾いてるときに興奮してるのが伝わってくるんですよね。なので、自分ももっと歌を聴いてもらいたい、いろんな歌い方をしたいって思うようになって、今回すごくいろんな歌い方を発見できたし、勉強にもなりました。もちろん、ヒイズミさん以外にも、夏から一緒にライブをしているくるりの佐藤征史さん、キャシー(柏倉隆史)、アイゴン(會田茂一)さんにも参加してもらって、アルバムを作ることができてすごくうれしいです。旅に出ることで自分を見つけられたというか、そんな感じがしてますね。
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- ニューアルバム「PUNKY」 / 2016年10月19日発売 / ELA
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3996円 / VIZL-955
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64563
- 下記サイトにて配信中!
- iTunes Store
- レコチョク
- mora
CD収録曲
- There is love
[作詞:木村カエラ / 作曲:蔦谷好位置 / 編曲:横山裕章] - 僕たちのうた
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:H ZETT M] - EGG
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:横山裕章] - THE SIXTH SENSE
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:會田茂一] - オバケなんてないさ
[作詞:まきみのり / 作曲:峰陽 / 編曲:H ZETT M] - SHOW TIME
[作詞:木村カエラ / 作曲:AxSxE / 編曲:H ZETT M] - 好き
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:シャムキャッツ] - 恋煩いの豚
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:小松清人] - PUNKY
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:H ZETT M] - BOX
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:H ZETT M] - 向日葵
[作詞:木村カエラ / 作曲:岸田繁 / 編曲:徳澤青弦] - Happyな半被(Bonus Track)
[作詞:木村カエラ / 作曲・編曲:AxSxE]
初回限定盤DVD収録内容
- EGG(music video)
- BOX(music video)
- BOX(making movie)
- LIVE「GO!SHOW TIME」at 渋谷公会堂 (2015.9.9)
KAELA presents PUNKY TOUR 2016-2017
STUDS TOUR supported by クラシエ naive
- 2016年10月18日(火)東京都 赤坂BLITZ
- 2016年10月19日(水)東京都 赤坂BLITZ
- 2016年10月24日(月)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2016年10月26日(水)新潟県 新潟LOTS
- 2016年11月11日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2016年11月14日(月)愛知県 DIAMOND HALL
- 2016年11月16日(水)兵庫県 チキンジョージ
- 2016年11月17日(木)大阪府 なんばHatch
DIAMOND TOUR
- 2017年1月28日(土)埼玉県 戸田市文化会館
- 2017年1月29日(日)宮城県 電力ホール
- 2017年2月5日(日)石川県 金沢市文化ホール
- 2017年2月11日(土・祝)神奈川県 神奈川県民ホール
- 2017年2月25日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2017年3月1日(水)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
- 2017年3月3日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2017年3月5日(日)愛媛県 西予市宇和文化会館
- 2017年3月6日(月)大阪府 フェスティバルホール
木村カエラ(キムラカエラ)
1984年生まれ、東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録し、一躍全国区の人気を獲得する。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月に初の東京・日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月に神奈川・横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを行い約2万2千人を動員。同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、ヒット曲「Butterfly」を披露した。2013年からはビクターエンタテインメント内にプライベートレーベル「ELA」を設立し、コラボカバーアルバム「ROCK」を発表する。デビュー10周年となる2014年6月には横浜アリーナで2DAYSの大規模ライブを行い、同年12月にオリジナルアルバム「MIETA」をリリース。2016年10月に9thアルバム「PUNKY」を発表した。