ナタリー PowerPush - 石野卓球
熱海発→クラブ行き 6年ぶりのソロ作でパーティクルーズ出航
オモシロさを期待されてどんどんハードルが上がるから
──パッケージを手に取ってほしいというのはやはり、卓球さん自身がデータよりもパッケージを大切にしているからですか?
そうですね。自分がずっとレコードやCDを聴いてきたので。例えば配信音源にもジャケットは付いてますけど、ジャケットを手に取りながら曲を聴くのと、ジャケットをモニタで見ながら曲を聴くのとでは感じが違いますよね。
──最近はDJでもBeatportなどでダウンロードしたトラックを使う人が増えてますが、卓球さんはあまり音楽をデータで聴かないんですか?
もちろん聴きますよ。ていうか、買ったCDは全部データにしてiPodに入れてるし。そのほうが楽ですからね。CDをプレイヤーで再生して聴くのは、DJやっててCDJが回ってるときぐらいですね。
──ジャケットといえば今回の「CRUISE」は、卓球さんが自ら撮影した写真がジャケットに使われているんですよね。
その写真に関しては、よくある「にわか趣味で写真を始めたからそれを見てほしい」とかいうつもりじゃないですよ。熱海に行ったときに初島に向かう船に乗ったら、鳥にやる用の「かっぱえびせん」売ってて。それ買って撒いたらヒッチコックの「鳥」みたいに大量の鳥が寄ってきて。もう楽しむどころじゃなくて恐怖(笑)。そのときたまたまデジカメ持ってたんで撮ったのがこの写真なんです。
──(笑)。
で、ジャケットをどうしようかなって考えてたときに、今まではありものの写真とかから持ってきてたんですけど、今回はなるたけ中身と関係のないものがいいなと思って、iPhotoで過去に撮った写真とか探したんです。まあ、8割ぐらいは自分の変な顔とかそういうのなんですけど(笑)。その中から鳥の写真を見つけて、これがいい! って。
──中身と関係ないほうがよかったというのは、ビジュアル的な部分でリスナーのイメージを引っ張りたくなかったからですか?
モノにもよるんですけど今回はそういうふうにしたくなかった。久しぶりのソロだし、ゲストも入れず全部1人で作ったので、ジャケットのビジュアルとかも含めてすごくパーソナルなものにしたいなと思って。それもあって自分で撮った写真にしたんですよ。あと、前にやってたみたいなふざけたジャケットにすると、「今回のジャケットはどんなオモシロいのにしてくれるんですか?」みたいに期待されてどんどんハードルが上がってくるんで(笑)。
──期待しますよね(笑)。
抜けの良い写真にしたかったんですよ。あんまり密室的なジャケットにしたくないっていうのがあったんで、そんないろんな理由の中からこれを選びました。
なるべく早起きして夕飯の時間には帰る
──密室的にしたくないというのはどういうことですか?
今まではすごく密室的に作ってたんですよ。夜中に地下室にこもってっていう感じで。でも今回あんまりそういう気分じゃなくて、なるたけ早い時間に起きて、日が出てるうちにスタジオに行って集中して作業して、夕飯には帰るっていうやり方をなるべくしていて。なんでかっていうと、一晩中ずーっとやってるのも好きなんですけど、ここからここまでって決めてくほうが集中できるから。作業を始める前にその日することをきっちり決めて、やる気満々のままスタジオに入ってったほうが効率がいいんです。夜中だと閃くこともあるんだけど、閃いたアイデアをこねくり回しすぎて、もう結果が出てるのに夜が明けるまで無駄な時間を過ごすってことが結構あって。それを続けてると週5日スタジオに入ってても4日分しか進まなかったりするんで。
──実際に作業しているときにも密室感を感じなかったということですね。
そういうのも1人で作業することの利点ですよね。InKにしろ電気グルーヴにしろ誰かしら他にメンバーがいるんで、自分のことだけ考えてないで相手に合わせたりしなきゃいけないんですけど、1人だと全部自分でコントロールできるから。自分で完全にコントロールできて、かつ自分が一番集中できるやり方を考えたら、そういう密室的じゃないやり方だったんです。
──そういうやり方でソロアルバムを作るのは今回が初めてなんですか?
前のアルバムのときは夜中までずっとやってたなー。その前の2枚はベルリンで作ってたから昼も夜も関係ないって感じ。日本時間にすると普通の時間帯だったのかもしれないけど、時差で完全にひっくり返ってたから(笑)。作ってるときの環境があんまり密室的じゃなかったっていうのは作風に影響してるのかもしれないですね。具体的にどこって言われたらわかんないですけど、その解放感っていうか抜けの良さっていうのは今までとはちょっと違うかな。
──そうですね。その感覚は伝わりました。
ただ、その結果できあがったものが結構夜っぽいという(笑)。そこはたぶんDJ活動のフィードバックなんだろうな。
──「爽やか」と表現すると全然違うんですが、でもすごく見晴らしがいいアルバムだなっていう印象はあります。
たぶんそれは作ってるときの心理状態が影響してるんじゃないですかね。
DISC 1 収録曲
- Ellen Allien / Our Utopie
- Johnny D. & Butch / Blues Shoes (Butch Mix)
- DJ Tasaka / Gratitude
- Gregor Tresher / Escape To Amsterdam
- 2000 And One / Peking Dub
- Hard Ton / Earthquake
- Ken Ishii / Right Hook (Original Mix)
- Dusty Kid Presents Grooviera / Ya No Puedo Mas
- Takkyu Ishino / 7th Tiger (W10 Mix)
- Alex Bau / Wayne Sidorsky (WIRE-Exclusive Edit)
- Beroshima / All The Time
DISC 2 収録曲
- Roman Flugel / Yokohama Sunrise
- Dominik Eulberg / Adler
- Monika Kruse / Wavedancer (Pig & Dan Remix)
- A.Mochi / Black Out (WIRE10 Mix)
- Jeff Mills / Space Walk
- Hell / Electronic Germany
- Radio Slave / N.I.N.A
- Fumiya Tanaka / they got a moon
- Paul Ritch / Suffolk
- Newdeal / Backbeat reprise
- Eric Sneo / Tanz der Familie (RMX)
石野卓球
(いしのたっきゅう)
1967年生まれのDJ/リミキサー/ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。90年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年からは川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成し、リリースやライブなど精力的な活動を行っている。