ナタリー PowerPush - ヒャダイン

シリアス路線はSOS? 多忙なクリエイターの実情

「20112012」は「PIZZICATO FIVE TYO」

──せっかくなのでアルバム「20112012」についても聞かせてください。僕はこのアルバムが大好きで。

ありがとうございます。

──既発曲のバージョン違いの作り方とか、あえて多用されるフレーズや音色など、細かいところにピチカートイズム、小西イズムを感じました。

ええ、ええ。「2番!」の使い回しとかは「A New Stereophonic Sound Spectacular」と一緒ですね(笑)。

──「Hyadain Quest tuned by サカモト教授 -Interlude-」も方法論は「ウィ・ラヴ・ピチカート・ファイヴ」ですよね。

そういうことです。そのとおりです。「PIZZICATO FIVE TYO」のね。

ヒャダイン

──それを2010年代の空気感で表現しているというのがすごくいいなと。

ありがとうございます。まさに僕はこのアルバムを「TYO」や「PIZZICATO FIVE JPN」「PIZZICATO FIVE R.I.P」みたいな作品にしたかったんです。イントロにナレーションを入れてるのもそう。「ナレーションは服部潤でした」ってベタに小西さんっぽいじゃないですか(笑)。いろんな曲があるけども、流れを考えてストーリーを作って。

──そして最後に……。

「これはピチカートのオマージュだったんだぞ」ということで、野宮真貴さんが出てくるという。DISC 1の流れは完全に意識してますね。

「渋谷系」は音楽ジャンルじゃなくスピリット

──一方DISC 2は非常にノベルティ色の強い、あえて当てはめるならば大瀧詠一さんの一連の作品群のような。

ピチカートで言うなら「great white wonder」ですかね(笑)。レアトラック的なもの、どうしようもない曲を詰め込んで。そんな中で、昔ニコニコ動画に投稿した「MOTHER 2」のサントラアレンジ「トンズラブラザーズのテーマ」を豪華なメンバーでやり直してみたり。寄せ集め感のあるものにしたかったんです。

──1990年代に「渋谷系」と呼ばれたものが消えてしまったのは時代の必然だと思うんですけど、美学そのものが全く失われてしまうことにはさびしさを覚えていて。そんな中で、ヒャダインさんは頑に美学の部分を守り抜いているような感じがするんですよ。

ヒャダイン

今「渋谷系」ってワードを出しても誤解しか生まれないんであれですけど……渋谷系って、例えばトーレ・ヨハンソン的なサウンドだったり、最近はTomato n' Pineやバニラビーンズ、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)のソロ「太陽とえくぼ」みたいなサウンドを指して「渋谷系っぽい」って言われることもありますが、元来渋谷系ってサウンド的な志向じゃなくて、スピリットだと思うんです。なんでもかんでも取り入れて、自分の色に染め上げるものというか。ジャンルにとらわれず雑食で飲み込んでいくものだと思うんですよね。それをパッケージとしてストンと収めるのが渋谷系なんじゃないかなって。

──パッケージの美学という点で言うと、まず「20112012」は何よりタイトルが素晴らしいですね。「2年、狭っ!」っていう(笑)。字面の美しさと意味合いのマヌケさが、時代の空気感とともにパッケージされているみたいな感じがして、とても好きです。

ありがとうございます。これは一瞬で決まりました。「タイトルどうする?」って言われて「うーん、『20112012』で」って。なんかピンときたんですよね。ソロデビューしてからこれまでをまとめたものとして。

ほかにあまりいないから悪目立ちしてるだけ

──収録曲それぞれについて訊くとキリがないので、いくつかだけ。ソロデビュー作である「ヒャダインのカカカタカタオモイ-C」をアルバムの中で聴くと、相当ポップなのに複雑で奇妙な、不思議な曲だなと感じました。これは一体なんなんだろうと。

この曲はアニメ「日常」ありきで作った曲なのですが、いざ「ヒャダイン」としてシングルを出すとなるとすごく迷って。いろいろ考えた結果「渋谷系で行こう」と決めて。フリッパーズ・ギターの「カメラ!カメラ!カメラ!」をかなり意識してますね。イントロのメロディはあえてちょっと似せてたりして。ヘンな展開は、緩急付けようかなと思ってやってるうちに自然と。

──テンポチェンジや突然の転調はもはや“ヒャダインフォーマット”みたいな感じで定着してますけど、この作風はどうやって生まれたのかなとアルバムを聴いて改めて思ったんですよ。

でもテンポチェンジなんかは、昔の音楽にはもっとあったと思うんです。西城秀樹さんの「傷だらけのローラ」だってド頭から「ンローラーッ」ってゆっくりになりますよね。ああいった歌謡曲の流れにあるものだと僕は思ってるんですけど、単に今ほかにあまりいないから悪目立ちしてるだけで。クラシック音楽だって急に転調したり拍子が変わるのはザラだし。そこは僕ニュートラルに作ってるつもりなんですけどね。

ニューシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」 / 2013年1月30日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / LACM-34060
通常盤 [CD] / 1200円 / LACM-14060
収録曲
  1. 23時40分 feat. Base Ball Bear
  2. パーレー
  3. ピアノ
  4. 23時40分 feat. Base Ball Bear(Instrumental)
  5. パーレー(Instrumental)
  6. ピアノ(Instrumental)
初回限定盤DVD 収録内容
  • 23時40分 feat. Base Ball Bear(MUSIC VIDEO)
ニューアルバム「20112012」 / 2012年11月28日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 3500円 / LACA-39254~5
通常盤 [CD2枚組] / 3000円 / LACA-9254~5
ヒャダイン

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を発表。2013年1月30日には通算6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」をリリースする。