TuneCore Japan野田威一郎インタビュー|「Unlimitedプラン」をローンチした狙いは

Apple MusicやSpotifyなど、世界185カ国・55以上のプラットフォームに自身の楽曲を配信できる音楽ディストリビューションサービスのTuneCore Japanが、「Unlimitedプラン」をローンチした。これまでTuneCore Japanではシングルをリリースするには年間1551円、アルバムは年間5225円というPay Per Releaseプランを採用しており、リリース数が増えれば増えるほど配信にかかる費用も増加する傾向にあった。しかし新たに始まった「Unlimitedプラン」では、年額で何曲でも配信し放題となる。「スターター」「スタンダード」「プロ」「エンタープライズ」の4グレードがあり、「スターター」は年間4400円というリーズナブルさ。もちろん収益は100%還元だ。同社は「あなたの音楽でセカイを紡ぐ」をビジョンとして掲げているが、今後はますますその動きが加速するだろう。破格とも言える「Unlimitedプラン」をなぜ今このタイミングでローンチすることになったのか。同社代表の野田威一郎氏にその狙いを聞いた。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 小原泰広

「Unlimitedプラン」を始めた狙い

──今回スタートした「Unlimitedプラン」とはどういったものなのでしょう?

今までTuneCore Japanが提供してきたサービスは、1リリースごとに年間従量料金をお支払いいただいて、収益は100%還元するというものでした。曲数が増えると料金も積み上がっていくビジネスモデルでしたが、Unlimitedプランは年間固定費でリリースし放題、好きなタイミングで何曲も出せるし、もちろん収益は100%還元です。TuneCore Japanがローンチした13年前はまだCDが根強くて、世界に向かって配信するというだけでニュース性があった時代でしたが、2015年以降ストリーミングが普及してきた中で、デジタル配信するのはアーティスト活動するうえで当たり前になりました。

──「サブスクで配信しない」というほうがニュースになりますよね。

今となってはそうですよね。そういった環境の変化もあり、利用者の平均年齢も下がっているので、経済的にもいろいろな状況にいるアーティストに対応できるようなプランを用意させてもらいました。海外の状況を鑑みると、こういったリリースし放題のプランが主流になりつつあるんですね。日本のアーティストだけ違うモデルのもとで活動していては、不利益につながってしまう。僕らは国内では大手のディストリビューターとしてやらせてもらっているので、我々が海外スタンダードに準じていかないといけないなと。海外では本当にものすごい数の曲が毎日リリースされているので、海外でも聴かれることを目指すにしても、現状では物量で圧倒的に負けているんです。日本の音楽を見つけてもらおうとしても、膨大な楽曲の中に埋もれてしまうんですよね。この状況は近年さらに加速しているので、日本のアーティストもなるべく世界に追いつけるようにしたいというのがUnlimitedプランを作った動機の1つです。

野田威一郎

──確かに、リリースする曲が増えるごとに料金がかかるとなると、大量に楽曲を配信できるアーティストは限られますよね。

アーティストの視点に立つと、リリース数が多いほうが収益も増えるんです。12年間ディストリビューターをやってきて見えてきたデータなんですが、従量制だと「この1曲でリリース費用をリクープできるのか」と尻込みする人も多いんですね。これはもったいないなと。継続的にリリースすることが重要なので。YouTubeも、毎日のように動画をアップすることが大事だと言うじゃないですか。音楽の場合、毎日は無理ですけど露出回数が増えればそれだけチャンスも増えますから。Unlimitedプランに移行することで、今まで支払っていた費用より安くなるユーザーも多いと思います。昔はシングルを出して、その曲が収録されているアルバムを出して、という流れがありましたよね。今後は複数曲でのリリースもしやすくなるので、物語性の強いアルバムなど、配信の仕方も変わっていくといいなと期待しています。

──シングルでもカップリング的に2、3曲収録したり、コンセプトを持たせられますよね。

楽曲の発表のやり方に、かなり多様性が出てくると思います。今までは、あまり収益が見込めない楽曲を一度取り下げるユーザーもけっこういたんですが、今後はそういった曲も残したまま次のストーリーを展開していけるので。皆さん、「あまり再生されないかもしれない」という理由で出し渋っている曲もあるみたいなんですよ。でも、発表してみないとリスナーの反応はわからないと思うんですよね。自分が納得していないならもちろんリリースする必要はありませんが、迷っているなら出したほうがいい。反応を自作にフィードバックして、ブラッシュアップしてくこともできますからね。

──経済的なハードルがぐっと下がったことで、音楽的なジャッジに集中できると。

そうですね。金銭的なことはなるべく考えなくていいようにして、「配信しようかどうしようか」と迷っている背中を押せるようなプランになっていると思います。

「Unlimitedプラン」内の4つのグレード

──Unlimitedプランには、さらに4つのグレードがあるそうですが、それぞれどういったユーザー層を想定しているのですか?

スタータープランは名前の通りで、これから配信を始めてみたいという方や若年層に向けています。年間4400円、ひと月約366円で牛丼1杯よりも安いですから、無制限で配信できるという体験を手軽に味わってみてほしいですね。ほかのプランに比べるとやれることには制限がありますが、自分の曲が世界中に届いて、聴かれた分だけお金が返ってくるというフローは変わらないので、人によってはこのプランで十分という可能性も大いにあると思います。スタンダードプランは、もともとTuneCore Japanで提供していたサービスにかなり近いメニュー設計になっていて、今までもチューンコアを使っていて、シンガーソングライターなどの1アカウントで1アーティストの楽曲のみを配信している人に適しています。レポートのアナリティクスも使えますし、今までとほとんど同じ機能のままリリースし放題になったという感じですね。

──プロプランはいかがでしょう?

年間2万3100円なのでほかのプランに比べると高額なんですが、機能がフルで使えます。サブミット機能や、複数アーティストによるコラボリリースもできますので、プロレベルの活動に十分対応可能です。もちろん、まだプロではない方々に使っていただいて可能性を広げていただくこともできるので、我々としてはプロプランをオススメしたいですね。さまざまな機能をうまく使っていただいて、収益性やファン層を広げていっていただければと。プランは途中で変更することもできるので、スターターから始めて状況に応じてスタンダード、プロにアップグレードしてくのもありだと思います。最後に、エンタープライズプランは法人登録している方のみが使えるプランで、複数人でのアカウント管理ができます。

──スタータープランの安さも魅力的ですが、プロプランの機能の充実ぶりもすごいです。

さまざまなコラボレートを通して活動の幅を広げていくアーティストが多いので、プロプランは重要になってくると思います。先月始まったばかりのサービスなので、今後いろんな機能を各プランに追加していく予定です。

──先ほど、「Unlimitedプランに移行することで、今まで支払っていた費用より安くなるユーザーも多いと思います」とおっしゃっていましたが、TuneCore Japanはこれでどうやって儲けを出すつもりなんだ?と心配になってきました……。

すでにチューンコアを使っていただいている皆さんが合理的に動くと、僕らはマイナスになります(笑)。未来を見据えてというか、Unlimitedプランがしっかりサービス提供できて、若い世代に継続的に利用してもらえるようになれば、そのマイナス分は担保できるというビジネスプランを立てているので。

──長い目で見て音楽業界の活性化につながれば、という。

もちろんそれもありますし、従来のモデルを続けるよりも将来的には収益も上がっていくと考えています。

──Unlimitedプランを開始してからの反響はいかがですか?

移行する人たちは徐々に出てきましたね。まだ皆さん様子見というか、思ったよりもスタータープランが多いです。まだ数週間しか経っていないのでここからというところですが、反応はすごくいいですね。