ナタリー PowerPush - Base Ball Bear”

普通ってなんだ?「二十九歳」完成までの苦悩

Base Ball Bearが最新アルバム「二十九歳」をリリースした。バンドの最高傑作と言われた前アルバム「新呼吸」から約2年7カ月の時を経て、彼らが今見ている景色はどのようなものなのか? 発売を目前に控えたメンバー全員に語ってもらった。

取材・文 / 宮崎敬太 インタビュー撮影 / 佐藤類

構想3年、制作4カ月

左から堀之内大介(Dr, Cho)、関根史織(B, Cho)、小出祐介(Vo, G)、湯浅将平(G)。

──「二十九歳」はかなりひさしぶりのフルアルバムになりますね。

小出祐介(Vo, G) ですね。でもこのアルバム、実制作の期間はだいたい4カ月くらいなんですよ。構想に3年もかかっちゃったから。リリースまでのスケジュールを動かせなかったこともあって、シングル曲以外は今年に入ってから大急ぎで全部作りました。そのためのアイデア出しを年明けてすぐくらいから僕が街のスタジオに1人で入ってやってたんです。

関根史織(B, Cho) 曲の1フレーズとか、Aメロだけとか断片的な小ネタをこいちゃん(小出)がかなりたくさん作ってきたんです。それをスタジオでメンバー4人で1つずつ形にしていって、良し悪しやアルバムに入れるか入れないかを判断していきました。

小出 今回はサウンドと歌詞でそれぞれ別のテーマを設定してて。歌詞とサウンドを一緒に作ると、サウンドがどうしても歌詞に引っ張られてしまう。アンニュイな言葉を考えてると、アンニュイな音になってしまうみたいな。前作の「新呼吸」は歌詞も音もアンニュイな作品だったからそれでもよかったんだけど、今回はもっと別のサウンドを求めていたので、歌詞とサウンドは別々に作業したかったんです。

堀之内大介(Dr, Cho) 僕らにとっては今回の作業はすごい新鮮でしたね。こんなふうにアルバムを作ったことはなかったし、バンドとしての新たな制作スタイルを見つけたような感じ。

関根史織(B, Cho)

関根 うん。プリプロのとき、すごくクリエイティブで楽しい時間だったもん。みんなからいろんなアイデアがポンポン出てきて。

──ちなみに歌詞はいつ書いたんですか?

小出 みんながスタジオでプリプロしている合間ですね。だから歌入れに来てないメンバーは、かなり最終段階で知ったんじゃないかな。

湯浅将平(G) 僕が歌詞の内容を知ったのはマスタリング後でした(笑)。

小出祐介の考える新しいギターロックの可能性

──では、今回のアルバムではどんなサウンドを求めていたんですか?

小出 ギターロックとしてカッコいいものを作りたかったんですよ。

──小出さんは以前のインタビューでは「僕がやりたいことは『ギターロックってこういうことだよね』という幅を広げること」(参照:Base Ball Bear「THE CUT」特集)と発言していますよね。

小出 はい。そこには並々ならぬこだわりがあって。今のギターロックシーンでは“それなりのBPMで四つ打ち”っていうスタイルが主流なんです。実際に夏フェスとかだとそういう曲が盛り上がるし。

──でしょうね。

小出 で、僕らのデビューシングル「ELECTRIC SUMMER」はまさにそういう曲なんです。“それなりのBPMで四つ打ち”っていう。当時はそんな感じの曲、ほとんどなかったんですよ。僕らはそれを自分の持ち味だと自負してたし、僕自身にとって気持ちいいものだと思ってずっとそれをやってきたんだけど、だんだんそのスタイルが当たり前になってきて、今ではフェスで騒ぐためのツールみたいになってきた。

──テンプレート化してきた、と。

小出 そう。結果、僕らは今「ELECTRIC SUMMER」みたいな曲がめっちゃやりにくい(笑)。別にそんな機能的な曲として作ったつもりじゃないのに。でもやっぱり夏フェスとかだと会場はすごく暑いし、体力の消耗も激しいから、ゆったりと長い曲とかはやれないんですよ。やれるけど、お客さんの集中力が持たないんですね。だったら最初から最後まである程度のテンポ感でバンドが引っぱっていったほうが、観てるほうも楽しめる。

──そういうものなんですね。

小出祐介(Vo, G)

小出 そういうものなんです(笑)。でも僕、もういいかなって思ってるとこがあって。お客さんが“それなりのBPMで四つ打ち”みたいな曲を求めてても、僕たちは自分の思うカッコいいギターロックを追求するべきだと思ったんですよ。だってお客さんのそういう要求に身を委ねてしまったら、同じようなサウンドをエクストリーム化させていくだけになってしまうから。

──それは「『ギターロックってこういうことだよね』という幅を広げること」にはつながらないですよね。

小出 そうなんですよ。だからお客さんが求めるものとは違ったとしても、自分が自分らしく演奏できる曲を作るべきだと思ったんです。それでいて夏フェスみたいな場面でも会場の空気を壊さないようなギターロック。それをちゃんと形にしようって。

──今回のアルバムではそれが実現できたと思いますか?

小出 はい。

ニューアルバム「二十九歳」/ 2014年6月4日発売 / EMI Records
「二十九歳」
初回限定盤 [CD+DVD] 3780円 / UPCH-29167
通常盤[CD] 3165円 / UPCH-20353
CD収録曲
  1. 何才
  2. アンビバレントダンサー
  3. ファンファーレがきこえる(Album Mix)
  4. Ghost Town
  5. yellow
  6. そんなに好きじゃなかった
  7. The Cut feat. RHYMESTER(Album Mix)
  8. 方舟
  9. The End
  10. ERAい人
  11. スクランブル
  12. UNDER THE STAR LIGHT
  13. PERFECT BLUE(Album Mix)
  14. 光蘚(Album Mix)
  15. 魔王
  16. カナリア
初回限定盤DVD収録内容
  • メンバーによる初の公式インタビュー
  • 2014年4月4日、TOUR「光蘚」ファイナル 名古屋ボトムラインでの最新ライブ映像 (全6曲収録)
Base Ball Bear(ベースボールベアー)

小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。2006年4月にミニアルバム「GIRL FRIEND」でメジャーデビューを果たした。2010年1月には初の日本武道館単独公演を実施。さらに全国のさまざまなライブやイベント、フェス出演も精力的に行なう。近年は他アーティストとのコラボレーションも盛んになり、2012年に7月に発表したミニアルバム「初恋」でヒャダインや岡村靖幸と、2013年6月リリースのミニアルバム「THE CUT」では、RHYMESTERや花澤香菜と、それぞれ共演している。2014年6月に約2年7カ月ぶりとなるフルアルバム「二十九歳」を発表。同年9月からは全国のライブハウスを回るツアーも実施する。