ナタリー PowerPush - 石野卓球
熱海発→クラブ行き 6年ぶりのソロ作でパーティクルーズ出航
「2次元しか興味ない」みたいなこと
──以前と比べて、クラブに足を運んで音楽を楽しむという文化は裾野が広がっていると感じますか? それともまだまだ定着していないと思いますか?
箱によるけど、WOMBとかageHaとかは誰がDJやってても関係なしに若い子たちが遊びに来るし、そういう意味では昔に比べて裾野は広がってる。昔は特定のDJ目当てでしか来なかった人が多かったからね。だからその分、昔よりチャラくなってはいる。でもチャラくて結構っていうか、チャラすぎるのも問題だけど、やっぱチャラい子たちもいないとパーティが盛り上がらないからね。ストイックすぎるパーティって結構居心地悪いじゃん。
──ストイックというと、DJの手元をみんなで観に来るような?
そうそう。それに、あんまり盛り上がり過ぎちゃいけないパーティみたいなのもあるから。肩より上に手を挙げるとカッコ悪いみたいな。ホントいろいろあるんですよ。
──例えば今、クラブ初心者に「パーティの楽しみ方を教えてほしい」と言われたら、卓球さんならどうしますか?
相手がどんな人なのかにもよるかな~? 何が一番敷居が低いかっていうのは人によって全然違うから。周りが全員チャラ男でキツいって思う人もいるだろうし、逆にチャラ男がいるから楽しいって思う人もいるから、どっちとも言えないですよね。「ここに行くといいよ」って教えても、1人だけ浮いちゃって結局嫌な気持ちになって帰ってくるってこともよくあるから(笑)。ageHaみたいなところはキャパもでかいし入りやすいと思うんだけど、単純に音楽だけを楽しみに1人で行く人は疎外感を味わうことも多いと思うんですよ。逆にワイワイやりたいと思ってクラブに行ったら、盛り上がると白い目で見られるようなパーティだったとか。ジャンルによってもいろいろあるし。ヒップホップのパーティだったらみんなで一緒になって盛り上がるとか、ハウスだったらちょっとオシャレも込みで楽しむとか、難しいですよね。やっぱ「とりあえず好きなDJがやってるとこに行ってみて」って言うしかないんじゃないかなぁ。……フェスに行くのがいいんじゃないすか? 一番楽ですし。あ! 「WIRE」か! そうそう、それがいいです(笑)。
── 興味はあるけどまだ一度も「WIRE」に行ったことがないという人もいると思いますが、そういう人に来てもらうためのコメントは何かありますか?
そこまでいくと俺の手に負えないっていうか、ちょっとわかんないですね(笑)。もう12年もやってて来なかったんだから、そういう人はもう来ないですよ!(笑)俺が何か言わんでも行きたきゃ行くと思うから。それでビビって行けない人はもう一生行かないっすよ。もう無理(笑)。興味持ってくれた人はとりあえず来ればいいと思います。
──とはいえ、「この手のイベントに一緒に行く友人が周りにいない、どうしよう」みたいな声はたまに耳にしますよね。
ああ、そうか。確かに友達と行ったほうが絶対楽しいですよ。間が持つっていうか。たまに、1人で来て間が持たなくて不審者みたいになってキョドってる人とかいて、かわいそうだなって思うもん。
──DJの新しい楽しみ方として「DOMMUNE」のように、ネットの生中継でDJを観聴きするという人も増えてきていますよね。それと比べて「現場でのDJイベントのほうが楽しいよ」みたいな部分はありますか?
DJパーティって鑑賞じゃなくて体験だから。大型サウンドシステムで聴くのとコンピュータのスピーカーで聴くのとでは空気の振動とかも違うし、あとはその場の匂いとか、そこにいるお客さんと楽しく話したり嫌な思いをしたり、そういうの全部ひっくるめての体験じゃないですか。それはやっぱ全然違いますよね。「DOMMUNE」は本当に素晴らしいと思うんだけど、あくまであれはDJがやってるプレイにフォーカスしたものだから、PC越しに1人で観てるぶんには別モンだと思うし、あれと同じものを求めてクラブに行くとつまらないっていうか、怖いと思うよ(笑)。することもなくてじーっとブース観てるしかないみたいになって、そうなるとDJも「ちょっとやりづれえな」みたいな感じになって、他のお客さんも「何あいつ?」みたいになるから、あんまお互いのためにならないんじゃない。負のスパイラルに落ちていくような(笑)。
──やはり、クラブに足を運ぶ意味として一番大きいのは「体験」ということですね。
やっぱそれが一番でかいかな。そこで出会う人たちとかもいて、その人たちと音楽の話をして、「じゃあ、他のパーティも行ってみよう」みたいになって広がってくもんだと思うから。実際、俺もそうだったし。家でDJの中継を観てるだけでは絶対わかんないから。勇気を振り絞って行ってみるといいと思います(笑)。でも確かに、クラブ行かなくてもそれで十分だっていう人もいるからね。
──そうですね。
それもったいないと思うけどね。どっちのが優れてるっていうわけじゃないんだけど、そっちだけ観てそれで十分って言っちゃうのはちょっとね……。俺さ、アニメ好きが「2次元しか興味ない」みたいなこと言うの、あれ負け惜しみにしか聞こえないんだけど。それに結構近いかなっていう気がする(笑)。
石野卓球プロデュースのブラジャーとかさ
──卓球さんは「DJは現場で楽しんだほうがいい」という意識が強いからDJミックスをリリースすることにあまり興味がない、という話を以前聞いたことがあるような気がするのですが。
ミックスCDっていうフォーマットが今あんまり意味がないんじゃないかなって。海外ではベルクハイン(ベルリンのクラブ)とかが箱単位でミックスCDを作ってて、店の雰囲気がわかるしそういうのはマテリアルとしてアリかなと思うんだけど。DJミックスはネットにいくらでも転がってるし、まあ違法なんだけどさ(笑)、それをわざわざパッケージして製品にする必要もないのかなと思って。DJミックスってその時々の旬のものだし、CDとして残してもっていうのもあるから。あと、実際のDJはもっと長くやってるのに、CDだとどうしても70分っていう時間の縛りがあるしさ。それ考えると自分の中でミックスCDっていうもののプライオリティが低いんですよ。それに、DJミックスを自分の作品としてプロモーションするのがバカバカしいっていう(笑)。
──以前ミックスCDをリリースしていた時期はその気持ちは違っていたんですか?
だってあの頃はネットでDJミックスが手軽にダウンロードできなかったし。地方にはクラブがないとかクラブ人口が少ないとか、そういう場所って結構あったんですよ。でもそれも昔の話で、今はもうDJミックスを聴く手段が全部整ってるから、あまり意味がなくなったと思う。他のジャンルはともかく、特にテクノに関してはただ単にミックスしただけのCDはいらないかな。もしミックスCDを出すとしたら、何かプラスαのアイデアが必要。ヒット曲がいっぱい入ってるCDだったらアリだと思う。それはそれで欲しがってる人たちがいるから。
──そういうことなんですね。
テクノを聴いてる人たちって、もうだいたいコンピュータとか持ってるし、ネット環境も整ってる人が多いから、別にミックスCDとか買わなくてもなんとかなっちゃうでしょ。そこにわざわざ入ってく必要がないっていうことですね。
──たしかに僕も昨日、「WIRE」のオフィシャルサイトからリンクされてる出演DJのMySpaceに飛んで、そこでDJミックスずっと聴いてましたね。
そうでしょ? 買わないよね。自分が買わないもん出しちゃまずいよ。石野卓球プロデュースのブラジャーとかさ。それと一緒でしょ(笑)。
DISC 1 収録曲
- Ellen Allien / Our Utopie
- Johnny D. & Butch / Blues Shoes (Butch Mix)
- DJ Tasaka / Gratitude
- Gregor Tresher / Escape To Amsterdam
- 2000 And One / Peking Dub
- Hard Ton / Earthquake
- Ken Ishii / Right Hook (Original Mix)
- Dusty Kid Presents Grooviera / Ya No Puedo Mas
- Takkyu Ishino / 7th Tiger (W10 Mix)
- Alex Bau / Wayne Sidorsky (WIRE-Exclusive Edit)
- Beroshima / All The Time
DISC 2 収録曲
- Roman Flugel / Yokohama Sunrise
- Dominik Eulberg / Adler
- Monika Kruse / Wavedancer (Pig & Dan Remix)
- A.Mochi / Black Out (WIRE10 Mix)
- Jeff Mills / Space Walk
- Hell / Electronic Germany
- Radio Slave / N.I.N.A
- Fumiya Tanaka / they got a moon
- Paul Ritch / Suffolk
- Newdeal / Backbeat reprise
- Eric Sneo / Tanz der Familie (RMX)
石野卓球
(いしのたっきゅう)
1967年生まれのDJ/リミキサー/ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。90年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年からは川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成し、リリースやライブなど精力的な活動を行っている。