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生きることに迷うすべての人に── 珠玉の7編「ワンルーム叙事詩」

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青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心とするバンド、amazarashiが、メジャー移籍2枚目となるアルバム「ワンルーム叙事詩」をリリース。本作には、歌詞とは異なる「詩」を収録した詩集も封入され、amazarashiの強烈な言葉の世界を多面的に味わうことができる。今回はアルバム収録曲から「クリスマス」のPVをフルサイズで公開する。

生きることに迷い、生きることの意味を問う。不安に押しつぶされそうになれば、ふがいない自分を責め立ててみたくもなるし、すべてがどうでもよくなってあきらめが顔を出す瞬間もある。だが、絶望するには早すぎる。未来という言葉の正体を確かめるまでは終われない。ならば救いようのない自分を、白けた世界をほんの少しでも愛してみてもいいかもしれない。ならば──生きていこう。

amazarashiというバンドが吐き出すのは、生々しいほどの“生”だ。時にロマンチシズムに満ち、時に過激さを秘めた言葉たちと、それをストレートに伝えることを重視したシンプルかつ美しく洗練されたサウンドによって、聴き手には圧倒的な“生”を宿した鮮明な景色が襲ってくる。

11月24日にリリースされる新作「ワンルーム叙事詩」。そこにもまた、暗闇にわずかに射しこむ光を辿るように、生きることと真正面から向き合って紡がれたであろう楽曲たちが収録されている。

疾走するサウンドに乗せて、良いことも悪いこともすべてを奇跡として受け入れる覚悟を歌うオープニングナンバー「奇跡」。深々と雪が降る景色を想起させながら冬の特別な1日を通して世界への希望を願う「クリスマス」。節操なく“願えば叶う”と口にする無責任な者たちへ唾を吐きかける「ポルノ映画の看板の下で」。ポエトリーリーディングの手法を使って胸の内に広がるさまざまな思いをぶつけ続け、ラストで“僕は僕を愛したい”という叫びに帰結する力強い小編「ポエジー」。自ら火を放ち、燃えていく部屋を眺めながら“人生って奴には負けるわけにはいかない”と過去との決別を歌うタイトル曲「ワンルーム叙事詩」。道端で朽ちているコンビニ傘の様子を眺めながら、冬の雨に心を打たれる「コンビニ傘」。そして、積もっていく雪にセンチメンタルな思いを重ね合わせた感動のミディアムナンバー「真っ白な世界」でアルバムはエンディングを迎える。

寒い冬の景色に寄り添った全7曲。そこには、巷に溢れるあっけらかんとした、能天気な明るさは、ない。だが、聴き心地はまったくもって重くもないし、暗くもない。いやむしろ、歌詞に広がるメッセージは誰もが決して目を背けることができないものであるだろうし、そのサウンドスケープは多くの人に刺さるであろうポピュラリティすら持っているように思う。姿を見せない活動形態を含め、amazarashiのアイデンティティはシーンの中で特異に映ることがあるのかもしれない。だが、その音楽性に関してはこう断言しても問題ないはず。

これは、生きることに迷い、生きることの意味を問うている、僕らのための歌だ。

文/もりひでゆき

ニューアルバム「ワンルーム叙事詩」 / 2010年11月24日発売 / 1800円(税込) / Sony Music Associated Records / AICL-2195

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CD収録曲
  1. 奇跡
  2. クリスマス
  3. ポルノ映画の看板の下で
  4. ポエジー
  5. ワンルーム叙事詩
  6. コンビニ傘
  7. 真っ白な世界
amazarashi(あまざらし)

青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を2009年12月に発表し、翌2010年2月にその全国盤「0.6」をリリース。その後ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズへ移籍し、2010年6月に第1弾作品「爆弾の作り方」を発表。アーティスト本人の露出がないまま、口コミを中心に話題を集めていく。11月にメジャー第2弾となる7曲入りアルバム「ワンルーム叙事詩」をリリース。