コミックナタリー PowerPush - 劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」

虚淵玄×深見真の脚本家対談 「理詰め」と「カオス」の相乗効果

天野明がキャラクター原案を務め、フジテレビ「ノイタミナ」枠ほかで放送されたSFポリスアクションシリーズ「PSYCHO-PASS サイコパス」が、2015年1月9日より劇場版としてスクリーンに登場する。

その公開を目前に控え、コミックナタリーでは、ストーリー原案・脚本を担当した虚淵玄(ニトロプラス)と、共同で脚本を担当した深見真の2人にインタビューを行った。気になる劇場版の内容はもちろん、「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズ全体についても、興味深いエピソードが多々飛び出した。劇場に足を運ぶ前に、息のあった2人の熱いトークに、ぜひ耳を傾けてほしい。

取材・文/前田久

 
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虚淵玄×深見真の脚本家対談

1期でやり残した「国外」と「アクション」

──「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」の制作にあたっては、メインスタッフのみなさんで、どのような方針を立てられたのでしょうか?

虚淵玄 まず、スタッフ全員で「1期でやり残したことをフォローする形でやろう」という話をしました。そのうえでふたつ柱になったのが、「1期では国内の話しかしなかったので、国外の話をしよう」ということと、「1期でわりと控えめに終わってしまったアクションシーンを盛りだくさんにしよう」ということでした。

深見真 海外が舞台にできると聞いたときは「やったー!」と思いましたね。話が派手にできるな、と。

「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」の舞台は海外。

虚淵 そうそう、とにかく1期ではできなかった派手なことをやろうと思いましたね。1期のときは「武器がない社会での犯罪」というのが作品の縛りとしてあったんですよ。だから火薬を使った銃器がぜんぜん出せなかった。犯罪者が釘打ち銃みたいなのばかり使うという。

深見 プロの兵士も出せなかったんですよね。

──おふたりのあいだで脚本執筆の分担はどのように?

深見 まず虚淵さんからプロットが上がってきて、自分がそれをもとに草稿を書いて、それを虚淵さんが仕上げる。そして、あとは監督と虚淵さんがキャッチボールしていく。1期のシナリオ作業と同じ流れですね。

──劇場版の脚本執筆時に特に注意したことは?

深見 テーマに関する部分は虚淵さんが書いたほうがやっぱりいいので、大事なところは割と自分の方では省いて書いておく感じにしました。クライマックスは虚淵さんにお任せするというか。逆に虚淵さんから「今回はミリタリーをやっていいよ」といわれたので、アクションについてはかなり自由にやらせてもらった感じです。ミリタリー、大好きなんで。劇場版は戦車も出していいし、プロの兵士も出していいし、うれしかったですね。

傭兵団のリーダー、デスモンド・ルタガンダ。

虚淵 あとは文学や哲学の引用は深見さんですよね。

深見 最初は入れない予定だったんです。1期で散々やったから、劇場版ではもういいだろうと思って。そうしたら塩谷(直義)監督から「やってほしい」といわれて。

頭がいいやつほど強いという世界観

──今回はプルーストとフランツ・ファノンが引用されますね。その狙いは?

深見 プルーストは1期からの繋がりを見せる意味で登場させました。ファノンは、植民地で好き勝手やっているアフリカン・アメリカンの傭兵が引用するということで、サイードとどっちにしようか迷ったんですが、こちらに。でも、そこまで深い意味はないです(笑)。

虚淵 理論武装した悪党にしたい、というのはありましたけどね。

深見 「PSYCHO-PASS サイコパス」は頭がいいやつほど強いという世界観なんですよね。

インテリで紙の本を好むデスモンド・ルタガンダ。

虚淵 インテリほど社会からはみ出す、知識が人を幸せにするものではないとみなされている世界なんです。そこで知識に傾倒してしまうのは、犯罪者だったり、社会からドロップアウトした一匹狼だったり。

深見 カッコいいですねえ(笑)。

虚淵 実は教育も酷いことになっていて、歴史の授業もない世界ですからね。そういうふうに、知識に蓋をすることで人が幸せになっている理想郷という位置づけではあります。

深見 シビュラシステムにとって有用な知識と、そうじゃない知識が分けられているんですかね。

虚淵 そういうことですね。分けられちゃった時点で、実はそれは知識でもなんでもないわけだから。

SFはちょっと啓蒙的なところがあってナンボ

──殴り合いの最中に「ポストコロニアル」なんて単語が飛び出すのは、まさにこの作品ならではの面白いテイストだと思いました。

深見 ははは(笑)。あとはその、引用って、作品をSFっぽくするためには必要なところなんですよね。なんというか、SFにはちょっと啓蒙的なところがあってナンボというところがあるじゃないですか。日本だと、特に。加えて、本広(克行)総監督が押井守さんの大ファンなわけですよ。

虚淵 ああー、はいはい。

深見 「PSYCHO-PASS サイコパス」は、押井守ファンの本広総監督の作品で、しかもProduction I.G作品でもある。そうとなると、「攻殻機動隊」シリーズというのは、意識しないわけにはいかない。「攻殻」そのものにはしないという大前提の上で、少しずらしつつ、意識しつつ、SF的な文脈で気の利いたことをやりたい。そういうことを考えるわけです。

──なるほど。

深見 ……まあでも、どうして引用するのかといったら、やっぱり頭いいやつってカッコいい、ってことですよね(笑)。

虚淵 箕も蓋もないけど、実際、それに尽きる(苦笑)。

「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」より、ニコラス・ウォン。

深見 ハリウッド映画でも、すごく悪い奴が突然気の利いた文学を引用するとかあるじゃないですか。「オブリビオン」でも、ディケンズの「二都物語」からの引用が印象的でしたし。「PSYCHO-PASS サイコパス」の引用が特殊なのではなくて、逆に日本の作品の中で、引用することが少なすぎるんだと思うんですよね。

虚淵 ハリウッド映画は、アメリカの文脈的に「頭良いやつほどムカつく!」というのがあるんじゃないかな。「こいつ、俺のわかんないことを話しているぞ。ムカッ!」みたいな(笑)。

深見 ああ、なるほど。クリストファー・ノーランはその感じを描くのがいつも上手いですよね。

虚淵 「インターステラー」のインテリ描写とか、「お前ら、本当にインテリ嫌いだろ!!」って思うよねえ(笑)。そういうインテリに対する思いって、そんなに日本にはない気が。インテリの存在感が薄い。

深見 単純にカッコいいから、もっと引用したらいいと思うんです。「PSYCHO-PASS サイコパス」はそういう意味じゃ、ほかのアニメと毛色が違いますよね。

虚淵 まあ、そもそもアニメを作ってなかった人たちが発起人のアニメだからね。深見さんしかり、本広さんしかり。そういう意味では異色の作品になるべくしてなったんだと思います。

劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス / 2015年1月9日(金)全国公開 R15+指定
劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス / 2015年1月9日(金)全国公開 R15+指定

世界は禁断の平和(システム)に手を伸ばす。2116年──常守朱が厚生省公安局刑事課に配属されて約4年が過ぎた。日本政府はついに世界へシビュラシステムとドローンの輸出を開始する。長期の内戦状態下にあったSEAUn(東南アジア連合 / シーアン)のハン議長は、首都シャンバラフロートにシビュラシステムを採用。銃弾が飛び交う紛争地帯の中心部にありながらも、海上都市シャンバラフロートはつかの間の平和を手に入れることに成功した。シビュラシステムの実験は上手くいっている──ように見えた。

そのとき、日本に武装した密入国者が侵入する。彼らは日本の警備体制を知り尽くしており、シビュラシステムの監視を潜り抜けてテロ行為に及ぼうとしていた。シビュラシステム施行以後、前代未聞の密入国事件に、監視官・常守朱は公安局刑事課一係を率いて出動。その密入国者たちと対峙する。やがて、そのテロリストたちの侵入を手引きしているらしき人物が浮上する。その人物は── 公安局刑事課一係の執行官だった男。そして常守朱のかつての仲間。

朱は単身、シャンバラフロートへ捜査に向かう。自分が信じていた男の真意を知るために。
男の信じる正義を見定めるために。

キャスト

花澤香菜、野島健児、佐倉綾音、伊藤静、櫻井孝宏、沢城みゆき、東地宏樹、山路和弘、日高のり子、神谷浩史、石塚運昇、関智一

スタッフ
  • 総監督:本広克行
  • 監督:塩谷直義
  • 脚本:虚淵玄(ニトロプラス)、深見真
  • キャラクター原案:天野明
  • キャラクターデザイン:恩田尚之、浅野恭司、青木康治
  • 総作画監督:恩田尚之
  • 色彩設計:上野詠美子
  • 美術監督:草森秀一
  • 3D監督:三村厚史
  • 撮影監督:荒井栄児
  • 編集:村上義典
  • 音楽:菅野祐悟
  • 音響監督:岩浪美和
  • 主題歌:凛として時雨「Who What Who What」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
  • アニメーション制作:Production I.G
  • 制作:サイコパス製作委員会
  • 配給:東宝映像事業部
虚淵玄(ウロブチゲン)

ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。PCゲーム「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」で企画、シナリオ、ディレクションを務めデビュー。「Fate/Zero」(原作小説)、アニメ「ブラスレイター」(シリーズ構成・脚本)、「魔法少女まどか☆マギカ」(シリーズ構成・脚本)、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(脚本)など代表作多数。

深見真(フカミマコト)

小説家、マンガ原作者。アニメの脚本を担当するのは「PSYCHO-PASS サイコパス」が初めて。同作のノベライズも執筆している。小説の代表作に「ヤングガン・カルナバル」シリーズをはじめ、「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」「GENEZ」「疾走する思春期のパラベラム」「シークレット・ハニー」など多数。