ナタリー PowerPush - ヒャダイン

シリアス路線はSOS? 多忙なクリエイターの実情

音楽プロデューサーとして時代とリンクしたヒットソングを数多く生み出しながら、自らソロアーティストとしても活躍する、ヒャダインこと前山田健一。最近では音楽活動のみならず、地上波番組でMCを担当したりバラエティに進出したりと引っ張りだこで、昨年11月には彼にとっての念願でもあったフジテレビ系「笑っていいとも!」テレフォンショッキングへの出演も果たした。

マルチな活躍ぶりで、現在「日本一多忙な音楽プロデューサー」と言っても過言ではない彼が、2013年第1弾となるシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」を完成させた。ナタリーでは前山田健一 / ヒャダインの本質に迫るべく、さまざまな現場を駆け回る彼を直撃。ロングインタビューに応じてもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 笹森健一

 
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シリアス路線が続いた理由

ヒャダイン

──ヒャダインさんは今まで何度もナタリーに登場してますけど、ヒャダインさん本人についての取材は意外にも今回が初めてなんですよね。

ぎゃふん! そうでしたっけ? さんざっぱら出てますよね(笑)。

──せっかくですので過去の作品などについてもじっくりお訊きしたいのですが、まずは近況を。2013年初頭はご自身の作品より先に、私立恵比寿中学の「梅」、でんぱ組.incの「W.W.D」(ともに1月16日発売)といったヒャダインさんが手がけた作品がリリースされました。

あと去年の暮れには吉木りささんもありましたね。

──「世界は教室だけじゃない」(2012年12月5日発売)ですね。まさにこの3曲に顕著なんですけど……最近のヒャダインさんはどこかマジ路線というか、そういう傾向にありますよね。

ええ、ええ。全部ディープでシリアスな曲ですね。簡単に言うと、暗い(笑)。

──ヒャダインさん自身の新曲「23時40分」もこの流れにリンクするかのようなシリアス路線で。ただ、例に挙げた曲はあくまでそれぞれ別に発注を受けて制作されているはずで、「23時40分」についてもまずはアニメ「バクマン。」オープニングテーマという前提ありきで作られたんだと思うんです。なのになぜ、こうやってひとつの流れのようにできているのかなと。

これはもう、間違いなくでんぱ組.incのせいですね(笑)。もふくちゃん(でんぱ組.inc所属事務所「モエ・ジャパン」代表)とのやりとりで何回も何回もリテイクがあって、去年の夏はずっと「W.W.D」の歌詞と曲とアレンジをやり直してやり直して……。メッセージ性の強いものにすげえ向き合って、どうにかこうにかできたんです。そのあたりから曲を作るにあたって、自分の中でメッセージ色の強いものを作るクセが付いてしまったんですね。エビ中の「梅」も同時期に発注があったんですけど、最初は「桜ソングはいっぱいあるから梅にしてください」というだけで。

──メッセージ性のかけらもない発注で(笑)。

当初のコンセプトとしては非常に軽かったんですけど(笑)。そこから考えに考えて、エビ中がステップアップできる曲になったらいいなという思いを込めたら、自然とシリアスな歌詞になっちゃいました。さらに吉木さんの曲も相まって、メッセージを入れなきゃ気が済まなくなってきて(笑)。

ヒャダインの手癖を封じたかった

──ヒャダインさんは以前雑誌の取材で、大好きなピチカート・ファイヴの中でも「ハッピー・エンド・オブ・ザ・ワールド」をフェイバリットアルバムに挙げてましたよね。あのアルバムはピチカートのハッピーな部分を極端にブーストしたような作品で、それを1番に挙げるのはヒャダインさんらしいなと思ってたんです。

そうですね。「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」とか「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」は確実に「ハッピー・エンド・オブ・ザ・ワールド」とか「さ・え・ら ジャポン」の影響が濃いと思います。

──小西康陽さんの影響下にあって、ブライアン・ウィルソン的な根の深い部分ではなく「いつもゆかいな小西康陽さん」の血を引いているというのがヒャダインさんの特色だと思ってたんですよ。それがどうも、最近は違ってきたんじゃないかと。

ヒャダイン

うんうん。アルバム「PIZZICATO FIVE」ほどの暗さまではいかないけれども、みたいな(笑)。きっと性分としてそこまでは暗くなれないんですけど、「メッセージ・ソング」や「世界は1分間に45回転で廻っている」のように、明るい中に闇が見えるような、そういった暗さや毒のようなものを入れるのも……いいのかなと。

──あくまで自分はポップでハッピーな側の人間である、という軸は変わらない?

はい。「W.W.D」も「梅」も「世界は教室だけじゃない」も、絶対にハッピーなものが感じられるようにしたいと考えましたから。なんですが「23時40分」に関しては、今まで全くやったことがないアプローチで行こうと思ったんです。ポップさを排除して、闇や苦悩をそのまま出してしまおうと。シンガーソングライター的な部分を1回出してみたかったというチャレンジでもありますね。

──「シンガーソングライター的」というのは非常に的を射た表現ですよね。これまでは自分すらもサウンドプロデュースの対象であるかのように表現していたヒャダインさんが、今作では歌とソングライティングに集中して、アレンジをBase Ball Bearに委ねているという。ヒャダインさんは基本的に作曲のみならず編曲、サウンドプロデュースまでひとりで手がけた作品が多いですけど、元来そのつもりではなかったそうで。

はい。アレンジには元々執着がなかったんですよ。

──例えば中田ヤスタカ(capsule)さんのように元来宅録が大好きで、トータルで音楽制作をするのが基本姿勢、という方とはまた違うと。

そうなんです。僕、そのあたりは最近すごくニュートラルに考えるようになっていて。吉木さんの曲もアレンジは板垣(祐介)さんにお任せですし、自分のアルバム「20112012」(2012年11月28日発売)でもジャズタッチの曲やメタルの曲などに関してはほかの方にお願いしました。餅は餅屋というか、作りたい曲の中にも自分にできないことは絶対にあるんで、そこはもう人に委ねようと。そのほうがいい曲になるんだったら絶対そうしたほうがいい。「23時40分」は本格的なバンドサウンドで行きたかったし、ヒャダインの手癖みたいなものを封じたかったんですよ。プラス、この楽曲の雰囲気と伝えたいメッセージが、こいちゃん(Base Ball Bear 小出祐介)といつも話している内容ととてもリンクしてたので、きっと彼ならこの曲のことを理解してくれるんじゃないかと思って。

ニューシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」 / 2013年1月30日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / LACM-34060
通常盤 [CD] / 1200円 / LACM-14060
収録曲
  1. 23時40分 feat. Base Ball Bear
  2. パーレー
  3. ピアノ
  4. 23時40分 feat. Base Ball Bear(Instrumental)
  5. パーレー(Instrumental)
  6. ピアノ(Instrumental)
初回限定盤DVD 収録内容
  • 23時40分 feat. Base Ball Bear(MUSIC VIDEO)
ニューアルバム「20112012」 / 2012年11月28日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 3500円 / LACA-39254~5
通常盤 [CD2枚組] / 3000円 / LACA-9254~5
ヒャダイン

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を発表。2013年1月30日には通算6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」をリリースする。