ナタリー PowerPush - ヒャダイン

シリアス路線はSOS? 多忙なクリエイターの実情

ヒャダインとももクロと早見あかりの“じょーじょーゆーじょー”

──あともう1曲、「ヒャダインとももクロのじょーじょーゆーじょー」についてもお訊きしておきます。

ええ。そこはナタリーさん的には外せないですよね(笑)。この曲も元は「日常」のための曲でしたが、まず「女の子同士のキャッキャした友情を描いてほしい」という発注だったんですね。それで最初に思い浮かんだのはやっぱりももクロちゃんたちの姿で。

──なるほど。初めから楽曲のイメージとしてももクロの姿があったんですね。

はい。だったらPVでヒャダル子(ヒャダイン自身のボーカルを加工した女声パート)を演じるのは早見あかりだろうと。彼女はちょっと迷ったらしいんですけど、すぐにOKしてくれて(参照:ヒャダイン新曲PV公開、ヒャダル子役は早見あかり)。あのPVが出たあと、彼女に対してやっぱり少し批判の声があったんですよね。「ももクロを辞めたのにアイドルみたいなことをして」って。それを見て僕は彼女に「よかったね。成功したね」って言ったんですよ。撮影前に「今回はヒャダル子を演じる『女優・早見あかり』として参加してくれ」って話をしてたんです。「そんな笑顔アイドル時代には見せたことがなかった」っていう批判が上がったのは、彼女が女優として演じ切れていたからこそで。

──ヒャダル子としてのはじけた演技が、その後彼女が出演した「ウレロ☆未確認少女」(テレビ東京系)でのコメディエンヌとしての才能開花にもつながっているような気がします。

ヒャダイン

ですね。で、その後アルバムを作るという話になったとき、いろんなアーティストとコラボしたり既発曲の別バージョンを作るなら……と考えて最初に浮かんだのがやっぱりこの組み合わせですよね。ももクロと早見あかりは今でもいい友情を育んでいて、お互いに高め合っている存在で。その2組が擬似的に共演することで、この曲が持つ“ゆーじょー”が表せたらいいなと。PVには彼女たちのマネージャーである川上(アキラ)さんもちょろっと出てますし(笑)。あとは僕と彼女たちとの友情というのもやっぱりありますから。よく言うんですが、本当にプロデューサーとアイドルというより“戦友”なんですよね。プロデューサーなのにホモ呼ばわりされるわ腹パンチされるわ(笑)。ひどい話ですよね。

──ももクロの5人はこの曲を歌うことに対して、どのように考えたんでしょうね。

案外なんにも考えてないと思いますよ。絆はもちろん深いんだけど、あの子たちは超特急に乗ってるから、大昔のことに感じてると思うんです。レコーディングはもう、いつもどおりでした。ももクロの曲を歌ってるのと一緒。歌ってほしいパートは僕の中で完璧に決まってたので、パートをバッツンバッツン切って振り分けて。いつもと違うのは、僕の声が入ってるってだけ(笑)。

──必要以上の思い入れや責任を背負い込んでるようなことは……。

ないない、ないです。あっけらかーんとしてましたよ。

──むしろモノノフ(ももクロの熱狂的ファン)たちのほうが背景にあるストーリーを大きく膨らませているという。

モノノフさんにはガッカリされるかもしれませんね(笑)。でも「『じょーじょーゆーじょー』だからがんばります!」みたいなのは、ももクロらしくないですよ。楽しい友情の曲なんで、楽しく歌ったほうが正解なんじゃないですかね。

メロディと歌詞をもっともっと大事にしていきたい

──「23時40分」やアルバム収録曲の「阪本さんのニャーというとでも思ったか」のようにアレンジを一任している楽曲だと「作曲家・前山田健一」の側面、メロディセンスがより浮き彫りになるというか。総合的なサウンドプロデューサーとして捉えられがちだけど、メロディメイカーとしての側面にも注目すべきところが大きいなと感じます。

いやあ、それはありがたいです。相当がんばっているところなので。もっともっと書けると思うんですよね。自分ではまだまだだと思っていて。もっと人の心を打つメロディが書きたいんです。テクニック重視、アレンジ重視というのもそれはそれでいいと思うんですけど。日本は音楽的にもガラパゴス化が進んでいると言われますが、それはとてもいいことで。それは「歌謡曲」という独自の文化に根差したガラパゴス化ですよね。歌謡曲が持つ叙情的なメロディだったり、ちょっとダサいけど心の琴線に触れるようなメロディだったり。僕はそういう音楽が好きなので、そこにもっと磨きをかけたいなという気持ちはありますね。

──「23時40分」はメロディメイカーとして、今までとは違った新たな側面が見えたように感じたのですが。

この曲はね、実は初めて詞先で書いたんですよ。まず最初に歌詞を全部書いて、そこからメロディをじっくり考えて。生まれて初めてじゃないかなあ、詞先は。メロディと歌詞をもっともっと大事にしていきたいなという気持ちが今はすごく強いですね。

──なるほど。今回はサウンドが今までと大きく違うから、よりメロディと歌詞に注目が集まるかもしれませんね。あとは歌手として……。

……どうしよう。どうしましょう? ねえ、どうしましょう。どうなんですか? これで歌番組に出ろって言うんですよ。うわあ。どうしましょう。「カカカタ」だったらなんとでもなるのにー。ねえ。ホント。「カカカタ」じゃマズいですか?

──このままじゃ半ベソかきながら終わることになりますけど(笑)、最後に何か読者の方に伝えておきたいことなどありますか?

あああ、ありがとうございますー(半ベソで)。

ヒャダイン
ニューシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」 / 2013年1月30日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / LACM-34060
通常盤 [CD] / 1200円 / LACM-14060
収録曲
  1. 23時40分 feat. Base Ball Bear
  2. パーレー
  3. ピアノ
  4. 23時40分 feat. Base Ball Bear(Instrumental)
  5. パーレー(Instrumental)
  6. ピアノ(Instrumental)
初回限定盤DVD 収録内容
  • 23時40分 feat. Base Ball Bear(MUSIC VIDEO)
ニューアルバム「20112012」 / 2012年11月28日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 3500円 / LACA-39254~5
通常盤 [CD2枚組] / 3000円 / LACA-9254~5
ヒャダイン

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を発表。2013年1月30日には通算6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」をリリースする。