ナタリー PowerPush - 石野卓球
熱海発→クラブ行き 6年ぶりのソロ作でパーティクルーズ出航
熱海のレンタル屋は今だにVHSが並んでる
──「CRUISE」というタイトルは、まずこの海鳥ジャケットがあって、そこから決まったものなんですか?
そう。このアルバムの一連の流れが熱海から初島までのクルーズってこと。普通クルーズって泊まりがけで行ったりするでしょ? でも今回はミニアルバムだから熱海からの日帰りのクルーズ。ああっ! 熱海から初島まで片道42分くらいだといいね! 違うかな? もしそうだったら次からインタビューでそう答えよう。ちょっと調べてもらっていい?(笑)
──熱海-初島間は高速船で片道25分でした(笑)。ところでどうして熱海なんですか?
よく行くんですよ。地元が静岡だから近いし。あと、なんにもないのが良いんですよ。ユースカルチャーがゼロだから。本当に。
──わはは(笑)。
いや、あそこまでユースカルチャーがない街って他にないでしょ。普通は何かしらあるはずなんだけど。最近行ったことあります?
──行ったのはもう10年ぐらい前ですね。
10年前でも十分なにもなかったでしょ?
──確かに(笑)。
逆にそれが良くて。あそこにいると何の欲も出てこなくなるんですよ。シベリアに流された感じ(笑)。それが良くてよく行くんですけどね。観光に行って逆に落ちて帰ってくるダウナーな街。
──わざわざ落ちに行くんですか(笑)。
日常って逆にアガるようなことしかないじゃないですか。アガるのは簡単だけどサガるのは難しいから(笑)。でも落ちるっつっても鬱になるわけじゃないんですよ。リセットされるというか。それをやって東京に戻ってくると、もうコンビニあるだけでうれしいっていう(笑)。あんだけ人いるのにTSUTAYAがないんだもん。で、地元の人に教えてもらってビデオレンタル屋に行ったら、並んでるのが今だにVHSだよ!? しかもエロ中心。DVDなんてとんでもないよ! 何言ってんの! SFの世界だよ! 空飛ぶ自動車みたいなもんだよ! っていう、その雰囲気が良くてさ。
──あははは(笑)。
これは偶然だったんだけど、今回のアルバムで巻上公一さんの声をサンプリングさせてもらったら、巻上さんって熱海に住んでるのね。もともと湯河原の人で。
──あ、そういえばそうでしたね。
サンプリングしたのは、ずいぶん前にジョン・ゾーンのレーベルから出た「KUCHINOHA」っていう巻上さんの声だけの一発録りアルバムで、発売当時に買ってよく聴いてたんです。最近、青山円形劇場でやってた、巻上さんがプロデュースした声のフェスティバル「FESTIVAL NEO-VOICE」っていうのに行ったんですけど、やっぱ巻上さんはパワーがすごくて。これはぜひアルバムに使いたい! ってことで円形劇場のバックステージで久々に会ったんです。そのときはまだサンプリングさせてほしいっていう話はしてなかったんだけど、後日サンプリングの許可をもらおうと連絡したら、「熱海に住んでる」って言ってて(笑)。ああ、なんかつながったな、って思いましたね。
──最初に資料を見せていただいて、巻上さんの名前がクレジットされていたからボーカリストとして参加しているのかと思ったんです。でも実際に聴いてみたらズタズタにカットアップされていて、歌というよりビートみたいな使われ方でしたね。
この前、篠原ともえの15周年ライブがLIQUIDROOM ebisuであって、そこに巻上さんも来てたんですよ。だからバックステージでこの曲を聴いてもらったら、何も言わずに苦笑いされた(笑)。「すっ、すいません!」としか言えなかったよね(笑)。
あると思うでしょ? それがないんだよね!
──ところで資料には、「今回のミニアルバムと違う側面を打ち出したフルアルバムをリリース予定」って書いてあるんですが、何か具体的なイメージがあるんでしょうか。
全然ないよ、何も考えてない(笑)。最初にミニアルバム作る言い訳としてそう言っただけで、そこまで視野に入れて作ってたわけではないので。困ったなぁっていう(笑)。でも、春ぐらいにアルバムを出そうとは思ってます。まだ半年以上あるんで、その間にまたいろいろ気持ちも変わるだろうし、とりあえずそのまま「違う側面を~」って書いといてください。たぶんその頃にはみんなそんなこと忘れてるし、俺も忘れてるし(笑)。
──ということは、今作と地続きで何かを作っているというわけでもないんですね。
うん、そういうわけではないです。これはこれとしてひとつの固まりのつもりで作ったんで。もしかしたらフルアルバムでまったく同じようなものを作る可能性もあるし、それはまだ全然わかんないですね。ただ今回のがビックリするぐらい売れなかったとしたら、会社から「もうこういうのはやめてくれ!」って言われる可能性もあるんで、泣く泣く別の方向にするかもしれないですけど。
──わははは(笑)。でも今までもいろんなタイプの作品を出してますし、引き出しはたっぷりあるから……。
そんなにないんですよ! あると思うでしょ? それがないんだよね! はっはっはっは!(笑)
──いやいや、前の「TITLE」と今回の「CRUISE」はやっぱり地続きな感じはしますけど、それ以前のアルバムと比べればかなり違いますよ。年月がだいぶ経ってるので当たり前といえば当たり前ですが。
作ってる時期も違うし環境も違うから、やっぱり変わってくる部分はありますけどね。ただ、「今回はこういうふうに変えてこう」みたいなことを考えながら意図的に方向性の違うものを作ったことは、ソロ作品に関してはあんまりないんで。逆に、そういうことを一切考えずに作れるのがソロの良いところだと思ってます。
DISC 1 収録曲
- Ellen Allien / Our Utopie
- Johnny D. & Butch / Blues Shoes (Butch Mix)
- DJ Tasaka / Gratitude
- Gregor Tresher / Escape To Amsterdam
- 2000 And One / Peking Dub
- Hard Ton / Earthquake
- Ken Ishii / Right Hook (Original Mix)
- Dusty Kid Presents Grooviera / Ya No Puedo Mas
- Takkyu Ishino / 7th Tiger (W10 Mix)
- Alex Bau / Wayne Sidorsky (WIRE-Exclusive Edit)
- Beroshima / All The Time
DISC 2 収録曲
- Roman Flugel / Yokohama Sunrise
- Dominik Eulberg / Adler
- Monika Kruse / Wavedancer (Pig & Dan Remix)
- A.Mochi / Black Out (WIRE10 Mix)
- Jeff Mills / Space Walk
- Hell / Electronic Germany
- Radio Slave / N.I.N.A
- Fumiya Tanaka / they got a moon
- Paul Ritch / Suffolk
- Newdeal / Backbeat reprise
- Eric Sneo / Tanz der Familie (RMX)
石野卓球
(いしのたっきゅう)
1967年生まれのDJ/リミキサー/ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。90年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年からは川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成し、リリースやライブなど精力的な活動を行っている。