リユース型サービス「BLONIA」特集|新たな形の“祝い花”が持つ可能性

NexToneが手がけるリユース型祝い花サービス「BLONIA」がローンチされた。

「BLONIA」はテキスタイルで作られたリユース可能な“祝い花”をコンサート会場などに贈ることができるサービス。祝い花に使用された生花の多くが短い期間で廃棄されてしまうという現実を受け、「生花に代わり“華”を添えられる新しい形のお祝い花が選択肢として存在してもいいのではないか」という思いから、著作権事業を中心に手がけるNexToneが開発した。テキスタイルで制作された祝い花2種類が現在展開されており、商品価格の一部をアーティストへの支援金などとして活用できるのも特徴だ。

“祝い花を贈る”という習慣に新たな視点をもたらすこのサービスは、いったいどのようにして生まれ、形になっていったのだろうか。プロジェクトの中心人物であるNexTone米山奈穂子氏、デザインを手がけた梶原加奈子氏、サステナブルな取り組みに強い関心を持つYonYonやエバンズ亜莉沙のコメントを交えつつ、「BLONIA」が持つ特長やそこに込められた思いを紐解いていく。

取材・文 / 張江浩司インタビュー撮影 / 入江達也

「BLONIA」公式サイト

祝い花は生花でなくてもいいのでは

節目を迎えたアーティストのワンマンライブの会場入口にずらっと並んでいたり、アイドルの生誕イベントのロビーで祭壇のように鎮座していたりするフラワースタンドを目にしたことがある人は多いのではないだろうか。もっと身近なところだと、新装開店したレストランの店先に飾られた胡蝶蘭を一度は見たことがあるはずだし、30代以上なら「笑っていいとも!」の「テレフォンショッキング」出演者に贈られた花輪を覚えているだろう(あれが少ないと観ているこちらも気まずくなったものです)。

こういった晴れがましい場面で贈られるのは「祝い花」と呼ばれるもの。海外でも花を贈るという行為は珍しいものではないが、欧米では花束やブーケがほとんどであり、祝い花はガラパゴス的な日本独自の習慣と言えるだろう。ちなみに韓国では「米花輪」という装飾された米袋を“推し”に贈る風習があり、こちらも独特なローカライズが施された文化だ。「何かおめでたいことがあったら祝い花を贈っておこう」というのは、シチュエーション問わず広く浸透している感覚だが、著作権管理を中心に事業を展開している株式会社NexToneの米山奈穂子氏はそこに疑問を持った。

「前職では音楽プロダクションに11年勤務していて、祝い花の発注や、主催公演に届く花をなるべくアーティストや社員で持ち帰る手配を担当していました。たくさんの応援の気持ちをお花という形でいただくのはとてもうれしく、感謝してお受けしつつも、すべてを持ち帰られない現実に『もったいない』と感じるようになりました。時代の変化とともにバルーンやキャラクターパネルなどが用いられるようになってきたので、祝い花は生花でなくてもいいのではないかと、繰り返し使える新しいスタイルの祝い花があったらいいなと考えるようになりました」(米山氏)

社内で新規事業の募集があり、さっそく米山氏は「リユース型祝い花」の企画を立案。そこから「BLONIA」はスタートした。

イベント会場に飾られた「BLONIA」の様子。

イベント会場に飾られた「BLONIA」の様子。

祝い花の風習がもっと自由になればいい

しかし、リユースとひと口に言っても、それをどう実現するかは難しい。単純に造花に置き換えただけでは、生花の劣化版に映ってしまう可能性もある。祝い花は応援や感謝の気持ちを表すものであり、儀礼的な意味合いも強いので、それは避けなければならない。リサーチを進めた結果、米山氏がコンタクトを取ったのは、テキスタイル(生地)デザイナーでKAJIHARA DESIGN STUDIOのCEO、梶原加奈子氏だった。

「余り布や糸など、テキスタイルの世界での廃棄問題に梶原さんが課題を感じているというニュース記事を拝見したんです。我々の課題ととても親和性があると感じ、プロデュースをご依頼しました」(米山氏)

これまでさまざまな分野の企業からの依頼でデザインやブランディングを請け負ってきた梶原も、今回のプロジェクトには初めは戸惑ったという。

「私も日頃から祝い花を贈ることも、贈っていただくこともよくあるんです。その日のうちに処分しないといけないのも『もったいない』とは思っていたのですが、それがどこか当たり前のことになっていたというか。そのフローに切り込むような視点にハッとしました。スタートの段階では『いかに祝い花から離れないか』が難しかったですね。別物になってしまってはお祝いの気持ちも伝わりづらくなってしまうので、祝い花という形のまま循環できるような仕組みにするにはどうすればいいか、それをテキスタイルでどう実現するか、というのが課題でしたし、面白いところでもありました」(梶原氏)

「BLONIA」のデザインを手がけた梶原加奈子氏。

「BLONIA」のデザインを手がけた梶原加奈子氏。

世界中のいろいろな事例を参照しながら話し合いを重ね、徐々に現在のスタイルにフォーカスが絞られていったという。生地は透明感と奥行きにこだわった。不透明な素材になると、「布を飾っている」という印象が強くなりすぎてしまい、祝い花から離れてしまう。また、リユースされるということは、何度も回収されて再利用されるということだ。祝い花は野外に置かれることもあるし、雨風に晒されることもある。それに耐えうる強度も併せ持っていなければならない。さらに、透明感のある生地に遠くからでも目を惹くような大胆な花柄を立体感がある織物で表現することは技術的に非常に難しい。梶原が望むようなデザインを実現できる機械が日本にはなく、トルコの工場に発注して試作を始めることになった。

「インパクトがありつつも、周りの環境になじむようなバランスを意識しました。私の事務所のあらゆるところに置いてみて、どのように目に入ってくるかということを確認しながら検討していきましたね。BLONIAが普及することで、祝い花の風習がもっと自由になればいいと思っているので、初めて見た人にも『これもありだな』と思ってもらえるちょうどよさが必要というか。デザインだけじゃなく、BLONIAは一度の注文で回収までやってくれるシンプルさや、価格の一部がアーティストさんへの支援金や寄付金になるシステムも特徴なので、贈る側にもいろいろなメリットがあると思います」(梶原氏)

「BLONIA」のデザインを手がけた梶原加奈子氏。

「BLONIA」のデザインを手がけた梶原加奈子氏。

「BLONIA」の生地。

「BLONIA」の生地。

BLONIAの特長はリユースによって廃棄を減らせるだけではない。アーティストへの応援の気持ちを祝い花という形だけでなく、より具体的な支援金として贈ることもできるのだ。受け取ったアーティストは、この支援金を寄付に回すことも可能で、ローンチ現在は日本赤十字、地球環境基金、日本財団、日本音楽教育文化振興会の4団体から寄付先を選ぶことができる。

循環する環境への入口に

先日、音声プラットフォームVoicyにてBLONIAに関する鼎談が配信された(参照:《リユース型祝い花サービス「BLONIA」とは?》インタビュー)。参加したのは米山氏と、渋谷で開催されている都市型ミュージック&カルチャーフェスティバル「SYNCHRONICITY」のサステナビリティディレクターであるエシカルコーディネーターのエバンズ亜莉沙、DJ / シンガーソングライターのYonYonの3名。「SYNCHRONICITY'25」にはBLONIAの祝い花が掲出されており、初めてBLONIAを目の当たりにした2人はこう感想を述べた。

「思ったよりサイズが大きくて華やかで、存在感がありました。大きくて繊細な織物がボーンとあるので、会場も華やかになりますよね。私もよくイベントに出演する際に祝い花をいただくことがあるんですよ。例えば自分が主催したイベントやリリースパーティには大きなお花をいただくので、とってもありがたいですけれど、それを全部持ち帰ることって本当に難しくて。何本か持って帰って、残りは会場さんに処分していただくことが多く、心苦しいところがありました。やはり環境問題は私たちの活動にも関わってくるので、このような取り組みが広がることでより多くの人たちが行動に移すきっかけになればなと思いましたね。あと、実は祝い花をアーティスト同士でも贈り合ったりするんですよ。仲のいいミュージシャン友達のワンマンライブとかに祝い花を贈る際に、もっと手軽なサイズのBLONIAがあると、よりカジュアルにできるなと思いました」(YonYon)

「今年の『SYNCHRONICITY』は、服の廃棄問題にフォーカスを当ててグッズを作ったり、リサイクル服の回収をやったり、力を入れてやらせていただいたんですけど、BLONIAはテキスタイル業界の環境問題と、生花業界の廃棄問題を重ねて考えるきっかけになりますよね。また、あまり知られていないかもしれないですけど、日本国内で栽培されているお花のおよそ99%は農薬が使われていると言われています。BLONIAが普及すれば、そういった環境負荷の高い農業もちょっと減っていくかもしれないし、いろいろな部分に貢献できるんじゃないかと思います」(エバンズ)

ただ生花が布に置き換わっただけでなく、隣接する領域がそれぞれ影響し合って社会を少しずつポジティブな方向に動かしていく。スタートしたばかりのプロジェクトだが、一歩ずつ効果を確かめながら進めていく予定だという。

まだBLONIAを目にする機会は少ないが、「SYNCHRONICITY'25」をはじめ、掲出された会場では多くのオーディエンスがスマホで写真を撮っていた。こだわり抜いて作られたテキスタイルとデザインには、否が応でも人を惹き付けるパワーがあるようだ。好きなアーティストのライブに行き、エントランスに飾られている珍しい祝い花を「なんだかきれい、面白い」と思って眺めていると、それが循環する環境への入り口になる。BLONIAはそういったポテンシャルを秘めているのかもしれない。

「BLONIA」

「BLONIA」

「BLONIA」公式サイト

プロフィール

梶原加奈子(カジハラカナコ)

テキスタイルデザイナー。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業後、イッセイミヤケテキスタイル企画を経て渡英し、Royal College of Artでファッション&テキスタイルデザイン修士課程を修了。KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.を設立し、テキスタイル、ファッション、空間、ホテルなどさまざまな分野の企業との取り組み、クリエイティブディレクターとしてブランディングやデザインを行っている。日本産地の繊維工場を結集したジャパンテキスタイルブランド「KANA COLLECTION」を監修し輸出事業の拡大や、「ファクトリーの未来づくり」シンポジウムを定期開催し、地域創生とグローバル化につなげる活動を続けている。

YonYon(ヨンヨン)

韓国生まれ、東京育ちのクリエイター。DJ、シンガーソングライター、音楽プロデューサー、ラジオパーソナリティなどマルチに活動している。日韓のプロデューサーとシンガーを楽曲制作という形でつなぐプロジェクト「The Link」を経て、自身主宰の音楽レーベル・Peace Treeを2021年に立ち上げた。2025年4月に新曲「Moonlight Cruising feat. KIRINJI」をリリースした。

エバンズ亜莉沙(エバンズアリサ)

エシカルコーディネーター。アメリカ・オレゴン州での生活をきっかけに、社会課題や環境問題に強い関心を持ち、日本へ帰国した2015年にエシカル協会のコンシェルジュ認定を取得。その直後、地球1周の旅をしながら現在の肩書きでの活動をスタートさせた。「エシカル」「サステナブル」をキーワードに、人と地球に優しい暮らしの実践と提案をライフワークとする。イベント企画やトークショーのモデレーター、サステナブルなプロジェクトやブランドのディレクション、PRなどで幅広く活動。2021年、ポートランドに暮らすグラフィックデザイナーの兄とともに、デザインの力で美しいものを美しく広めるPrettysimple Studio Co.を設立した。