細野晴臣インタビュー

左から細野晴臣、安部勇磨。

特集前半では、細野のファンであることを公言しているnever young beachの安部勇磨(Vo, G)と共に細野のプライベートスタジオを訪れ、細野へインタビューを実施した。ここでは新作「Vu Jà Dé」の話を軸にしながらも、細野の名盤「HOSONO HOUSE」のこと、海外の音作りのことなどが語られた。

取材 / 安部勇磨(never young beach)、加藤一陽
文 / 加藤一陽
インタビュー撮影 / 相澤心也

「HOSONO HOUSE」のオリジナル盤はすごい

──今日は安部さんにもインタビュアーとして参加していただき、僕ら2人で細野さんにどんどん質問をしていこうと思います。その前に伺っておきたいのですが、細野さんは安部さんとお会いしたことは?

細野晴臣 ありますね。ここ(細野のスタジオ)にも来てくれたことがある。ラジオ(InterFM897「Daisy Holiday!」)にも出てもらったし。

安部勇磨(never young beach) はい。ラジオのとき、僕らが聴いている好きな音楽を細野さんにも聴いていただいたんです。「こういう音楽を聴いているんだね」って。その日のことで印象に残っているのは、「最近はこういう音楽の話をできる人がいなくなっちゃったんだ」って細野さんがおっしゃっていたことですね。

細野 そうそう。安部くんとは共通点が多かったんだよ。だから不思議な感じだったんだよね。話が合うから。YMOを聴いていた世代とはああいう音楽の話ができない。ほかの音楽を知らないから(笑)。

細野晴臣

──(笑)。安部さんはおいくつですか?

安部 27歳です。

──細野さんは今夏に70歳を迎えられました。言わずもがなですが、世代がだいぶ違います。「細野さんの音楽」とひと口に言っても時代によってさまざまですけど、安部さんは細野さんのキャリアのどのあたりがお好きなんですか?

細野晴臣「HOSONO HOUSE」ジャケット

安部 以前お会いしたあとに「HOSONO HOUSE」(1973年発売の細野のソロ1stアルバム)のアナログのオリジナル盤を買ったんです。これまでオリジナル盤は持っていなかったんですけど、お会いしたあとに「神のお導きだ」「買わなきゃいけない」「買うぞ!」と気合いが入ってしまって。

細野 いやいやいや……買ってくれるのはうれしいけど(笑)。

安部 それで初めてオリジナルを聴いて、感動したんです。「こんな音で録れるの!?」って。

細野 どこか違っていたの? それまで何を聴いていたんだろう?

安部 それまでは、アナログでもリイシュー盤とかを聴いていて。オリジナル盤は値段も高いし、レコードって安いものを買うのも楽しみの1つだったりするじゃないですか。

細野 そうだね。

安部 あとは正直、「そんなに変わらないんじゃないの?」って気持ちもありまして。それでも細野さんのことが大好きだから、オリジナル盤を買ってみたんです。それで聴いたらもう、「え? こんなに音がいいんだ!」って。

細野 そんなに? 自分じゃわかんないな。聴いたことない(笑)。

安部 僕、自分で録ったわけでもないのに、来る人来る人全員に「ちょっと座ってくれ、聴いてくれ!」って聴いてもらって。ドラムやベースの音がすごいし、「この空気感はなんなんだ」と。それで僕、オリジナル盤ってすごいんだってことに気が付いて、The Beach Boysのオリジナル盤を買ったんです。細野さんのときに感じた音のすごさを期待して。そうしたら細野さんのほうが全然すごかった。

細野 ウソ(笑)。それはどうかなあ……(笑)。

安部 いや、満場一致でしたよ。

──The Beach Boysは細野さんのルーツでもありますよね。

細野 そう。僕が中学生の頃で。当時はアナログ盤で聴いていた。

安部 そのあと人に「The Beach Boysのアナログ盤は当たり外れもあるし、昔は録るのも今より大変だったから、ある意味音が悪くなることもあるかもね」って教えてもらったんですけど。まあとにかく「HOSONO HOUSE」のオリジナル盤を聴いて、本当に感動して。それからまったくCDを聴かなくなってしまいました。値段が高くても、オリジナル盤とかに若い人が触れていかないといけないなって感じました。

細野 そうか、聴いてみたいな(笑)。

背筋がビッとしました

安部 僕、細野さんが使用しているマイクとかを勝手に調べていまして。「ライブとかで何を使うんだろう」とか。

細野 そうなんだ。僕、無頓着だから。

安部 いやいや(笑)。何かのインタビューで細野さんが、「技術が進歩すればするほどリアルな空気感でレコーディングができると思いがちだけど、実はそれは違っていて。ローファイってとても形がデコボコしているんだけど、逆にそれでリアルに録れることもある」というようなことをおっしゃっていて。

細野 そんなこと言ったっけかな。

安部 それを読んで、「そうか!」って思ったんです。「HOSONO HOUSE」のオリジナル盤を聴いたタイミングで読んだから、すごい衝撃で。最近自分でもそういうことを忘れていたなって。音をいかにキレイに録るかってことを考えすぎてマイキングをしていて、そういうことに「これってちょっと違うわ」って思ってしまうこともあるんです。

──ネバヤンはもともと宅録でスタートしたんでしたよね。

細野 へえ、自分でやってたんだ。

安部 はい。でも僕、当時は本当に相手にならないような……(笑)。パソコンを買うお金がなくて、TASCAMの4trのカセットMTRを買って。

細野 いいよ、TASCAM。いい音するんじゃないの?

──でも、安部さんはカセットMTRの世代ではないですよね。

安部 僕、キセルも好きなんですけど、キセルもカセットMTRを使っているって聞いて買ったんですよね。でも使い方がわからなくて、ダビングとかも全然できなかったんです。それで「1回置いておこう、パソコン買おうって」って。GarageBand(macOSやiOSのデバイスに標準でインストールされているDAWソフト)は簡単に使えるって聞いたんで。でも今度はオーディオインターフェースを買うお金がなくて、パソコン内臓のマイクだけで録音をしていました。

安部勇磨

細野 僕もよくパソコン内臓のマイクを使うよ。それでデモを録ってる。

安部 本当ですか! 最初は、部屋でアンプでギターを鳴らして録ったりしてたんです。音のよし悪しは人によるから一概には言えないと思うんですけど、今思えばあれはあれでリアルって言うか。なんか最近、自分にそういう気持ちが欠如していたなって思うんです。

細野 なるほどね。いいところに気が付いたよ。

安部 「Vu Jà Dé」や細野さんの一連の作品を聴いて、そういう気持ちを思い出しました。「Vu Jà Dé」も移動中に車で聴かせていただいたんですけど、音のよさとか空気感とか……あとは細野さんの声やギターやドラムにしても、全部近くで鳴っているような、部屋で鳴っているような感じで。「これ、すごいな」って。背筋がビッとしました。こういう気持ちを忘れてはいけないなって。

細野晴臣「Vu Jà Dé」
2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
細野晴臣「Vu Jà Dé」

[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3

Amazon.co.jp

DISC 1「Eight Beat Combo」
  1. Tutti Frutti
  2. Ain't Nobody Here But Us Chickens
  3. Susie-Q
  4. Angel On My Shoulder
  5. More Than I Can Say
  6. A Cheat
  7. 29 Ways
  8. El Negro Zumbon(Anna)
DISC 2「Essay」
  1. 洲崎パラダイス
  2. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
  3. ユリイカ 1
  4. 天気雨にハミングを
  5. 2355氏、帰る
  6. Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
  7. 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
  8. ユリイカ 2
  9. Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
  10. Pecora
  11. Retort ~Vu Jà Dé ver.~
  12. Oblio
細野晴臣(ホソノハルオミ)
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
  • 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
  • 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
  • 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
never young beach(ネバーヤングビーチ)
never young beach
安部勇磨(Vo, G)、松島皓(G)、阿南智史(G)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる5人組バンド。2014年春に安部と松島の宅録ユニットとして始動し、同年9月に現体制となる。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演する。2016年には2ndアルバム「fam fam」をリリースし、さまざまなフェスやライブイベントに参加。2017年7月にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。

2017年11月20日更新