ナタリー PowerPush - 石野卓球
熱海発→クラブ行き 6年ぶりのソロ作でパーティクルーズ出航
俺はトレンドウォッチ的なことに興味ないし
──今年も「WIRE」の開催が近づいてきましたが、出演者のブッキングはどういうところに気を使って決めてるんですか?
そのときに興味のある人たち、っていうのは最初からずっと変わらないですね。
──今年はこういうテーマで、みたいなことを考えたりとか?
一度もないですね。もちろんテクノは一貫したテーマですけど。もしその年のテーマっていうものがあったら、たぶんビッグビートばっかりの年だったり、ミニマルな年、エレクトロな年もあったと思うんだけど、そうやって「今年はこういう方向のアーティストを中心にやっていこう」みたいなことを毎回やってたら、たぶんここまで続いてなかったと思う。それに、その年のトレンドを気にしながら出演者を選んでたら、俺自身がそこでDJできなくなっちゃうだろうし。
──なるほど。
名目上、俺はオーガナイザーだけど、そこまでいくとそれはもうイベンターの仕事だよね。トレンドウォッチ的なことに俺は興味ないし、そこまでビジネスライクな感じではやってないです。もしそれをやっていたらもっと動員増えてますよ。でもそれって「WIRE」でやる必要のないことだから。
──でも、今うかがったような選出基準だと信頼できるというか、遊びに行く側としても「卓球さんの興味あるアーティストなら楽しいに違いない」「ハズレなわけがない」みたいな気持ちになれますよね。
まあ、その年によって傾向が違うことはあるけどね。「ちょっと今年はベテランが多すぎたかな」とか。俺も含めてね(笑)。
──ああ、言われてみると出演者の年齢層は少し高めかもしれませんね。でも以前のようにニューウェイブのレジェンドみたいな人が出演しているわけではないので、年齢層が高いという印象はありませんでした。
そういう出演者ってここ数年はいなかったと思うよ? 確かNITZER EBBが最後でしょ。なんか途中からそういう枠みたいな感じになっちゃったから、それも嫌だなと思って。それにもうコマがないでしょ。「FRONT 242が横浜アリーナに出演!」とか言われてもって感じでしょ? REVOLTING COCKSとかさ(笑)。
──観たいですけどね、FRONT 242(笑)。
観たいけどウチらが呼ぶもんでもないから(笑)。おっさんたちがよく言うんだよね。「次は誰? FRONT 242とかどうなの?」って。おっめぇ、それ呼んで客が来なかったら責任取れよ! って感じなのにさ。
──確かにそういう部分に期待してた人もいそうですね。
別にそういうつもりだったわけじゃないんだけど、だって毎年なんか再結成があったりとかするんだもん。ORBITALなんか「WIRE」が最後のライブだって言ってたのに平気で再結成してもう来日してるじゃん! ずるいよね! 大仁田じゃん!
──あははは!(笑) 今年の出演者ではHELLがひさびさの出演ですよね、昔はむしろ「WIRE」の常連アーティストというイメージがあったんですけど。
そう、エレクトロクラッシュとかが一番流行ってた時期には呼んでないんだよね。あえて呼ばなかったわけじゃないんだけど(笑)。HELLは昔からずっと好きだし、相変わらず独特なスタンスでやってるから信用できるんですよ。HELLの音って一発で聴いてわかるでしょ? 伊達にジゴロじゃないよ(笑)。ジェフ・ミルズもそうだけど、トレンドとか関係ないところにいるのは良いです。
第3者が選んだ曲じゃないものが入ってる
──毎年開催にあわせてリリースしてる「WIRE」のコンピ、今年は「CRUISE」と同時発売されますが、この選曲も卓球さんがやってるんですか?
ううん。これはアーティストに選曲を任せてます。「もしエクスクルーシブな音源を出してもらえるんだったら、そっちのがいいです」とだけ伝えて。これが何かを象徴してるとは別に思ってないんで。ただ今回出る出演者を紹介するだけのコンピレーションだから。コンピとしての精度を高めることには力を使ってないんで。ただ、かと言ってノベルティ的なものでは決してないとは思ってるんですけどね。各アーティストが今現在の自分のイチオシ曲を送ってきてるわけなんで、その意味で言うと「第3者が選んだ曲じゃないものが入ってるコンピ」っていう、そういう聴き方もできると思うし。あとね、意外と見落としがちなんだけどこれの曲は全部、期間限定でアーティストからライセンスを借りてるんですよ。だから「WIRE」のコンピって時間が経つと廃盤になるんです。なので、これは買っといたほうがいいですよ(笑)。
──ちなみに、そもそもこんな大規模なイベントを個人で始めようと思ったきっかけは?
そのころ「MAYDAY」に呼ばれたり、ドイツでDJをする機会が多くなったんですが、ドイツから見ても日本のテクノのマーケットってすごくデカかったんですよ。日本にはシスコテクノとかもまだあって、テクノのレコードの売り上げがすごくて、新宿LIQUIDROOMとかいろんなクラブに良いDJが来て、テクノ自体がすごく盛り上がってたんです。なのに「WIRE」みたいな屋内レイヴがまったくなかったんで、そのバランスがすごく不自然に感じて、それで始めたのが最初です。
──横浜アリーナを会場に選んだのはなぜですか?
まずオールナイトができる会場があそこしかなくて。それ絶対マストだったんで。22:00で終わりとか、やっぱ冷めるでしょ? それだとやっぱり意味がないんで。あとアクセスの良さ。名古屋とか関西からも新幹線で来れるっていう利点があるよね。あとは横浜アリーナのほうもそれに乗り気で協力的だったっていう。さいたまスーパーアリーナでやったこともあるんですけど、最終的に横浜アリーナに戻りました。
──都内からも足を運びやすいですしね。
そこが良いよね、単純に。あと清潔感があるところ(笑)。海外の会場って結構汚かったりするんだけど、あの清潔感が東京っぽくて良い。
DISC 1 収録曲
- Ellen Allien / Our Utopie
- Johnny D. & Butch / Blues Shoes (Butch Mix)
- DJ Tasaka / Gratitude
- Gregor Tresher / Escape To Amsterdam
- 2000 And One / Peking Dub
- Hard Ton / Earthquake
- Ken Ishii / Right Hook (Original Mix)
- Dusty Kid Presents Grooviera / Ya No Puedo Mas
- Takkyu Ishino / 7th Tiger (W10 Mix)
- Alex Bau / Wayne Sidorsky (WIRE-Exclusive Edit)
- Beroshima / All The Time
DISC 2 収録曲
- Roman Flugel / Yokohama Sunrise
- Dominik Eulberg / Adler
- Monika Kruse / Wavedancer (Pig & Dan Remix)
- A.Mochi / Black Out (WIRE10 Mix)
- Jeff Mills / Space Walk
- Hell / Electronic Germany
- Radio Slave / N.I.N.A
- Fumiya Tanaka / they got a moon
- Paul Ritch / Suffolk
- Newdeal / Backbeat reprise
- Eric Sneo / Tanz der Familie (RMX)
石野卓球
(いしのたっきゅう)
1967年生まれのDJ/リミキサー/ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。90年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年からは川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成し、リリースやライブなど精力的な活動を行っている。