ナタリー PowerPush - Base Ball Bear
小出祐介×宇多丸×Mummy-D 「The Cut」ができるまで
Base Ball Bearの3rdミニアルバム「THE CUT」は、バンドの多面的な音楽性とボーダーレスなアティチュードが痛快なまでに形象化された作品となった。そして、リード曲「The Cut」のフィーチャリングゲストとして参加しているのは、小出祐介が長年リスペクトしていた日本語ラップの雄・RHYMESTER。グルーヴィかつシームレスな緩急がつけられたサウンドをバックに、鋭い「現代人批評と声明」を打ち出す歌とラップのマイクリレーが刺激的に展開していく。今回ナタリーでは小出、宇多丸、Mummy-Dへのインタビューを実施。初のコラボレーションに至った経緯からディープな制作秘話までたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) 撮影 / 福本和洋
無形だからこそできたコラボ
──まずは今回のコラボレーションに至った流れを小出くんから語ってもらえますか。
小出祐介 まず、昨年7月にリリースしたミニアルバム「初恋」でヒャダインさんや岡村靖幸さんとコラボして。今回のミニアルバムでもさらに踏み込んだコラボものをやりたいと思いまして。迎えるゲストとして真っ先に上がったのがRHYMESTERだったんです。
──小出くんは以前からRHYMESTERに強いリスペクトを持っていたんですよね。そもそもラッパーを目指していたこともあったくらいだし。
小出 そうなんですよ(笑)。中3から高1にかけて本気でラッパーになりたいと思っていた時期があって。
宇多丸 へえ、そうなんだ。
小出 はい。でも、声質的に向いてないなと思ってあきらめたんですよ。それから映画監督になりたいと思って映画をずっと観る生活を送っていたんですけど、バンドメンバーが見つかったのでBase Ball Bearを組んだんです。
Mummy-D そんな背景があったんだね。
──岡村さんといい、今回のRHYMESTERといい、学生時代に憧憬を抱いていた先達たちと交わる流れが続いているわけですけど、意識的にそういう流れを作っているんですか?
小出 そうですね。うちのバンドの強みって、実は無形であることで。そもそも最初からどういうバンドになりたいというビジョンがあったわけじゃなかったから。例えば「AEROSMITHみたいにビッグなロックバンドになろうぜ!」とか「いつか武道館でライブやろうぜ!」みたいな、わかりやすい目標を掲げたこともなくて。だからこそ、どんな表現をしてもいいバンドなんだと自分で思っているんですね。音楽的な軸はギターロックであることは前提なんだけど。
──むしろそれだけとも言えると。
小出 そう。だから僕がやりたいことって「ギターロックってこういうことだよね」という幅を広げることにあって。一般的なギターロックのイメージって、8ビートで疾走感のあるサウンドみたいなところから始まっていると思うんですけど、それを拡張していくというか。「ギターロックってどこまでギターロックって言えるんだろう?」っていう。昔、「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」で、「アイスコーヒーはどこまでアイスコーヒーなのか!? アイスコーヒーの限界に迫る!!!」という企画があったんですけど。
──ああ、あったね(笑)。喫茶店でアイスコーヒーを注文するときに、どれだけ「アイスコーヒー」という言葉を崩してもオーダーが通るのか。その限界を探るという企画ね(笑)。
小出 そうそう。最終的には松本(人志)さんが「欧陽菲菲(オーヤンフィーフィー)」って言っても注文が通るっていう(笑)。
──完全に「欧陽アイスコーヒー」って言ってたけどね(笑)。
小出 (笑)。ああいう感じで、僕らはどこまでギターロックって言えるのかという挑戦であり、検証をしているバンドだと自覚しているんです。
──その挑戦と検証を、長年リスペクトしていたアーティストと交わることで濃厚に、濃密にやろうと。
小出 そういうことですね。僕の学生時代のヒーローって、ポップの王様が岡村さんで、ギターロックの王様がNUMBER GIRLとTRICERATOPSで、ヒップホップの王様がRHYMESTERだったので。あの頃の自分に自慢したい感じもありつつ、このタイミングで交わらせてもらうことで、Base Ball Bearの無形の面白さがスパイラルしていけばいいなと。
「え、小出くん、歳いくつ!?」
──2組の交流自体もこれまでほぼないに等しい感じでしたよね?
宇多丸 フェスの会場とかで挨拶したことはあったけど、ちゃんと話したのはついこないだだよね。
小出 そうですね。今年の1月3日に武道館で開催されたユーミンさんの40周年イベント(「Anniversary For Yuming~Golden Circle Vol.17~」)の打ち上げのときですね。そのときは、とにかくムッシュかまやつさんが面白すぎて。ムッシュさんが一晩で50回くらい「ガチで」って言うくらい勢いがあって(一同笑)。ほろ酔いのDさんは「俺もう、ムッシュと長年の親友みたいに思えてきたよ!」って言っていたり(笑)。
Mummy-D マジでそう思えちゃうんだよね。すごいよね(笑)。
──そんなムッシュさん旋風が吹く中、小出くんはお2人とどんな話をしたんですか?
小出 あのときは宇多さんとけっこう話したんですよね。
宇多丸 そうだね。アイドルの話や特撮の話をして。そのときビックリしたんですよ。アイドル事情とかかなり詳しいと噂には聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかった。アイドルだけじゃなくて、なんでも詳しいみたいな。
──さまざまなカルチャーに造詣が深いですよね。広く浅くじゃなくて、どれもかなり深いところまでディグっていて。
宇多丸 そうそう。会話のキャッチボールをしていて、どんな球を投げても豪速球で返してくるみたいな。「え、小出くん、歳いくつ!?」っていう。いやあ、ここまでの人物とは……という感じでした。で、あまりに面白いから、コラボする云々の前に「とりあえず僕のラジオ(「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」)にゲストで出てください」ってお願いして。
──で、2月16日に放送された「タマフル」で「良質なアイドルソング特集 by Base Ball Bear小出祐介」という企画が実現して。
宇多丸 そうなんですよ。放送でも見事な語り口と音楽的なロジックでアイドル音楽の魅力を解説してくれて。こういう人が出てきたら、俺の出る幕はもうないなと思ったんですけど。
小出 いやいやいや(笑)。
宇多丸 で、そこからコラボの話も決まって。
小出 実はけっこう前からオファー自体はさせていただいてたんですよね。
Mummy-D あ、そうなんだ。
小出 ただ、ずっとタイミングが合わなくてついに応えていただいたという感じで。
宇多丸 アルバムの制作とか、俺たちがスケジュール的にいっぱいいっぱいになっていたんだと思う。
- Base Ball Bear ミニアルバム「THE CUT」/ 2013年6月26日発売 / EMI Records Japan
- 初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
- 初回限定盤 [CD] 2000円 / TOCT-29173
- 通常盤 [CD] 1600円 / TOCT-29174
-
収録曲
- The Cut -feat. RHYMESTER-
- ストレンジダンサー
- 恋する感覚 -feat. 花澤香菜-
- 64-Minute Live Track From “バンドBのゆくえツアー”(2013/4/25 赤坂BLITZ & 4/28 札幌CUBE GARDEN)
CRAZY FOR YOUの季節 / GIRL FRIEND / 17才 / Tabibito In The Dark / kimino-me / 抱きしめたい / yoakemae / 真夏の条件 / 若者のゆくえ / 祭りのあと
初回限定仕様
- EPレコードサイズの特製紙ジャケット
- 20ページのフォトブックやポストカード、ポスター同梱
Base Ball Bear(べーすぼーるべあー)
小出祐介(Vo, G)、関根史織(B, Cho)、湯浅将平(G)、堀之内大介(Dr, Cho)からなるロックバンド。2001年、同じ高校に通っていたメンバーによって、学園祭に出演するために結成された。高校在学中からライブを行い、2003年11月にインディーズで初のミニアルバム「夕方ジェネレーション」をリリース。その後も楽曲制作、ライブと精力的な活動を続け、2006年にメジャーデビューする。2007年には「抱きしめたい」「ドラマチック」「真夏の条件」「愛してる」といったシングルや、アルバム「十七歳」を立て続けに発表。2010年1月には初の日本武道館単独公演を開催した。バンド結成10周年を迎えた2011年には、シングル3枚とアルバム「新呼吸」を発表。2012年は2度目の日本武道館公演を皮切りに活発なライブ活動を展開し、2013年2月に初のベストアルバム「バンドBのベスト」とシングル「PERFECT BLUE」を同時リリースした。同年6月にRHYMESTERをフィーチャリングゲストに迎えた「The Cut」などを含むミニアルバム「THE CUT」を発表。
RHYMESTER(らいむすたー)
宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」をリリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動を再開する。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINは他アーティストのプロデュースなども行っている。2010年にアルバム「マニフェスト」、2011年にアルバム「POP LIFE」とミニアルバム「フラッシュバック、夏。」をリリース。2013年1月には9thアルバム「ダーティーサイエンス」を発表した。